一章 真・オフライン会合IMAGINE ⑬
◆アコ:それじゃあ、お休みなさい
◆ルシアン:ういー
手を振って消えていくアコを見送った後、ふとシューが言った。
◆シュヴァイン:あー、それから。さっきも言ったが、ちょっと知り合いだったからって俺様に馴れ馴れしくしたらマジでぶっ殺すぞ、わかってんな?
◆ルシアン:そのぐらいわきまえてるよ。誰にも言わないし態度も変えないって
◆シュヴァイン:本当に? 頼むわよ?
不安そうに、もしくは何か物足りなさそうに言う瀬川。
もう口調がごちゃごちゃになってる。
何だかなあ、そんなに俺が信用ならないかね。
◆ルシアン:ゲームと現実は別だよ。ゲームの中でシューと親しいからってリアルの瀬川にべたべたしたりしねえって
◆シュヴァイン:そ。ならいいけど
◆ルシアン:おう、心配すんな
ルシアンに大げさなお辞儀をさせてみせると、瀬川はシューに肩をすくめさせてチャットを表示した。
◆シュヴァイン:なにそのわかってる風な格好つけた言い方、キモッ!
◆ルシアン:ほっとけ!
何ともいつもの瀬川らしい言葉だった。
しかしこれがまあ、腹が立たない立たない。瀬川に言われるとイラっとくるのに、相手がシューだと思うとなんてこともない。同じ言葉でも言う人によって違うもんだな。
いや、同一人物なんだけどさ。
◆シュヴァイン:それから……アコにも馴れ馴れしくするんじゃないわよ。変な噂たったら可哀想だし
◆ルシアン:俺と噂がたったら可哀想みたいな言い方を……いや、可哀想だな、うん
◆シュヴァイン:でしょ?
確かにアコには損しかなさそうだ。オープンオタクの辛さである。
と、シューは少し間を置くと、いつもの瀬川のように、
◆シュヴァイン:……もしもアコと本気で付き合いたいって言うなら、それなりに応援したりしなかったりはするけど?
◆ルシアン:ねえよ!
俺は慌てて言い切った。
◆ルシアン:ネットで会った子を口説いて彼女にするとか、マジねーだろ
◆シュヴァイン:でも今日のあんた、端から見たら直結厨みたいだったし
◆ルシアン:それは言うなああああああっ!
◆シュヴァイン:wwwwww
流石に本気で言った訳ではないらしくシューは笑っていたが、俺の方は晩飯を口から吐き出しそうな心境だった。
直結厨。
それは最低の称号。
それはクズの称号。
それは嫌われ者の称号だ。
直結厨と呼ばれる者のやることは簡単。ゲームの中で女性と見るや声をかけ、媚びて、煽てて、その気にさせて、すぐにでもリアルで会おうと迫りに迫る。
とりあえず繋がる、すぐ繋がる、その姿はまさに直結。
ネトゲの中では最高クラスに忌み嫌われる存在だ。
俺は直結じゃない、俺は直結なんかじゃない!
◆シュヴァイン:ま、良いけど。どのぐらいの距離感で行くのか、アコともちゃんと話しときなさいよ
◆ルシアン:そうする
◆シュヴァイン:じゃ、俺様も先に落ちるな
◆ルシアン:……一応そのキャラ続けるのな
◆シュヴァイン:るさいわよ
こっちを一睨みすると、シューはそのまま消えていった。
しかし、確かにアコとは距離を置かないとダメ、だよな。
さっき別れるときとか、明らかに友達って雰囲気じゃなかったし。
「でも……」
余計なことなんて言わずにこのままでもいいんじゃないか、なんて欲求が頭をもたげた。
アコとは上手くやってる。今日だって初めて会ったのに長い知り合いみたいだった。
望んでもいないのに距離を遠ざけるようなことを言わなくてもいいんじゃないか。
だってほら、実際に会ったアコはあんなにも可愛かったんだし。
脳裏に、照れたような笑顔を向けてくる玉置さんの顔が浮かんだ。
「──っ、駄目だ!」
そういう思考が!
男を直結にして!
俺をネカマに告白させたのだ!
急いでゲームを終了すると、パソコンも落として、俺はベッドに飛び込んだ。
ゲームと現実は別、ゲームと現実は別──そう考えながら休もうとするのだが、しかし脳裏に浮かぶのは、良く懐いた猫のような顔で俺を見上げる玉置さんの顔。
頭を振って振り払おうとしたがそれはアコ本人のようにしつこくつきまとった。
ルシアン、ルシアン、ルシアン……と。



