ことここに至ってようやく、全日本マシンガンラバーズの皆さんも完全に理解しました。
M60E3使いの男が、残った仲間に向けて叫びます。
「狙撃だ! 後ろから撃たれてるぞ!」
それが彼の、SJ最後の言葉になりました。
仲間は見ました。振り向いた彼の眉間に弾丸が命中し、たった1発で即死させるのを。
彼には、自分に向かって延びる鮮やかなバレット・ラインが見えていたはずです。しかし残念ながら、ひょいと避けられるほど反応速度は高くありませんでした。
「隠れろ!」
「うひゃ!」
ミニミ使いとネゲヴ使いの二人は、伏せていた瓦礫の山の向こうへとジャンプしました。
「ん? どうしたの? え?」
急に自分の周りが静かになったので、体育座りで縮こまっていたレンが顔を上げました。あまりに急な静寂なので、一瞬、自分は撃たれて死んだのかと思いました。ここが天国、ではなく、死んで飛ばされる待機エリアかと。
その独り言に、
「都市部にいたチームが、彼等の銃の有効射程までやっと来たんだ。3発、別の銃声が聞こえただろう? 助かったな」
エムの冷静な、そしてほんの少し嬉しそうな声が答えました。続いて、
「今からそっちに行く。間違えて撃つなよ」
そんな声。
やっとかー! と心の中で叫びながら、レンは待ちました。
やがて、暗い森の中に蠢く、迷彩服姿の巨体が分かりました。
急に静かになった世界で、エムはレンの10メートル左隣の巨木の陰にたどり着くと、EBRのバイポッドを手際よく展開し、構えながら土の上に伏せました。
伏射体勢でM14・EBRのスコープを覗くエムに、
「つまり……、どういうこと?」
ようやくホッとしたレンが聞いて、ようやくエムは答えてくれます。
「さっきはあえて言わなかったが、スキャン時、マシンガン連中以外にもう一チーム。戦闘に参加できる距離にいた。さらに南、都市中心部だ」
「なるほど……。その人達が急いでやって来て、わたしを撃っていた人達を背後から襲ったと」
「そうだ。マシンガン連中は、スキャンを見てまだ距離があると思って油断したか、それとも、近すぎるレンに驚いて、そもそもまったく見逃したか。どちらにせよ、うかつだったな」
「じゃ、じゃあ! エムさんは、それを分かっていて、わたしを囮に使ったってこと?」
レンは、やや立腹しつつ聞きましたが、
「そうだ」
あっさりと肯定されては、返す言葉もありません。
エムは、ごそごそと懐を探ると、
「受け取れ」
レンに向けて何かを投げました。
大きさからグレネードか? と身構えたレンですが、仲間を攻撃する理由が全然ないのですぐさま考え直しました。見事なコントロールで自分に投げられたそれを、こちらも見事に、左手だけで受け止めました。
それは、小型の単眼鏡、つまり片目用の望遠鏡です。これも以前、ピトフーイに借りて使ったことがあります。レーザーによる測距機能もついた便利なアイテムで、買うとかなり高いはずです。
「持っていなかったな? 使え。しばらくここで様子を見る」
「あ、ありがと」
レンはそれを右手に持ち替えると、自分の利き目である右目にあてがいつつ、こっそりとゆっくりと、顔を木の陰から出しました。
今自分の近くにはバレット・ラインが見えないので、少なくとも今、マシンガン連中から撃たれる心配はなさそうです。
もしその向こうの敵から狙われていたら──、敵が分からない状態での初弾はバレット・ラインが発生しないのでもうどうしようもないのですが、彼等も近くにいる敵をまず倒すだろうと考えました。次のサテライト・スキャンまではまだ5分以上あるはずですし、さらに別の敵がこっちにやってくる可能性も低いですし。
「マシンガン野郎は五人。三人はもう死んでる」
M14・EBRのスコープで状況を認識したエムの言葉通り、レンズ越しのレンの目に、【Dead】タグを煌めかしている三人の男達が映りました。試しにボタンを押して距離を測ると、〝197M〟、と表示されました。
その近くに、瓦礫の山の前に、生き残っている二人がいます。後ろからの敵を警戒しているので、今はレン達に全身を晒しています。
「あの二人、今ならこっちを全然見てないよ。エムさん余裕で撃てない?」
レンが訊ねました。200メートルでエムのM14・EBRなら、必中距離のはずです。むしろ自分がP90で撃って殺してやりたいくらいです。さっきの怖い思いの仕返しに。
「だめだ。今は、こちらからは攻撃しない。命令あるまで絶対に撃つな」
どして? と聞きたかったですが、レンはこらえました。
「来たぞ……。左側の大通りだ。逆さになったバスの陰」
エムの指示通り、レンは左へとレンズを向けます。連中から150メートルほど離れた場所で大きなバスがひっくり返ってつぶれていて、その脇で蠢く人影がありました。
「おおっ!」
レンは興奮しつつ、指の操作で倍率を上げました。ビデオカメラのように滑らかにズームしていき、ピントも自動で合って、彼等の詳細が分かってきます。
新たな敵チームは四人。黒と焦げ茶を基調にした迷彩服は、チームらしく全員お揃い。頭には同じ迷彩柄のヘルメット。さらには《バラクラバ》と呼ばれる、銀行強盗のような黒い目出し帽を被っていて、顔は一切分かりません。
四人は縦一列で移動中で、先頭の男は黒くスリムなライフルを構えながら、その銃口をまるで揺らさずに、滑らかに進んでいきます。
続く後ろの三人は、見たところ同じ銃を持っていて、やはり構えながら2メートルほどの距離で付かず離れず続きます。最後の一人だけが、時々振り返って後方を警戒していました。
レンにはライフルの種類が分からないのですが、その心理を汲んでくれたのか、
「《FAL》だな。7.62ミリ。空挺部隊用のショートバージョンだ」
エムの声が聞こえました。
FALはセミオート射撃の命中率と7.62ミリ弾の威力が共に高く、プレイヤーには人気があります。四人の男達が持っているのは、そのFALの空挺部隊バージョン。折りたたみ式ストックに、短めの銃身で使いやすくしたモデルです。
お揃いの銃にお揃いの覆面と迷彩服の四人組は、バスの脇から今度は瓦礫の山の脇へ、そしてまた次の廃車の陰へと、よどみない動きで進んでいきました。
遮蔽物の角から出る前に、先頭にいる男が何かを足下に差し出しているのが見えて、レンは疑問に思ってズームしてみると、それは棒の先についた小さな鏡でした。
なるほど、曲がる前にああやって確認するのかと、レンは感心しました。
四人の進む先はもちろん、仲間を失い途方に暮れて、先ほどからまったく動きのないマシンガンの二人がいる場所。
「覆面連中、いい動きだな。連携が取れてる」
感想を漏らしたエムに、単眼鏡を覗きながらレンが訊ねます。
「あのチームは、あの四人だけ?」
「いや。もっといる」
「どして? 見えるの? どこ?」
「まだ見つけられないが、アイツらは二人のいる場所に向けて、ほぼ最短で、しっかりと身を隠しながら進んでいる。誰かが、ビルの上から四人に指示を出しているんだ。恐らくあと二名、ビルの窓から見ている。間違いなく狙撃銃を持っている。マシンガンの三人を撃ったのも、そいつらだ」
うひゃ、と漏らしながら、レンは倍率を下げていきました。