I ―スクワッド・ジャム―

第七章「対プロ戦」 ①

 14時17分。

 二回目のサテライト・スキャンまで3分を切りました。この森の外れにいられるのも、それまでです。


「えー? なにそれ! ずるくない? ──遊びにプロの出場禁止!」


 すごうでの六人がせんとうのプロとの予想を聞いて、レンは立腹しました。

 エムは何かを考えていたようで、数秒後に答えます。


「別に禁止のルールはなかったはずだ。正式にか自主的にかは分からないが、GGOを訓練の一部に取り入れていて、腕試しにSJに出てきたとしてもおかしくはない。そんなのは、フルダイブ技術ができたときから想定されていたことだ」


 冷静すぎるエムの言葉を聞いて、まあ、それもそうかと考え直したレンは、考えをSJにもどすことにしました。ゲーム中くらい、ゲームのことを考えねばと。


「どうする? 今、一番近いチームはあの人達だよ? たおさないと、都市部にじんれないよ? あんなの相手にして、勝てる?」


 エムはそくとうします。


「無理だな」

「そんなあっさり!」

おれ達が六人でも勝てるか分からない相手だ。つうにやって二人で勝つなんて、まず無理だ。さっき一人減らせていたとしても……、まあ同じだろうな」

「じゃあどうするの? そうだ! ここで陣取る? ほら、高速道路を横切るチームがいたら、こっちからでもてそうだから!」

「それは考えたが、やはり不利だ。向こうにはスナイパーがいる。頭を出したらすぐに撃たれる。その間に、西側から森をけてくる敵チームも出てくるかもしれない」


 次々に提案をていされたレンですが、返答がいちいち納得できるので腹も立ちませんでした。

 森の中でけいかいを続け、時計は14時19分。もう次のサテライト・スキャンまで1分を切りました。


「どうするの? これからどうするの?」


 ゲーム開始20分で打つ手なしかと、軽くあわてるレンに、


「運はいい方か? これまでの人生、幸運に恵まれてきたか?」


 エムはとつぜんそんな質問。


「はい? どうだろ……」


 身長に関しては幸運はゼロに近いけど、それ以外は、ゆうふくな家庭に生まれ、優しい家族に囲まれ、何一つ不自由せずに育った身を思うと、


「いや、うん。わたしは、ラッキーだったよ。ラッキーガールだよ!」


 多少の強がり混じりでも、そう言えました。


「いいだろう。その強運にける。次のスキャンはここでチェックして、運がよければ、すぐに高速道路に向けて飛び出す。準備をしておけ」

「わ、分かった、理由を聞く時間ある?」


 残り40秒。


「ああ。これは予想だが、さっきの派手なせんとうおんで、都市部に別のチームがだいぶ集まってるだろう。そうすれば、あのプロ連中に近いチームがいて、スキャン直後に戦闘になる可能性が高い。それにまぎれて、一気に高速道路を走りける。都市部のせんぷくあきらめて、まずは中央の居住区へ。次のスキャン後、そこからこうに」

「なるほど……。分かった」


 残り20秒。


「スキャンの点は、全滅チームの方を数えるんだ。生き残りチームは、場所を頭にたたき込め。もちろん、遠い場所のは無視していい。10分以内にせつしよくしそうな、3キロ以内の敵がきようになる」


 言いながらエムは身を起こすと、サテライト・スキャンたんまつを取り出しました。レンもそれに続きました。そして画面をてんとう

 14時20分。

 SJ二回目のサテライト・スキャンが始まりました。

 レンにとっては初めて見るスキャンです。画面をにらんで、精神を集中させました。だいたいでいいので、相手の場所が知りたいです。もうあんな、敵がどこにいるか分からないこわい行軍はごめんです。

 今度の人工衛星は北西からやって来たのか、端末画面の地図の左上側から、ポツポツと点がついていきます。しかもその速度が速いので、スキャンが終わるまでの時間もその分短いでしょう。


「えっと、全滅チームは、と……」


 SJから退場したチームは、灰色の目立たない点で表示されます。レンはそれを数えながら、光っている点の位置を頭に叩き込んでいきました。

 北西の草原、ここでは全滅チームは一つ。その下のぬまにも一つ。森の中には、最初にち合ったチームは全滅はまぬがれたようで、ありませんでした。ばくと荒野には、視界が開けているからか、どうやらかなりの戦闘があったようで、合計四つ。

 今、南東側のはしまで、完全にスキャンされました。

 森と高速道路の境で光っている点は、れて名前を確かめるまでもなく自分達です。森の中にはあと二つの点がありましたが、幸い、3キロははなれている場所でした。

 都市部ほくたんにある灰色の点は、もちろんマシンガン連中。つまりは、わずか20分で七チームがすでにバトルロイヤルからだつらく、生き残りは十六チームということになります。

 もちろん、チーム全員が無傷で生き残っているか、それともたった一人だけなのかは、まったく分かりません。

 さっきおそろしい実力を見せたプロ連中はというと──、

 やはり都市部にいました。自分達から1キロ半ほど離れた場所。

 ビルと重なっているので、おそらくは高い位置でしょう。ラペリングした二人が全速力でけて、素早く別のビルにじんったにちがいありません。視界のいい場所でうでのいいスナイパーが目を光らせ、地上にいる四人の仲間とれんけいして戦う──、てつぺきとも言える作戦です。

 そして、


「あっ!」


 レンは思わず大声を上げました。

 そのプロ連中のみなみどなりのマス目の中に一つ、その西隣にさらに二つ、光点があるではありませんか。


「エムさん! これ!」

「運がいいな。おれ達は。そして──、連中は運がないな」


 レンが顔を上げると、めずらしく、エムは微笑ほほえんでいました。


「じゃあ!」

「ああ。プロ連中のお相手は不運な三チームに任せて、俺達は走るぞ。ポンチョはもう捨てていい」



 スキャンが終わるのも待たずに、二人はたんまつをしまいました。

 レンは、かぶっていたポンチョから頭をいて、後ろに放り投げました。全身ピンクの出現です。エムも、ちゆうごしの体勢になってM14・EBRのバイポッドをたたみ、森から飛び出す準備を終えました。

 木が守ってくれた森から、再び危険な場所へと飛び出さねばなりません。


「俺の指示で行け。まだだ──」


 ごくり、とレンはつばを飲んで、P90をにぎる手に力を込めました。

 次のしゆんかん、都市部からじゆうせいが聞こえ出しました。

 軽いしやげきおんと重い射撃音のミックス。かなり派手なせんとうの開始です。ほぼ間違いなく、あの三チームがせつしよくしたのでしょう。


「よし、行け! 行け! 行け!」


 エムの指示で、レンはけ出しました。森をけると草地のしやめんへ。高速道路に向けて一目散です。


「でもこれ! あんまり先に行っちゃだめだよね?」


 走りながら、レンはエムに聞いて、


「その都度、止まれと指示する」


 そんな返答。

 あれー? これではさっきの森の中といつしよで、先を行くわたしがつゆはらい? まずたれるのはわたしじゃない?

 そう気付いたレンですが、今さらもどるわけにもいきません。

 まったくリーダーをおとりに使うなんて、ブラックぎようならぬブラックチームだ!

 そんなことを思いながら、ちっこい体で、高速道路のガードレールをひょいとえました。



「エムさん! 近くに敵は見えない」

「よし。追いつくまで待て」


 レンとエムは、高速道路を走り続けます。

 レンが先んじて、たんきよそうの選手並みの、あるいはそれ以上の速度でしつそう

 びんしようせいきたえると、まるで自転車のような速度で走ることができます。どんどん速くなっていく自分の〝最高速〟に、レンはいしれたものです。

刊行シリーズ

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ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXIII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈下〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXII ―フィフス・スクワッド・ジャム〈中〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインXI ―フィフス・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
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ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインII ―セカンド・スクワッド・ジャム〈上〉―の書影
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンラインI ―スクワッド・ジャム―の書影