ほうかごがかり 3

八話 ⑬


「おれの担当の『開かずの間』は、おれが『かかり』をサボってからは、がた君がずっと代わりにやってたんだ」


 ぼそぼそと、が言う。


「代わりのこうかん条件で、おれは〝ぎ〟をやらされることになった。がた君の〝遺書〟をデータ共有して、それを次のやつわたすことになってる。あと、おれに危険がない限り、次の担当者に協力しろってさ」


 言いながら、ノートパソコンを操作する。ようやく話が本題に入った。わずかななつとくえに、かなりの時間をろうしてしまった。

 けいたずねた。


「……〝遺書〟の中身は?」

「えーと……ちょっと待っててくれ。おれは毎週、こうしんされたっていう通知をかくにんしてるだけで、ほとんど中身は見てないんだ」


 カチカチとマウスをクリックし、ダカダカとキーボードで入力する


「できれば関わりたくなかったし、がた君が死ぬなんて、正直、どこかで信じてなかった。あんなかんぺきちようじんが死ぬなら、生き残れるやつなんかいないだろ、って、はっきり言って思ってたんだよ」

「……それは、僕もそう思ってた」

「そうだろ」


 その言葉には同意するけいは我が意を得たりとけいを指差した。


「だから、こんな〝ぎ〟なんか、起こるわけないって思ってた。正直に言って、めんどくせえなって――――うえっ!?」


 そして話しながら操作を続け、ようやく開いたらしきデータを見て、は悲鳴のような声を上げた。


「なんだよこのファイルのデカさ! 絶対テキストだけじゃないだろ!」


 今までで一番の大きな声。


「あいつ知らない間に何を保存したんだ!? おれが前に中身を見た時は、つうにテキストデータしかなかったんだぞ!?」


 おどろきともあきれともめいわくともつかない表情で画面に顔を近づけて、カチカチとファイルの中身をかくにんする。

 そして、


「あー……説明付きのさくいんみたいなやつがある。ほんとちようめんだなあいつ……」


 げんなりした顔で、せたかたを落とした。

 けいたずねた。


「どういうことだ?」

「とにかくいっぱいぎがあるってこと。今からかくにんするけど……あー……あんたがぐ時の、名指しの〝遺書〟もあるな。見るか?」

「!」


 の答えに、けいは身を乗り出した。


「見る」

「はいよ、りようかい、っと」


 はちょいちょいとファイルを開く操作をすると、ノートパソコンを回して、けいの方に画面を向けた。

 白く光る画面には、テキストが表示されていた。

 そしてそれは、まさに〝遺書〟だった。



 けい、君は僕が上げたいと思うものは、何も受け取ろうとしなかったね。

 僕はずっとそれを残念に思ってた。

 僕の残すものは、君には必要ないかもしれないけれど。

 そして僕は、君がこれをぐことを望んでいないけれど、もし君がそうなってしまった時のために、これを残す。



 せいのテキストは、そんな言葉から始まっていた。

 けいは、その前文を読んだところで、そこから先に進めなくなった。

 そんなことをせいが考えていたなど、思ってもみなかった。確かにせいは、なにかとけいえんじよしたがっていたし、けいはできるだけそれを断っていたが、しかしそれは単なるせいのほんの小さなあくへきと、けいのほんの小さな意地の、さいしようとつにすぎないと思っていたのだ。

 ほとんど、じゃれあいのようなものだと。

 せいがずっと本気だったとは、こんなにも深刻にとらえていたとは、思いもしなかった。

 ずっと見誤っていた。あの何度もかえしたえんじよの申し出と謝絶が、せいの中でこのような形になっているとは全く思っていなかった。

 けいには――――

 この短い前文の中に、強くこめられた、そんなおもい。


「なんでだよ」


 ぼうぜんと。

 けいはつぶやいた。


せい……確かに僕は、せいから物をもらいたくなかった。ほどこしはされたくなかった。でも、せいが必要なかったわけじゃない…………!」


 ぼうぜんと、さけぶように、つぶやいた。

 そして重いちんもくが、部屋に落ちる。

 そんなけいに、しかしが声をかけた。


「……あのさ、ショック受けてるところ、悪いんだけど」


 おずおずと、しかし、に。


「もし、おれが知ってる時とじようきようが変わってなかったら――――あんた、がた君から、ぐことになるぜ」

「……!?」


 が言った。

 けいは、の顔を見た。

 その視線に、は顔をせた。きくがそんな二人の様子を不安そうに、心配そうに、ただだまって見つめていた。

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