三章 猫姫ハンターフロンティア ⑧
んじゃ一体何のオフ会だ?
ギルドアレイキャッツの次回オフ会の話……でいいんだよな?
◆ルシアン:次のオフ、アコが主催でやるってことか?
恐る恐る尋ねると、アコは首を振った。
◆アコ:いいえ、私が個人的に、知り合いと二人で
◆ルシアン:へ……なに、それ
酷く嫌な予感がした。
追い詰め過ぎたら大爆発する──そう言った猫姫さんの言葉を思い出した。
「あのアコが……」
「あたし達以外とオフ会……?」
「そんな馬鹿な」
二人と顔を見合わせた後、恐る恐る尋ねる。
◆ルシアン:二人でオフ会って……女と、だよな?
◆アコ:……本人は男の人だって言ってました
◆ルシアン:ちょっ、おい!
「はあ!? ふざけんなよ!?」
「ありゃー、マジっぽいわね。どーすんのよ、これ」
「ふむ……?」
複雑な顔をするシュー、いぶかしげなマスター。
いや、そんなことよりアコだ。あいつ何考えてるんだ。
◆ルシアン:やめろ馬鹿、そんな危ないことすんな
◆アコ:危なくなんてないです、必要なことなんです
◆ルシアン:男と二人でリアルで会うことが、かよ!?
◆アコ:それは……でもルシアンの言うようなことは絶対にないです、心配しないでください
◆ルシアン:違うったって……
そんなのアコの気持ちだけの問題で、相手が何考えてるかわからないじゃないか。
ったく、しゃあないな。ちょうど心配してた所だし、猫姫さんの手前もある、一応カバーぐらいはしてやらないと。
◆ルシアン:あー、なら俺も行くよ。LAのオフ会なら俺が行ったって別に問題ないだろ
◆アコ:そ、それは……ダメです!
「……え?」
俺の申し出に、アコは驚くほど強い拒絶を示した。
◆ルシアン:何でだよ、アコの知り合いって大抵俺の知り合いだし……
◆アコ:ダメです、絶対ダメ! 何があってもルシアンだけは連れて行けません!
「……なんだそれ」
俺だけのけもの、って言うのか?
こっちは心配してんだぞ──なんて恩に着せる気はないけど、そうまで拒絶されると腹が立ってくる。本当に何かあったらどうすんだよ、後になってからじゃ取り返しがつかないんだぞ。
アコに伝えるべき言葉に悩んでいると、後からログインしたマスターとシューがチャットを表示した。
◆シュヴァイン:ちょっとアコ、あんたらしくないわよ。珍しくルシアンが自分からついていくって言ってんのに、断固お断りとか、どうしたってのよ
◆アプリコット:そうだな、普段のアコなら大喜びで引っ張っていって、彼が私の旦那ですと大騒ぎしているところだろう? 何かあったのか?
◆アコ:う……
二人の問いに黙り込むアコ。
そこまでのことは言わないけどさ。
◆ルシアン:いや、旦那として連れて行けなんて言う気はないって。ゲームとリアルは別だし、旦那気取りで行きたいって訳じゃない。でも危ないのは確かなんだ、悪いことは言わないから、二人でってのはやめておくか、俺じゃなくてもせめてシューやマスターと──
一緒に行った方が──と打ち込む途中で、先にアコからのチャットが表示された。
◆アコ:そ、そうです。だって、ゲームとリアルは別なんでしょう!?
◆ルシアン:……は?
なんだか焦ったような言葉。
それこそ本当にアコらしくない言い方だったが、それ以上にチャットの内容に愕然とした。
◆アコ:ルシアン、ゲームとリアルは違うっていつも言ってましたよね。私が何が違うのって聞いてもちゃんと答えてくれないのに、ゲームとリアルは絶対に違うって譲らなくて。……だったら私がリアルで他の人と会うからって、ルシアンが気にすることなんてないじゃないですか
◆ルシアン:ア、アコ……お前……
文字を打つ手が止まる。
それぐらい、アコの言うことは俺にとって思考の埒外にあった。
◆アコ:むしろルシアンはどうしてそんなに心配してくれるんですか、その方がずっとおかしいじゃないですか。リアルのルシアンは私と結婚なんてしてなくて、何の関係もない、ただの他人なんでしょう? ゲームとリアルは別なんでしょう?
アコの言うことは間違ってなかった。
俺は確かにそう言ってた。ただの他人だなんてそこまで言う気はないけど、他の男と会うのを止めるような立場には絶対に居ない。むしろそんな立場に居ちゃダメだ、居たくないって、そうアコに言い続けてきた。
だから──
◆アコ:ルシアン、ゲームとリアルって何が違うんですか
「…………」
その言葉に、俺は何も言い返せなかった。
黙り込んだ俺から一歩、二歩とキャラクターの距離を取り、アコは言う。
◆アコ:だから、私は行きます。いいですよね、ルシアン
ゲームとリアルは別だ。だから関係ない。俺に何の権利もない。心配する権利すらも。こんな質問に許可を出す権利すらない。
──そりゃそうだ、その通りだよ、言い返す言葉は何もねえよ。
だけどな、お前が、この場面で、それを言うのかよ!
ああわかったよ、その気なら俺は構わねえよ!
◆ルシアン:……ああ、好きにしろよ
「ちょっと、ルシアン!?」
「本気か、ルシアン」
ゲーム内のチャットにリアルの二人が反応する。そんなことさえ煩わしい。いいだろ、どうせ関係ないんだからな!
◆ルシアン:お前の言う通りだよ。俺はアコの旦那じゃないからリアルで会うなら何の関係もねえよ。止める理由なんて何もないな! 他人が差し出がましいこと言って悪かったよ! 精々楽しんでこい! 何が起きても知らねえからな!
ガンガンと指が痛むくらいの勢いで打ち込んで、俺は即座にLAのクライアントを落とした。
それ以上アコと話したくなかったし姿を見たくもなかった。
「ルシアン、普段のお前からするとアコの発言は正当だ。単に八つ当たりだぞ」
マスターが言うが、俺は本気で睨んで言い返した。
「わーってるよ、そんなもん! でもわかってるのに納得がいかないから困ってんだろ、それぐらいわかれ!」
「そ、それはすまん」
「すまんじゃないわよ、マスターが謝ってどうすんの。ってかおかしいのはアコの方よ。ルシアンのリアクションなんてわかってるんだから普段のアコなら絶対こんなこと言わないのに。ちょっと聞いてみるから待って……あ、こら!」
シューがキーボードを叩いているのを無視して席を立ち、俺はそのまま部室を出る。
「いいんだよ別に。これで良かっただろ。アコもちゃんとゲームとリアルが別で、俺がリアルじゃ旦那でもなんでもないって認めたんだ。この部活の役割も終わりだし、俺も直結厨なんかじゃない。良いこと尽くめだ。この後アコが一人で酷い目に遭ったって知るかよ!」
「なっ、あんた、待ちなさ──」
バン、と思いっきり扉を閉じた。
ああ、イライラする。
イライラして当たり前だ。アコの奴、男と二人だけでオフ会とか、危ない目に遭いに行くようなもんじゃねえか。俺が何の為に必死に理解させようとしてたと思ってるんだ。
しかもだ、その挙げ句に、これからオフ会する男のことは脇において、俺の方だけゲームとリアルは別だとか……ああそうだよ別だよ、俺達に何の関係もねえよ。あいつが俺の前で元気なのはオタ話が通じる奴の前だからってだけさ! 俺にそれっぽい話を振ってくる隠れオタな他のクラスメイトと何もかわんねえよ! 特別なんかじゃねえんだよ!
だけど、だけどさ!
くっそ、なんかむかつく!



