一章 真・オフライン会合IMAGINE ④
◆ルシアン:マジで!? シューってまさかイケメンか!
うっわ、羨ましい。むしろコイツの方がずっと妬ましい。
くっそイケメンとか死ねば良いのに──。
◆アコ:わー、シューちゃん死ねば良いのにね
◆ルシアン:え?
◆シュヴァイン:あ、あこ?
隣のアコが妙な気炎を吐いた。
メンバーの動揺も無視して続ける。
◆アコ:もう本当にリア充とか死ねば良いですよね。告られる人とかゲームから出ていけばいいんですよ、近くに居るだけでなんか不幸になる気がするし。ああ滅びないかなああいう人種、世界の害悪ですよふふふふふふふふふ
◆ルシアン:アコ、落ち着け落ち着け!
◆シュヴァイン:振った、振ったぞ! 俺様は恋愛なんぞに興味はないからな!
◆アコ:ふひふひふひひひひ
◆ルシアン:戻ってこーい!
どうどう、とアコをなだめる。
うん、まあ、たまに変になることもある嫁だ。
◆ルシアン:俺もリア充を憎む気持ちは同じだが、それを仲間にぶつけちゃだめだぞ
◆アコ:は、はい、失礼しました
ぺこぺこと頭を下げるアコ。
◆シュヴァイン:それについては俺様も同意見だけどなw
◆アプリコット:私もその気持ちはよくわかる
全員が見事に同意した。
なんでリア充への嫉妬で一致するんだよ。歪みすぎだろ、このギルド。
でも、だからこそ気が合う、何とも良い奴らばかりだ。たった四人のギルドだけど、俺が楽しくゲームしていられるのはこいつらのお陰だと思う。
◆アプリコット:そういう意味ではアコとルシアンが一番充実しているな
◆アコ:それがそうでもないんですよ、聞いて下さい!
ぱっとアコが立ち上がる。
くるりとキャラクターの向きを変えて俺に向かい合わせると、両手で胸を押さえて訴えるようにチャットを出した。
◆アコ:私の愛の籠もった告白を、ルシアンったら何度も何度も断ったんです。もう私の寿命がストレスでマッハでしたよ!
◆ルシアン:結局はOKしただろ
◆アコ:結果より過程です!
おお、言うじゃないか俺の嫁。
お前がその気なら俺にも考えがあるぞ。
◆ルシアン:よしわかった、じゃあ一度リセットして最初の話し合いから始めるか
◆アコ:嘘ですごめんなさい離婚だけは嫌ですお願いします捨てないで下さい!
アコは一瞬にして折れた。
こういう素直な所は好きなんだけどなあ。
◆シュヴァイン:そう、問題はそれだ
シューの吹き出しがアコに被さるように表示された。
◆シュヴァイン:ルシアン、アコに結婚申し込まれて一度断ったんだと? 本気か? 俺様が言うのも何だが、普通ならG単位で貢がないとOKしてもらえないような逸材だぞ?
◆アコ:そ、そんなことないですよぉ
大きな吹き出しの裏で照れているっぽいアコ。
照れんな照れんな、お前全然褒められてないぞ。姫プレイみたいな扱いをされてるから。
◆アプリコット:私も気になるな。何が嫌だったんだルシアン。お前達はこれまでずっと上手くやっていただろう?
マスターも一緒になって尋ねてくる。
正直言って説明したくもないんだけどなぁ。
しかし聞かれて答えないのも悪い。ぽちぽちとキーボードを叩く。
◆ルシアン:別にアコが嫌だったんじゃなくて、俺はゲーム内で結婚とかそういうのが嫌だったんだって。だってお前、ゲームだぞゲーム。現実じゃないんだからさあ
だから一度は断ったのだ。
アコの申し出が単純に仲を深めたいという気持ちだと思えば悪くは思わないけど、結婚と言われるとやっぱり引いてしまう。その──猫姫さんのこともあったし。
◆シュヴァイン:なにが現実とは別、だ。どうせお前なんぞリアルで結婚できないんだ、こっちで経験しとけば良いだろう、ルシアン
◆ルシアン:超えちゃいけないライン考えろよお前!?
言って良いことと悪いことがあんだろ!
俺だってショック受けるんだぞ!
さらに言い募ろうとした俺の機先を制すように、アコのチャットが画面に表示された。
◆アコ:あ、そうそう。ルシアンが言ってたんですけど、昔男の人に告白したことがあるんですって
◆ルシアン:なっ
◆シュヴァイン:ほうw
◆アプリコット:なんと!
あ、アコ!? お前言うか!? それあっさり言うか!?
旦那の恥部をいきなり漏らすかよ!?
◆シュヴァイン:まさかの同性愛かwww 構わんぞ、俺様はそういうのにも理解のある方だからなwww
◆アプリコット:ああ、私もだ。大丈夫だぞルシアン、何も心配しなくて良い。私達は仲間だ。ああ待て、それ以上こっちに近づくなよ、ギルドから追放するぞ
◆ルシアン:容赦ねえなお前達!
シューとマスターが溢れる笑いを全面に表して言った。
ああくっそうぜえ超うぜえ。しかもそんな所で受け入れられても困るわ!
◆ルシアン:そういうんじゃなくて。ただちょっと、ほら
◆シュヴァイン:ほら?
◆ルシアン:だからその
◆アプリコット:その?
◆ルシアン:本当に大した話じゃないんだけどな
◆シュヴァイン:笑わないから、ほら
◆アプリコット:大丈夫だ、心配要らない。ギルマスを信用しろ
◆アコ:大丈夫だよルシアン、皆もちゃんと聞いてくれるから
マスターとシューにアコから代わる代わる促される。
あー、言いたくねえ。言いたくねえけどしょうがないか。
◆ルシアン:ちょっとその、昔ネカマにガチで告って盛大に振られたことがあってさ……
◆シュヴァイン:wwwwwwwww
◆アプリコット:wwwwwww
◆ルシアン:やっぱ笑うんじゃねえかよ!
打ち込んだ直後に鬱陶しいぐらいに笑われた。
ああああやっぱ言うんじゃなかった!
◆シュヴァイン:俺様としたことが、真剣に腹が痛いwww 笑い過ぎて文字を打つのも辛いぞwww
◆アプリコット:リアルでコーヒーを吹いたのは初めてだ、やるなルシアン、こんな大ネタを隠し持っていたとは
◆ルシアン:受けすぎだろお前ら!
◆シュヴァイン:ネカマに告白したんだぞ? もう黒歴史過ぎるだろうが
◆アプリコット:青春の思い出、だな
◆ルシアン:忘れろ、忘れてくれ!
◆シュヴァイン:忘れるわけがないだろうが
◆アプリコット:既にスクリーンショットも撮ってコピーした
お前達マジ腐ってんな!
良い奴らだと思った俺の温かい気持ち返せ!
◆シュヴァイン:画像タイトルは7・13、ルシアンネカマ告白事件にして保存しておこう
◆ルシアン:事件自体が起きたのは今日じゃねえし! 今すぐ消せし!
ってか俺がネカマなことをカミングアウトした、みたいになってんだろ!
しかし実際、あの玉砕は痛かった。
俺は極々普通の嗜好をしてるつもりなので、結婚とか恋愛ってなると、やっぱり相手が異性であるってことが重要だと思う。中身男かもしれない相手と愛を囁き合うってのはいささか難易度が高い。
それでもアコとの結婚をOKしたのは『ゲームとリアルは別だ』という俺のこだわりが故だ。
二年前のあの日、ネカマに本気の告白をした衝撃は余りにも大きく、事件直後にギルドを抜けた俺は一年近くソロプレイを続けたぐらいだった。
その中で立ち直るきっかけになったのが一つの真理だ。
「それは……『可愛ければ良いじゃないか!』だ!」
画面の前で一人拳を握る。
そのぐらいに偉大な真理である。
例え相手のリアルが男でも、ゲーム内で女を演じていてそれが可愛いなら良いじゃないか。俺はゲームの中の可愛さを愛でるのだ。例えネカマでもそれを愛でる。
そう、俺は騙されたんじゃなくゲームの中での真実を見たのだ!



