I ―スクワッド・ジャム―

第七章「対プロ戦」 ②

 右側は森、左は都市部。見えるはんに敵がいないことをけいかいしつつ、はいしやかげで後ろから来るエムを待ちます。

 森から出てきて初めて分かりましたが、このフィールドには風がまったくいていませんでした。これは、スナイパーをかなり有利にします。

 エムはレンよりずっと足がおそいですが、それでも全速力でコンクリートをってやって来ます。きよたいかくせる場所にすべり込むと、


「よし行け!」


 いつでもえんしやげきができるようにM14・EBRを構えながら命令。

 走っているちゆう、森の上や都市部からは姿が丸見えだったでしょうが、二人に向けて放たれるたまはありません。

 その代わり、派手なせんとうおんがずっと鳴りひびいていました。


          *     *     *


 時間は少しもどって14時20分。二回目のスキャンの直前──、

 都市部では、エムの予想通りのことが起きていました。

 先ほどの、主に全日本マシンガンラバーズが立てた派手なせんとうおんを聞いて、

〝どんなやつらか分からないが、あれだけのたまったのなら、生き残っているチームの方も無事ではないだろう〟

 まったく同じように考えたきんりんの三チームが、戦闘音に吸い寄せられるように、都市部に集まってきていたのです。もちろん、片方がまったく無傷で、しかもすごうでであることなど知るわけがありません。

 そして二回目のスキャンが始まった直後──、


「え?」「うそっ!」


 同じマスにいて、それもわずか200メートルほどしかはなれていなかった二チームは心底おどろきました。近づいていくルートがちがったのでまだ目視していませんでしたが、本当にすぐ近くに敵がいたのです。

 このしゆんかんに、二チームの行動は、見事に分かれました。


 片方のチームは、つなぎの戦闘服を着込み、ひだりうでにスズメバチをモチーフにしたエンブレムを付けていました。

 メインアームは《H&K MP5》や《ワルサー MPL》などサブマシンガン主体で、びんしようせい重視の素早いキャラクターばかりの一団です。

 かれは、


「ああもうやったるぜ! 全員全力でっ込めえええ!」

「おっしゃあ!」「とつげきぃぃ!」「ラジャー!」「やったらあ!」「おかーさーん!」


 ここが死に場所だと言わんばかりに、六人全員で楽しそうな突撃を始めました。太い通りをもうダッシュして、曲がった先にいるだろう相手に向けて。

 もう一方のチームは、服装はバラバラ。チームのアイコンとして、全員が首に緑色のスカーフを巻いていました。

 彼等は、残念ながらそつけつ即断ができませんでした。


「ちけーよ! に、げようぜ!」

「いや、ななめ下にももう一チームいる! ビルの上にも! 逃げる方向なんてないよ! 突っ込んでむかえ撃つほうが──」

「バカ! はさまれたらどうする? 建物の中で身をかくしてだな──」

「室内戦闘なんてやりたくねえ!」

「お前らケンカするな! リーダーの指示に従え」


 とそこまで言い争った瞬間に、通りの向こうから突っ込んできたチームにじゆうだんを浴びせかけられました。

 サブマシンガンは連射力にすぐれていますが、使っているのが主にけんじゆうだんなので、与えられるダメージはそれほど多くありません。

 不意打ちで死亡したのは、運悪く二人からいつせいたれた一名のみ。

 だんはしたが死ななかった残りの五人は、もはやげ場はないとかくを決めて、立ち向かっていくようにもうはんげきを開始しました。《AKM》や《M16A3》などのアサルト・ライフルが、フルオートでえ始めました。

 太い通りの上で、そうほうが100メートル以内でたいしつつ、撃ちまくり、そしてグレネードを投げ合うど派手なせんとうになりました。

 相手の位置が十分に分かっているので、背中を見せた方が負けです。身をかくすよりとにかく撃って撃ちまくって、マガジンをえてまた撃って──、

 やがて一人死に、また一人死にと、そうぜつしようもうせんが始まりました。

 空中にかぶカメラマークが、にそれをかんし続けます。


 これにほくそ笑んだのが、1キロほどはなれた場所にいた別チームの男達です。

 六人全員が赤茶のめいさいふくを着て、スターム・ルガー社製《AC─556F》というアサルト・ライフルを装備していました。

 これは、M14を5.56ミリにダウンサイズしたような《ミニ14》に、金属製折りたたみストックをつけて、フルオート射撃を可能にした銃です。コンパクトで性能もそこそこいいのですが、GGO内では人気がなくて安価な銃です。

 近くから聞こえ始めた音を聞いたチームリーダーは、


「よっしゃ! アイツらぶつかった! 回り込んで裏を取れるぞ!」


 そんな言葉。仲間が聞きます。


「ビルの上にいるやつらはどうする?」

「まだ遠い。げきで届くきよじゃねーよ。走っていれば当たらねえ」

「なるほど」

「よっし、みんな行くぞ!」


 こうしてこのチームは、漁夫の利ねらいで走り出しました。


 太い道を全力しつそうするために、れきの多い建物脇ではなく、道の真ん中を通ったので、


「南側に一チーム確認。六名。武器はAC─556F。以後これを〝デルタ〟としようする」


 ビルの中からのそうがんきようの視界に収まっていることなど、しかも名前まで付けられたことなど、気付くわけがありません。

 この距離なら、そして走っていれば狙撃は当たらないというデルタのリーダーの判断は、決してちがっていませんでした。

 1キロになると、つうげきじゆうでは当てられません。有効射程内の対物ライフルだとしても、相当のすごうでなら、というきよでしょう。きようが低いとの判断は、真っ当でした。

 ただかれが不幸だったのは、サテライト・スキャンに映らないゆうしゆうな別働隊が四人、地上にいたということです。

 バラクラバで顔をかくした男は、冷静な口調で、通信アイテムで四人に命令するのです。


「デルタは南三通りを西進中。映画館わきでこれをやり過ごし、あとを付けろ。ブラボーとチャーリーのせんとう終了まで待機」





「ああもうこんちくしょう!」


 AK─47の改良版であり、外見はよく似ているAKMを持った男は、大声で悪態をつきました。

 服装は、世界のふんそうで見かける民兵スタイル──、ジーンズにかわジャン姿、むねにはマガジンを入れたチェストリグです。首には、緑のスカーフ。

 男は、大通りに放置されたはいしやの脇で、銃を横に構えてべったりとせていました。タイヤがパンクした車の下からしか前は見えませんが、せまい視界の中に、動くものの姿はありません。


「おーい! だれか近くにいるか?」


 必死の形相でさけんでみましたが、返事がありません。

 どうやら、さっきまでいつしよに行動していた仲間はみんな、死んだか、それともげてしまっているようです。

 自分も、ヒットポイントがだいぶけずられました。っ込んできた敵チームのサブマシンガンのたまを、近距離から5発は食らったでしょう。もちろん反撃はしたので、頭に数発たたき込んで一人は確実にたおしたし、もう一人も足に食らわせてやったはずですが。

 すると、問いかけから5秒ほどってから、


「おー! 生きてるぞー!」


 そんな声が、どこからともなく返ってきました。

 男の顔に、あんの笑みがもどりました。そして、


「おお! どこだ? 無事か?」

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