I ―スクワッド・ジャム―

第六章「戦闘開始」 ③

 ことここに至ってようやく、全日本マシンガンラバーズのみなさんも完全に理解しました。

 M60E3使いの男が、残った仲間に向けてさけびます。


げきだ! 後ろからたれてるぞ!」


 それが彼の、SJ最後の言葉になりました。

 仲間は見ました。り向いた彼のけんだんがんが命中し、たった1発で即死させるのを。

 彼には、自分に向かって延びるあざやかなバレット・ラインが見えていたはずです。しかし残念ながら、ひょいとけられるほど反応速度は高くありませんでした。


かくれろ!」

「うひゃ!」


 ミニミ使いとネゲヴ使いの二人は、せていたれきの山の向こうへとジャンプしました。



「ん? どうしたの? え?」


 急に自分の周りが静かになったので、体育座りで縮こまっていたレンが顔を上げました。あまりに急なせいじやくなので、一瞬、自分は撃たれて死んだのかと思いました。ここが天国、ではなく、死んで飛ばされる待機エリアかと。

 その独り言に、


「都市部にいたチームが、かれの銃の有効射程までやっと来たんだ。3発、別の銃声が聞こえただろう? 助かったな」


 エムの冷静な、そしてほんの少しうれしそうな声が答えました。続いて、


「今からそっちに行く。ちがえて撃つなよ」


 そんな声。

 やっとかー! と心の中で叫びながら、レンは待ちました。

 やがて、暗い森の中にうごめく、めいさいふく姿のきよたいが分かりました。

 急に静かになった世界で、エムはレンの10メートルひだりどなりの巨木のかげにたどり着くと、EBRのバイポッドを手際よく展開し、構えながら土の上に伏せました。

 ふくしや体勢でM14・EBRのスコープをのぞくエムに、


「つまり……、どういうこと?」


 ようやくホッとしたレンが聞いて、ようやくエムは答えてくれます。


「さっきはあえて言わなかったが、スキャン時、マシンガン連中以外にもう一チーム。せんとうに参加できるきよにいた。さらに南、都市中心部だ」

「なるほど……。その人達が急いでやって来て、わたしを撃っていた人達を背後からおそったと」

「そうだ。マシンガン連中は、スキャンを見てまだきよがあると思って油断したか、それとも、近すぎるレンにおどろいて、そもそもまったくのがしたか。どちらにせよ、うかつだったな」

「じゃ、じゃあ! エムさんは、それを分かっていて、わたしをおとりに使ったってこと?」


 レンは、やや立腹しつつ聞きましたが、


「そうだ」


 あっさりとこうていされては、返す言葉もありません。

 エムは、ごそごそとふところを探ると、


「受け取れ」


 レンに向けて何かを投げました。

 大きさからグレネードか? と身構えたレンですが、仲間をこうげきする理由が全然ないのですぐさま考え直しました。見事なコントロールで自分に投げられたそれを、こちらも見事に、左手だけで受け止めました。

 それは、小型の単眼鏡、つまり片目用の望遠鏡です。これも以前、ピトフーイに借りて使ったことがあります。レーザーによる測距機能もついた便利なアイテムで、買うとかなり高いはずです。


「持っていなかったな? 使え。しばらくここで様子を見る」

「あ、ありがと」


 レンはそれを右手に持ちえると、自分の利き目である右目にあてがいつつ、こっそりとゆっくりと、顔を木のかげから出しました。

 今自分の近くにはバレット・ラインが見えないので、少なくとも今、マシンガン連中からたれる心配はなさそうです。

 もしその向こうの敵からねらわれていたら──、敵が分からない状態でのしよだんはバレット・ラインが発生しないのでもうどうしようもないのですが、かれも近くにいる敵をまずたおすだろうと考えました。次のサテライト・スキャンまではまだ5分以上あるはずですし、さらに別の敵がこっちにやってくる可能性も低いですし。


「マシンガンろうは五人。三人はもう死んでる」


 M14・EBRのスコープでじようきようを認識したエムの言葉通り、レンズしのレンの目に、【Dead】タグをきらめかしている三人の男達が映りました。試しにボタンをして距離を測ると、〝197M〟、と表示されました。

 その近くに、れきの山の前に、生き残っている二人がいます。後ろからの敵をけいかいしているので、今はレン達に全身をさらしています。


「あの二人、今ならこっちを全然見てないよ。エムさんゆうで撃てない?」


 レンがたずねました。200メートルでエムのM14・EBRなら、必中距離のはずです。むしろ自分がP90でって殺してやりたいくらいです。さっきのこわい思いの仕返しに。


「だめだ。今は、こちらからはこうげきしない。命令あるまで絶対に撃つな」


 どして? と聞きたかったですが、レンはこらえました。


「来たぞ……。左側の大通りだ。逆さになったバスのかげ


 エムの指示通り、レンは左へとレンズを向けます。連中から150メートルほどはなれた場所で大きなバスがひっくり返ってつぶれていて、そのわきうごめひとかげがありました。


「おおっ!」


 レンはこうふんしつつ、指の操作で倍率を上げました。ビデオカメラのようになめらかにズームしていき、ピントも自動で合って、かれしようさいが分かってきます。

 新たな敵チームは四人。黒とげ茶を基調にしためいさいふくは、チームらしく全員おそろい。頭には同じ迷彩がらのヘルメット。さらには《バラクラバ》と呼ばれる、銀行ごうとうのような黒い目出し帽をかぶっていて、顔は一切分かりません。

 四人はたて一列で移動中で、先頭の男は黒くスリムなライフルを構えながら、そのじゆうこうをまるでらさずに、滑らかに進んでいきます。

 続く後ろの三人は、見たところ同じ銃を持っていて、やはり構えながら2メートルほどのきよで付かず離れず続きます。最後の一人だけが、時々り返って後方をけいかいしていました。

 レンにはライフルの種類が分からないのですが、その心理をんでくれたのか、


「《》だな。7.62ミリ。くうてい部隊用のショートバージョンだ」


 エムの声が聞こえました。

 FALはセミオートしやげきの命中率と7.62ミリだんりよくが共に高く、プレイヤーには人気があります。四人の男達が持っているのは、そのFALの空挺部隊バージョン。折りたたみ式ストックに、短めの銃身で使いやすくしたモデルです。

 お揃いの銃にお揃いのふくめんと迷彩服の四人組は、バスの脇から今度はれきの山の脇へ、そしてまた次のはいしやの陰へと、よどみない動きで進んでいきました。

 しやへいぶつの角から出る前に、先頭にいる男が何かを足下に差し出しているのが見えて、レンは疑問に思ってズームしてみると、それは棒の先についた小さな鏡でした。

 なるほど、曲がる前にああやって確認するのかと、レンは感心しました。

 四人の進む先はもちろん、仲間を失いほうに暮れて、先ほどからまったく動きのないマシンガンの二人がいる場所。


「覆面連中、いい動きだな。れんけいが取れてる」


 感想をらしたエムに、単眼鏡をのぞきながらレンがたずねます。


「あのチームは、あの四人だけ?」

「いや。もっといる」

「どして? 見えるの? どこ?」

「まだ見つけられないが、アイツらは二人のいる場所に向けて、ほぼ最短で、しっかりと身をかくしながら進んでいる。だれかが、ビルの上から四人に指示を出しているんだ。おそらくあと二名、ビルのまどから見ている。ちがいなくげきじゆうを持っている。マシンガンの三人をったのも、そいつらだ」


 うひゃ、とらしながら、レンは倍率を下げていきました。

刊行シリーズ

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ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
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