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正面玄関のガラス戸の前に立って、そのガラス戸を開け、校舎の外に踏み出す。
「……っ」
途端、黒い空と、世界に広大に広がる空気が、うねった。
校舎の外。
目の前に広がるグラウンド。
粗末な墓標が大量に立ち並んでいる墓場。そんな『ほうかご』の校舎の外は、廊下と教室に嫌な停滞が満ちている中とは違って、巨大な生き物が身をくねらせているかのように、空気が大きく動いていた。
単に〝風〟と呼ぶならば、簡単だ。
だがそう単純に呼んでしまうには、この空気のうねりは、あまりにも重く、大きく、深く遠く、そして生々しかった。
異様なまでに息づいた風が、頭上を覆って広がっている無限の虚ろな暗闇の、その一続きの一部として、巨大にのたうっている。その有り様は、どことなくだが〝根源的な不安〟と接していた。空と世界を満たしている人智を超えた巨大な闇と、『ほうかご』の外の暗闇は明らかに接しているのだ。
校舎の中は、閉塞している。
視野を狭める壁。頭上をふさぐ天井。閉じ込められた空気。そしてそれを満たしている、心を引っかく砂のようなノイズ。
外は、それら全てから解放されている。
全ての閉塞から。だが実際に外に出ると、より巨大で重たい不安に頭を押さえつけられているかのようで、広大に拓けているはずの暗闇は、そこに立つ子供たちを校舎内よりも狭い不安の中に、幽閉しようとするのだ。
そんな、途轍もなく不穏な『ほうかご』の外に。
「……」
啓と菊は無言のまま二人で踏み出して、並んで立った。
十八回目の『ほうかごがかり』。たった二人だけの『かかり』。
真っ黒な、広大でありながら閉塞した空の下に広がる、墓地と化したグラウンドと学校の敷地。そしてそれらを囲むフェンスと塀と、その開口部である校門を、二人は警戒と不安の目でぐるりと眺め、息を潜めて耳を澄ませた。
「……いないか?」
「うん、たぶん……」
二人は小さな声で、ささやき交わす。
そしてそれから校門を見据えると、隠れる場所もない中を、少しでもと身を縮めるようにして、足早に歩き出す。
学校の正門。しばし二人ぶんの足音が、夜の下に響く。
学校の玄関の明かりを出て、門の外に灯る街灯の明かりの下へ。ほどなくしてたどり着いた鉄格子の門には、ノートのページを破って作った張り紙が、経年劣化で変色したセロハンテープで貼りつけられていた。
『いる』
その文字。
そして鉄格子の向こうに、
ぞ、
と暗闇に半ば沈むように、完全に血の気の失せた何人もの子供が、互いに手を繋ぎあって、横並びに並んで立っていた。
この『ほうかご』の学校の敷地は、墨を満たしたような何も見通せない真っ暗闇に、周囲を完全に囲まれている。
そして外周に点々と存在する街灯が、今にも劣化で切れそうなぼんやりとした光を灯していて、そのじりじりとした明かりに辛うじて浮かび上がるようにして、手を繋いだ幾人もの子供が、学校の外周をぐるりと取り囲んでいるのだ。
その『輪』を切り取った一部が、鉄格子の向こうに見えていた。
闇に沈んで輪郭のにじんだ、影のような、ネガフィルムに映ったかのような子供たち。
身動きせず、生気のない、明らかに死人そのものの子供たち。暗闇の中にうつむいて、表情すらも窺えないそんな子供の亡霊の列が、鉄格子の向こうにずらりと並んでいる姿が、校門から垣間見えていた。
そして。
「……『学校わらし』」