14時17分。
二回目のサテライト・スキャンまで3分を切りました。この森の外れにいられるのも、それまでです。
「えー? なにそれ! ずるくない? ──遊びにプロの出場禁止!」
凄腕の六人が戦闘のプロとの予想を聞いて、レンは立腹しました。
エムは何かを考えていたようで、数秒後に答えます。
「別に禁止のルールはなかったはずだ。正式にか自主的にかは分からないが、GGOを訓練の一部に取り入れていて、腕試しにSJに出てきたとしてもおかしくはない。そんなのは、フルダイブ技術ができたときから想定されていたことだ」
冷静すぎるエムの言葉を聞いて、まあ、それもそうかと考え直したレンは、考えをSJに戻すことにしました。ゲーム中くらい、ゲームのことを考えねばと。
「どうする? 今、一番近いチームはあの人達だよ? 倒さないと、都市部に陣取れないよ? あんなの相手にして、勝てる?」
エムは即答します。
「無理だな」
「そんなあっさり!」
「俺達が六人でも勝てるか分からない相手だ。普通にやって二人で勝つなんて、まず無理だ。さっき一人減らせていたとしても……、まあ同じだろうな」
「じゃあどうするの? そうだ! ここで陣取る? ほら、高速道路を横切るチームがいたら、こっちからでも撃てそうだから!」
「それは考えたが、やはり不利だ。向こうにはスナイパーがいる。頭を出したらすぐに撃たれる。その間に、西側から森を抜けてくる敵チームも出てくるかもしれない」
次々に提案を否定されたレンですが、返答がいちいち納得できるので腹も立ちませんでした。
森の中で警戒を続け、時計は14時19分。もう次のサテライト・スキャンまで1分を切りました。
「どうするの? これからどうするの?」
ゲーム開始20分で打つ手なしかと、軽く慌てるレンに、
「運はいい方か? これまでの人生、幸運に恵まれてきたか?」
エムは突然そんな質問。
「はい? どうだろ……」
身長に関しては幸運はゼロに近いけど、それ以外は、裕福な家庭に生まれ、優しい家族に囲まれ、何一つ不自由せずに育った身を思うと、
「いや、うん。わたしは、ラッキーだったよ。ラッキーガールだよ!」
多少の強がり混じりでも、そう言えました。
「いいだろう。その強運に賭ける。次のスキャンはここでチェックして、運がよければ、すぐに高速道路に向けて飛び出す。準備をしておけ」
「わ、分かった、理由を聞く時間ある?」
残り40秒。
「ああ。これは予想だが、さっきの派手な戦闘音で、都市部に別のチームがだいぶ集まってるだろう。そうすれば、あのプロ連中に近いチームがいて、スキャン直後に戦闘になる可能性が高い。それに紛れて、一気に高速道路を走り抜ける。都市部の潜伏は諦めて、まずは中央の居住区へ。次のスキャン後、そこから荒野に」
「なるほど……。分かった」
残り20秒。
「スキャンの点は、全滅チームの方を数えるんだ。生き残りチームは、場所を頭に叩き込め。もちろん、遠い場所のは無視していい。10分以内に接触しそうな、3キロ以内の敵が脅威になる」
言いながらエムは身を起こすと、サテライト・スキャン端末を取り出しました。レンもそれに続きました。そして画面を点灯。
14時20分。
SJ二回目のサテライト・スキャンが始まりました。
レンにとっては初めて見るスキャンです。画面を睨んで、精神を集中させました。だいたいでいいので、相手の場所が知りたいです。もうあんな、敵がどこにいるか分からない怖い行軍はごめんです。
今度の人工衛星は北西からやって来たのか、端末画面の地図の左上側から、ポツポツと点がついていきます。しかもその速度が速いので、スキャンが終わるまでの時間もその分短いでしょう。
「えっと、全滅チームは、と……」
SJから退場したチームは、灰色の目立たない点で表示されます。レンはそれを数えながら、光っている点の位置を頭に叩き込んでいきました。
北西の草原、ここでは全滅チームは一つ。その下の沼地にも一つ。森の中には、最初に撃ち合ったチームは全滅は免れたようで、ありませんでした。砂漠と荒野には、視界が開けているからか、どうやらかなりの戦闘があったようで、合計四つ。
今、南東側の端まで、完全にスキャンされました。
森と高速道路の境で光っている点は、触れて名前を確かめるまでもなく自分達です。森の中にはあと二つの点がありましたが、幸い、3キロは離れている場所でした。
都市部北端にある灰色の点は、もちろんマシンガン連中。つまりは、わずか20分で七チームがすでにバトルロイヤルから脱落、生き残りは十六チームということになります。
もちろん、チーム全員が無傷で生き残っているか、それともたった一人だけなのかは、まったく分かりません。
さっき恐ろしい実力を見せたプロ連中はというと──、
やはり都市部にいました。自分達から1キロ半ほど離れた場所。
ビルと重なっているので、おそらくは高い位置でしょう。ラペリングした二人が全速力で駆けて、素早く別のビルに陣取ったに違いありません。視界のいい場所で腕のいいスナイパーが目を光らせ、地上にいる四人の仲間と連携して戦う──、鉄壁とも言える作戦です。
そして、
「あっ!」
レンは思わず大声を上げました。
そのプロ連中の南隣のマス目の中に一つ、その西隣にさらに二つ、光点があるではありませんか。
「エムさん! これ!」
「運がいいな。俺達は。そして──、連中は運がないな」
レンが顔を上げると、珍しく、エムは微笑んでいました。
「じゃあ!」
「ああ。プロ連中のお相手は不運な三チームに任せて、俺達は走るぞ。ポンチョはもう捨てていい」
スキャンが終わるのも待たずに、二人は端末をしまいました。
レンは、被っていたポンチョから頭を抜いて、後ろに放り投げました。全身ピンクの出現です。エムも、中腰の体勢になってM14・EBRのバイポッドを畳み、森から飛び出す準備を終えました。
木が守ってくれた森から、再び危険な場所へと飛び出さねばなりません。
「俺の指示で行け。まだだ──」
ごくり、とレンは唾を飲んで、P90を握る手に力を込めました。
次の瞬間、都市部から銃声が聞こえ出しました。
軽い射撃音と重い射撃音のミックス。かなり派手な戦闘の開始です。ほぼ間違いなく、あの三チームが接触したのでしょう。
「よし、行け! 行け! 行け!」
エムの指示で、レンは駆け出しました。森を抜けると草地の斜面へ。高速道路に向けて一目散です。
「でもこれ! あんまり先に行っちゃだめだよね?」
走りながら、レンはエムに聞いて、
「その都度、止まれと指示する」
そんな返答。
あれー? これではさっきの森の中と一緒で、先を行くわたしが露払い? まず撃たれるのはわたしじゃない?
そう気付いたレンですが、今さら戻るわけにもいきません。
まったくリーダーを囮に使うなんて、ブラック企業ならぬブラックチームだ!
そんなことを思いながら、ちっこい体で、高速道路のガードレールをひょいと跳び越えました。
「エムさん! 近くに敵は見えない」
「よし。追いつくまで待て」
レンとエムは、高速道路を走り続けます。
レンが先んじて、短距離走の選手並みの、あるいはそれ以上の速度で疾走。
敏捷性を鍛えると、まるで自転車のような速度で走ることができます。どんどん速くなっていく自分の〝最高速〟に、レンは酔いしれたものです。