一章 真・オフライン会合IMAGINE ②

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 キャラクター名『ルシアン』の上に浮いたライフポイントゲージが減っていくのを冷静に見つめながら、俺はぽんぽんとテンポ良くキーボードを操作した。

 耳につけたヘッドホンからはモンスターの鳴き声が何重にも重なって響いている。

 俺の操作キャラクターであるルシアンは、深いダンジョンの中を全速力で駆け抜けていた。

 一人で、じゃない。画面を覆い尽くす程のモンスターを背後に引き連れて、だ。


「ああっ、くそっ……面倒くさいな」


 走り続ける間に探知範囲から逃れてしまい、一匹のモンスターがその場に足を止める。

 俺は敵の塊をくるりと回って回収したが、その過程でまたライフが減り、ゲージが更に減少した。

 こんなのは普段なら大して苦労のないプレイで、ミスなんて絶対にしない所だ。

 それがさっきからミス続きだ。最低でも八割のライフを保って味方の所に戻りたい所なのに、既にライフは半分を割ってしまっている。集中力が足りていないのは間違いない。

 そしてその原因はわかっている。

 画面下方のチャットウインドウを勢いよく流れ続けるギルドメンバー達の会話だ。

 間違いなく全てこれが悪い。俺は悪くねえ。俺は悪くねえ。


◆アコ:それで、ルシアンと初めて会った場所に来てもらって、そこで告白したんですよ

◆アプリコット:ついにか。まだかまだかと思っていたが、アコの方からだったと。

◆シュヴァイン:俺様から見れば遅すぎるぐらいだ。はっ、腰抜けだなw

◆アコ:それがルシアンには一度断られてしまって……

◆アプリコット:本気か? アコの告白を一回断ったというのか? 頭の病気か何かか

◆シュヴァイン:ふん、俺様ならありえんなw 馬鹿者ここに極まれりだw

◆アコ:想像を絶する悲しみが私を襲いました……


「こいつら……」


 好き勝手言いやがって、この敵の塊をまとめて叩きつけてやろうか。

 暗い気持ちを抱えながら味方の元へとひた走る。モンスターを狩らせる為ではない、チャットをやめさせる為だ。


◆アコ:でもルシアン、私が指輪につけるエンチャントを用意して来たら『そんな勿体ないもの買わなくて良いぞ』なんて言ったんですけど、私にくれた指輪の方には20Mぐらいする全耐性強化をつけてあって


「うおおわあああああ急げええええええ」


 色々とバラされる前に、と全速力で仲間の目の前に走り込んだ。

 以前は大きな剣を使っていたが、その頃とは正反対に大きな盾を持った俺のキャラクターが敵の攻撃を受け止めはじめる。


◆ルシアン:ほら、餌持ってきたぞお前ら!


 足を止めた為に一気に攻撃が集まる。道中で回復していたライフも一気に削られ、ゲージの色がグリーンからイエローへと変わる。


◆シュヴァイン:あのむっつり男め、何だかんだと言ってノリノリじゃねえかwww

◆アプリコット:男のツンデレもそれはそれで良いではないか

◆ルシアン:人がMOB釣ってきてるのにチャットしてんじゃねえよ! ちょっとは受け持てシュー!


 俺が殴られてるだろ俺が! 死ぬぞ!


◆シュヴァイン:むっつり旦那に言われたくねーなw


 そんなチャットを浮かべた後、大剣を持った仲間、シュー──正式名称シュヴァインが、敵に攻撃を浴びせはじめた。


◆ルシアン:この敵全部お前になすりつけてやろうかこの野郎

◆シュヴァイン:は、この程度のカスで俺様が死ぬとでも?


 何を偉そうに、半分でも絶対死ぬだろお前。


◆アコ:お帰りなさい、ルシアン


 そして嬉しそうに『俺の嫁』、クレリックのアコが声をかけてくる。

 いや、お前はヒーラーだからな。戦闘中にのんびりチャットを打ってる余裕がある職業じゃねえからな。


◆ルシアン:そういうの良いからヒール! ヒールしろアコ!


 勝手なことばかりの仲間達にいらだちながら必死に敵を削る。

 しかしキャラクターの上に浮いているゲージは急速に削れて行く。

 ライフ半分以下を示すイエローを過ぎ、さらにレッドへ。


「おいおいおい、ヒール、ヒールくれ!」


 俺の操作するルシアンの上にヘルプマークと瀕死のマーカーがつく。もはや限界だ。


◆アコ:ごめんルシアン、すぐにやるからちょっと待って!


「そのチャット打ってる時間に何回スキル使えるんだよ!」


 イライラと操作を続けて数秒、ようやく派手な緑色のエフェクトが画面上で輝いた。

 回復スキルは無事に発動した。

 ──敵の群れのど真ん中に。


◆ルシアン:お前何やってくれてんの!?

◆アコ:ご、ごめんルシアン!


 だからその文字を打ってる間に操作を!

 俺が死を覚悟したところで、アコの後方に立っていたローブ姿の男キャラクターに吹き出しが表示される。


◆アプリコット:ははは、心配など要らぬさ。見よ、これがリアルマネー十五万円をかけて強化した杖の、そして使い捨ての課金魔力ブースターお値段三百円、十個一気に買ったら何とおまけで1個プレゼントの力!

◆ルシアン:何そのユーザー舐めきった課金アイテム!


 超もったいねえ! やめとけよ!

 そう思ったものの、止めるまもなく魔法は発動した。

 課金アイテム独特の普段より派手なエフェクト、盛大な効果音、そしてとんでもない威力が画面を覆うように炸裂した。


◆アコ:マスターすごーい、モブがゴミみたい!

◆アプリコット:はっはっは、これが伝説の杖の力だ


 つまり金の力じゃないか、嫌な伝説だ。

 しかし課金杖の時点で十分過ぎた火力に課金アイテムがさらなる力を与え、フィールドに降り注いだ隕石は見事にモンスター集団を叩き潰してくれた。


◆アプリコット:ふっふっふ、一確ほど気持ちの良いことはこのゲームに存在しないな

◆ルシアン:うわ、ここのモンスター確殺なのかよ


 攻撃をすれば乱数に拠らず確実に殺す確殺、それも一撃で倒す一確は、モンスター狩りにおいて最大効率を引き出す要素の一つだ。

 しかしそれなりに難度のある狩り場でそれを実現するのは並大抵のことじゃない。

 彼、我らがギルド『アレイキャッツ』のマスターであるアプリコット氏は、その重課金戦士振りにおいてそこらの廃ギルドですら追いつけない域にある。

 はっきり言って見ていて胸が痛い。減ってるのは俺の金じゃないのに自分が損しているみたいに辛い気持ちになる。


◆アプリコット:当然だ。課金アイテムは伊達じゃない。今の隕石一つにうめえ棒が三十本入っていると思っていただきたいな

◆ルシアン:一本十円が三十本……

◆シュヴァイン:今の一発にはルシアン以上の価値がある訳だな?w

◆ルシアン:俺の価値低すぎねえ?


 話している間に俺のキャラクターを緑色の光が包みこんだ。

 ようやくの回復魔法のエフェクト。無事にライフのゲージは緑に戻った。


◆アコ:ごめん、話してる途中だったから遅くなっちゃって


 ぺこぺこと頭を下げる白い服を着た女のキャラクター。俺の嫁のアコだ。

 結果死ななかったから良いものの、なかなか操作が上手くなってくれない。そろそろゲームを始めて一年になろうっていうのになぁ。


◆ルシアン:それ以前に狩りの途中にチャットに熱中するってのがな

◆シュヴァイン:どうせ死ぬのは俺様じゃなくルシアンだ、問題ないぜ

◆アプリコット:旦那たるもの懐の深さを見せるべきではないかな。次はもっとゆっくりでいいぐらいだ


 無責任な二人の言葉に、アコのキャラクターは嬉しそうに手をたたいた。


◆アコ:そっか。じゃあルシアン、ゆっくりしていってくださいね!

◆ルシアン:ゆっくりしねえよ! さっさとヒールしろ!

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