がらァ――――――――ン、
がらぁ――――――――――――ん!!
と、その鈴が、音を立てる。
大音声が黄昏に響きわたる。それは夕刻に学校の終わりを告げるチャイムか、あるいは子供の帰宅をうながす自治体の放送を、旧く時代を巻き戻しながら悪意をもって戯画化したかのようで、あまりにもおそろしく、そしてあまりにも神々しかった。
「――――――」
理解した。
これは、神の世界だと。
自分は何も分かっていなかった。化け物を、学校を、『ほうかご』を完全に描いたつもりでいた。キャンバスに写しとったつもりでいた。だがそんなものは薄皮だった。現代の世界を蜃気楼のように映して、子供たちを迷わせる、表層に過ぎなかったのだ。
がり、
と靴の下で、硬い音が鳴った。
白い道に立っていた。玉砂利を敷いたような、白い道に。
道は赤い鳥居を越して彼方まで、黒い広大な森を貫いて、遥かなる山稜へと向かって延々と続いていた。啓はそこに立っていた。そしてそんな道の、見渡す限りの一面に敷かれていたのは、玉砂利などではなかった。
小さな髑髏と目が合った。
骨だった。頭の骨。足の骨。腕の骨。腰の骨。胸の骨。指の骨。頸の骨に、背中の骨。
啓の立っていた道は、全て余さず、子供の骨によって舗装されていた。到底数えきれないほどの、白い子供の骨によって、森の彼方、山の腹の中の、神の座までの道が、真っ白に整えられていた。
鳥居に吊るされた、死体が揺れる。
首にくくられた大きな鈴が、
がらァ――――――――ン、
がらぁ――――――――――――ん!
と鳴り響く。
そして、道の彼方から、
がらぁ――――――――ん、
がらぁ――――――――――――ん、
と鈴の音。
そして次の鈴が鳴る。だんだんと遠く、小さくなりながら、遥か彼方へと続く道の、見えないほどの遠くから、遠い鈴の音が、赤い空の下、次へ、次へと続いてゆく。
「あ……」
呆然と、立ち尽くした。
恐怖で、畏れで、足が一歩も動かなかった。
それは無限への恐怖だった。無限の虚無への恐怖だった。あまりにも広大なこの世界は空っぽだった。ただ無限に死んでいる、子供の骨以外に何もなく、ただ太古から子供の命を延々と延々と喰らい続けただけの、本当にただの、無為があるだけの世界だった。
全ての『無名』は、此処より出ず。
無限の無為の中に、ただ子供の死で、道が敷かれて。
帰れず、逃げる場所も、向かう場所もない。
その中に、たった一人、放り出されて――――――
「――――――――――――――――――ッ!!」
啓の喉から、破れんばかりの恐怖の悲鳴が上がった。
だがそれも、無限の森の中に、無限の無為の中に、無限の夕焼けの中に、ただただ拡散していっただけだった。
四時四四分四四秒。
チャイムは、聞こえてこなかった。