三章 猫姫ハンターフロンティア ②
嫌がるシューを押し切り、その日は下校時刻までログインゲーを楽しむことにした。
「く、ログイン自体は突破したというのに、鯖セレがエラーを吐くか……だが一度ログインすればログイン画面には戻らない。私はこのまま連打で勝負をかけさせてもらう!」
「待てよマスター、サーバー選択まで行ってそこで止まる場合はクライアントの再起動が効くらしいぞ」
「む、本当か? よし、なら再起動を……お、おいルシアン! 鯖セレどころかログインの時点で詰まったぞ!」
「かかったな情弱なマスターが! 俺はその隙に上に行くぜ!」
「はかったな! はかったなルシアン! く、こうなれば一時的にパスワードを簡略なものに変えて対抗するしかない!」
「来た、来ました! ついに鯖選択を抜けてキャラ作成まで来ました! 私のトップ通過ありますよ!」
「やめろ、キャンセルを押すんだアコ!」
「駄目だ、そこでキャラを作ると後々後悔するぞ!」
「キャラ作成…………を押したらクライアントが止りました! ビジー状態に入ってます! パソコンごと巻き込んで固まりました!」
「ざまああああああああああ」
「ログイン連打階級へようこそアコ君!」
「ねえ、これ、何が楽しいのよ……」
「いやー、今日は楽しかったな、マスター」
「うむ。これはシン●ル1200『THE ログイン』が発売されないのが不思議でならない面白さだ」
「タイムアタック動画が作られて『オープン一週間後』ってタグがつくんだろ」
「今回はオープン二時間で混雑が解消されてしまったがな。その原因となるゲーム内容のつまらなさだけは少々のマイナスだ」
「ネトゲでゲーム内容がつまんないのにログインだけを堪能しないでよ……」
「あそこで固まらなければ私がトップ通過だったのに……」
たっぷりと楽しんだ俺とマスター、そしてげんなりと言う瀬川と、未だ納得のいっていないらしいアコ。
俺はアコの頭に手を乗せると、そのままぽんぽんと撫でた。
「そう凹むな。この負けがあるからこそ次のログインゲーがまた楽しめるんだ」
「……はい、そうですね」
アコは俺を見上げると、少しだけ頬を緩めて目を細めた。
そんな俺達を見て、シューがぽつりと言う。
「あのさ、この部……意味なくない?」
「なんでだよ、毎日楽しく活動してるじゃん」
「してるけど、そういうんじゃなくて。元々は玉置さんが西村の嫁だって寝言を言うのをなんとかするってのが目的だったんじゃないの?」
「そりゃそうだ。当たり前のことを今更言われても困るよ」
っていうか元々ってなんだよ、今もそれが目的だろ。
そう笑った俺をいぶかしげに見て、シューはゆっくりと手を伸ばした。
「その状態で?」
伸ばした手で、アコを撫でる俺の手を指した。
えーと……あ、うん。
「…………」
「……っ! ……っ!!」
ゆっくりと手を離そうとすると、アコの頭の方が俺の手にひっついて移動した。
可愛いなあ、本当に甘えたがりの猫みたいだ。家に持って帰って飼おうかな、こいつ。
「あんたさ、もう諦めたら?」
「諦めたらそこで終わっちゃうだろ!」
「諦めないから終わらないってわけでもないでしょーが」
いいや、諦めない限り俺の戦いは終わらないんだ!
「ね、諦めませんか?」
「やめろアコ、俺を引きずり込もうとするな!」
俺の手を引いて誘惑するアコの誘いを必死に振り払った。
実際問題、ちょっと方向性がズレてきてるな、というのは感じていた。
アコの方はちょっと気を抜くと俺を旦那扱いするままで何も変わらず、単に俺達四人の仲が深まっていくだけのような。
アコに心変わりをさせるぞ、という目標はそのままなんだけど、こいつ可愛いなー、可愛いなー、ってずっと思ってる俺も居るし。
でもさ、だからといって直結厨にはなりたくないんだよ。ゲームとリアルはやっぱ別じゃんって気持ちは変わらない。距離が近くなったのは、単にほら、リアルのアコとも仲良くなってきたしちょっとぐらい親しくしてもいいかなってのがあって、そういう気持ちで、な?
そんな風に心の中で言い訳をしていると、マスターが難しい表情をしているのに気付いた。
「マスター、どうかしたのか?」
「いや、結果が出ていないのは少し困ると思ってな。残念だがこの部活にはそろそろタイムリミットが来るのだ」
マスターはよくわからないことを言いだした。
「タイムリミット? なによそれ?」
「この部が存在していられるタイムリミットだ。元から色々な部分で無茶をして認可して頂いた部だが、どうしても手の出せない部分があって無理がでているのだ」
「具体的には?」
うむ、と頷き、マスターは両手を広げて部室を示して言う。
「顧問がいないんだ」
「……あー」
言われて見れば、この部で教師の姿を見たことがない。
本当にただの一度も、ない。
「顧問はすぐに見つける……という建前で創設したはいいが、先生方もお忙しい。ネトゲ部に時間を割いてくれる人はどうも居そうにないな」
「じゃあタイムリミットっていうのは」
「顧問がいないということで強制廃部になるまでの時間制限だ。職員会議で議題に上がるまで後一週間というところだろう」
残り一週間!?
そもそも部活を始めてまだ一週間ぐらいだってのに、随分と短いな!
「うっそぉ、本当に?」
「きっついなあ、それ」
「仕方がないだろう、元からお前達の希望に沿う為に無理に作った部なんだ。ある意味で時間制限があるからこそ無理を通せたようなものだ」
俺達の希望ってか、完全にマスターの独断じゃねえかよ。
「私達……?」
俺と同じ疑問を抱いたのだろうアコに、マスターは大変良い笑顔を向けた。
「アコ、何か質問でも?」
「何もありません、サー!」
サー! じゃねえよ。
しかしなるほどねえ。無茶するなあと思ったら本当に無茶だったのか。どうせ顧問がいないから次の職員会議で解散だし、まあいいかって感じだった訳か。もしも顧問がみつかればその先生が責任持つだけだし。
「一応顧問を探してはいるんだがな、まあ無理だろう。ネトゲ部の顧問についた教諭が職員室でどんな視線に晒されることか」
「想像に難くねーなー」
そりゃもう針のむしろだろう。職員室に居づらいことこの上ないと思う。
んー、でもうちの担任とか新人なのにだらけてるし、案外やってくれそうなんだけどなあ。
ちょっと聞いてみっかな、なんて思いながら、今日の部活動も終了した。
「部活、なくなっちゃうんですね……」
「残念だなぁ、折角性能の良いパソコンが使い放題なのに」
「そこじゃないでしょう、そこじゃ!」
今日も今日とてアコを連れて帰る。
楽しそうに俺のそばを歩くアコはやっぱり部活帰りの男子生徒から視線を集めていて、ついでに俺にも黒い視線が注がれている。そんなことも慣れを通り越して優越感を覚えるぐらいになってきたけど、これももうすぐ終わりなんだなと思うと少し残念だったりする。
「君と一緒に居る時間が減るのが寂しいよって、新婚なのに単身赴任に行かされる旦那さんみたいに言ってくれてもいいじゃないですか!」
「条件が具体的過ぎて気持ち悪いわ!」
そしてアコは相変わらず残念だった。
「ルシアン──じゃなくて、西村君もちょっとはデレてもいいと思うんですけどねえ」
確率的にはすぐに出る筈のプチレアが何故か出ない、みたいな口調で言うアコ。
まあ気持ちはわかるんだよ、気持ちは。
「男にデレを期待すんなよ。……いや、我ながら、俺じゃなければもうデレてんじゃないかって気はするけどさ」
「そうなんです?」
「そうなんだよ」
ふーっと息を吐き、アコから目を離した。



