ほうかごがかり5 あかね小学校

四話 ③

「俺も、あそこにくんがいなかったら、たぶん同じこと思ったかもな」


 そのとなりゆうもうなずいた。


「でも、くんが死んでたのは、俺も知ってたからな。だから俺が死んでたってのも、信じるしかねえな、って思って。みんなの反応もマジっぽかったし」


 だれも座るようなふんではない中で、一人だけベンチに堂々と座って、ばりばりと頭をかきながら、言うゆう


「だから、びっくりしたし、やばいんじゃないかって思ったけど────でもまあ考えてみたら死にたいわけじゃねーし、生き返ったんならラッキーかもしれねーな、って思って」

くんは考えなさすぎだよ……」


 変に前向きなゆうの発言に、はるあきれ、ため息をついた。


「まあでも今は正直、それに助けられてるけど……」


 ただ、そうもつけ足す。それでもやはりあきれのほうが明らかに勝っているらしく、複雑な表情で、ゆうに苦言をていする。


「さすがに前向きというよりも、楽観的すぎだよ」

「スター選手は、前向きなほうがいいだろ?」


 悪びれないゆう

 はあ、ともう一度、大きなため息をつくはるはるはそれ以上、ゆうに何かを言うのをあきらめると、表情をあらためて顔を上げ、たちへと向き直った。


「まあ、くんはこんなだけど……僕はまだ、混乱してる」


 そう言うはるに、はうなずいた。


「そうだよね……ごめん」

「うん、だから考える時間がほしいんだけど、正直に言って、考えて何かわかるとは思ってなくて────僕がなつとくする時間がほしいだけで────言っとくとこれは『ほうかご』のかい現象だから、『ほうかご』にしかヒントがない気がしててさ」


 はるむなもとで手ぶりをしながら、まだ自分の中でまとまっていない考えを、がんって言葉にする。


「だから、すぐに話ができなくて悪いけど、でも次の『かかり』までに、どうするか考えたほうがいいと思うんだ。これから何が起きそうとか、何を調べたらいいかとか、それまでに準備しとくものとか……」


 その様子は、他でもない、今まで通りのはるだった。こわがりだが、がんって冷静に、できるだけ観察して考えてアドバイスをくれる。今まで『かかり』のブレーンとして、みんながたよりにしてきたはる


「……やっぱり、くんだ」


 思わず口に出た。はるがいぶかしげな顔になる。


「どういうこと?」

「あ、ごめん。くんがいなくて、ずっと心細かったから、うれしくて、つい。何回も、くんがいれば、って思ってたから。だからくんが話してるの聞いて、心強くなって、つい言っちゃった」


 目を細めて笑うはるはそのがおを見て、ずかしがるように顔をそらして、もごもごと口の中で言う。


「……それ、僕は全然身に覚えがないから、逆に不安になるんだよね」

「ごめんね?」


 あやまるが、がお


「でも、たよりにしてる」

「……」


 そしてぐに言う。目を合わせないまま、はるは答えた。


「……まあ、うん……がんばる」

「うん」


 はうなずく。

 そして思った。今は。喜ぶべきだと。

 もう二度とないと思っていた、この時間を喜ぶべきだと。はると、ゆうと、また話ができることを、どれだけこれが異常なじようきようだったとしても、この先に何が起こるか分からない不気味なじようきようであるとしても、変わらない二人と再会できたこのじようきようだけは、幸運として喜ぶべきだと思った。

 それに何より。また欠けのないメンバーで『かかり』をすることができるのだ。

 くやってきたつもりのメンバーが欠けた、あの時のおそろしさ、そうしつ感、心細さ。まるはずのなかったそれが、全てではないにせよまるのなら────それが異常事態によるものだったとしてもえにできる。そう思ったのだ。


 そして。

 あっという間に日がって、週末。

 それぞれ思うところをかかえながらも、前を向いて、金曜日。

 久しぶりに全員がそろう『ほうかご』に、久しぶりの心強さと、ほんの少しのうれしさを感じながら。は自分の部屋のベッドの上で、いつもの荷物と武器を手にしながら、十二時十二分十二秒のチャイムを待った。



 …………


 音割れしたチャイムと放送がひびき、部屋のドアが開いて。

 ドアに向かい、眩暈めまいと共にドアを通りけると、外からの明かりがしこむだけの、いつもの暗い『ほうかご』のろうに立っていた。

 目の前に教室。教室の電灯がじわりとともって、教室の窓が照らされる。

 血の手形と「たすけて」の血文字。それをただの背景として、いつものように見なかったことにしたは、いつもよりも急いで集合場所のホールへ向かおうと、うすぐらろうの真ん中で身をひるがえした。

 久しぶりに、『ほうかご』に、みんなが。

 その事実に心がおどる。説明のできないいちまつの不安はあるが、それを上回る喜びがある。

 がそんな思いで、ホールへ向かう最初の一歩をそうとした時だ。

 背後で、



 



 といきなり電子音が鳴った。


「!?」


 ばっ、とかえった。

 ろううつろにひびわたったのは、人感センサーの音。何もいるはずのないろうはしの、別の階とつながっている階段のスペースに、万が一時のためにけた、センサーが鳴らした音だった。


「………………!!」


 心臓ががった。とりはだがたった。

 息が止まる。かんだかく安っぽい電子音のいんが消え、元のせいじやくに包まれた空間で、見つめたろうの先は、くらやみしずめたように真っ黒で、そこに何も見ることはできなかった。

 だが、


 何かが、センサーにれた。


 何か、そこに、いる? 何が?


「………………」


 息が止まったまま、体の動きが止まったまま、まばたきが止まったまま、見つめる。

 視線の、ろうの先のくらやみは、ただ静止していた。何も見えない。何も。


 しん、


 とした、くらやみ

 あまりにも暗くて、みようねんせいのようなものを感じる、やみ

 ふと、かすかにふるえる自分の左手が、持っているものを意識した。

 クレヨンほどのサイズの、しかし強力なペンライト。めた、そしてこおりついたような異様なたいのなか、は自分の手の中にあるそれの存在を思い出し────それのスイッチを押し込んで、せんたんともったレーザービームのように遠くまで届く光を、手首の動きで、通路の向こうへと、その奥にわだかまるくらやみへと、



 



 照らされた。見えた。ろうはしにいた。こちらを見ていた。目があった。

 ぶわっ、とかんが背中をがった。きようが。それから疑問が。

 !?

 きようと共に、その疑問が頭をがる。




 その人形は──────


 ひた。

 とライトの光の中で、が動いた。


「!!」


 しゆんかん、反射で体が動いた。だっ、と身をひるがえし、そくろうを逆方向へ、走ってした。息ができないまま全速力で走り、階段をりる。そして息が続かなくなり、水面に顔が出たかのように激しく息を吸い込んで、あえぎ、呼吸に苦しみながら手足をって、ろうけて、必死にバリケードを目指してとうそうした。


「………………!!」


 後ろは見なかった。そのゆうもなかった。

 だが気配はあった。背中の向こうに、の気配がする。


 ピンポーン、


 と自分がセンサーにれて、間近でチャイムが鳴る。

 それにおくれて、


           ピンポーン、


 とはなれたところでチャイムの音が続く。


「…………………………!!」



刊行シリーズ

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