三章 コラボ戦記 ③
◆ドアマン:いらっしゃいませ、ご宿泊でしょうか?
すると今までは誰もいなかった入り口で、NPCにIDを聞かれた。
「ここでトークンのIDとパスを入れるのだ」
トークンIDと現在のワンタイムパスをぽちぽちと入力するマスター。
すると、ちゃららららーん、と豪勢な音が鳴り響いた。
◆ドアマン:チェックインを確認しました。当ホテルのご利用まことにありがとうございます御聖院様
「ほほー」
「連動してるんですね」
会話後に飛ばされたMAPは本来の旅館よりずっと広大で、このホテルを忠実に再現したものだった。
「おお、すげえ、俺達が居るのってこのMAPでいうとこの辺だよな、パソコンの前」
「同じように並んで写真撮りましょうっ!」
「どうだお前達、悪くないだろう?」
盛り上がる俺達にドヤ顔を見せるマスター。く、なんか悔しいけどちょっと面白い。
「さあお前達もやってみろ」
「おーけー!」
ログアウトしたマスターの次にLAにログインする。
同じように旅館に向かい、トークンのIDとワンタイムパスワードを入力。
◆ドアマン:チェックインを確認しました。当ホテルのご利用まことにありがとうございます西村様
「西村様って言われたな……」
NPCが会話文の中で言うだけなので俺以外には見えていない表示だ。
とはいえゲームの中でリアルの情報が出るとなんだか照れる。
「ゲーム内で名前が呼ばれると恥ずかしいな」
「私はいつもですけど」
アコは特殊例だから。
で、奥に進むと、イベントNPCが何人も仕事をしていた。
「あ、ちょっとフロントの人に似てる!」
「シフトを合わせているらしいぞ」
「無駄に凝ってるなー」
全員集まってフロントのPCをクリックする。
するとでっかくイベント開始の文字が。
「現在イベント開催中のレジェンダリー・エイジ限定コラボスタンプラリー。次の目的地は三階、レストラン音楽の海inホテルフローレス、だって」
「ホテルってことはリアル側か」
ついでに飯を食えとおっしゃるわけか。
おお、あざといあざとい。
「生徒にやらせるにはちょっと大人の世界が垣間見えるイベントねえ」
猫姫さんが微妙な顔をする。
良いじゃないですか、まだ飯も食ってないし。
俺達はゲーム内のクエストをしている気分でレストラン音楽の海へ向かった。
しかし一応LAコラボって表記はあるけど、さして変わった様子もない。ええと、どこに行けばいいんだろ。
「とりあえず食事はしましょうか」
「五人でーす」
中に入ってみてもこれといって特別な表示はない。
ちょっと恐る恐るウエイターさんに声をかけてみる。
「あの、これって何処で使えるんですか?」
俺の出したトークンを見た渋く格好良いウェイターさんは、にっこりと営業スマイルを浮かべて言う。
「ああ、レジェンダリー・エイジ、コラボレーションイベントのご利用ですね」
「ごふっ!」
「けふっ、けふっ」
瀬川とアコが吹き出した! 俺も水飲んでたら確実に噴いてた!
やめて! フルで言わないで! お仕事なのはわかるけど、そういうの店員さんに口で言われるとマジ恥ずかしいから!
「ですと、ここからこちらまでのメニューがコラボレーション対象となります」
「ど、ども……ありがとうございます」
真っ赤になった顔を隠しながらメニューを見てみる。
内容は普通だ。ビーフカレーとかエビクリームドリアとか、ありきたりなものが並んでいる。
問題はその横に書いてる文字だ。
「STR+10の一時間……?」
「こっちはINT+8が三時間ですね」
「これ、頼んだらゲーム内で同じ効果のアイテムがもらえるってこと……?」
「どうやら十個セットでもらえるらしい」
あざとい! このコラボイベントのあざとさ!
「あざといけど、それでも俺はVIT+10のやつが欲しい! どれだ体力上昇飯!」
「これね、山菜のつみれ煮」
「食いたくねえー! 対象年齢考えたメニュー選べよっ!」
「INTは……ドラゴンカクテルか。私はこれだな」
「はいはい、アルコールは駄目よー」
「くっ……理不尽な……」
お店はどんな風に考えてこのメニュー選んだんだよ。
なんでこういうコラボってその辺考えないの? ブラックガムとかラーメンとかじゃなくて、もうちょっとメインターゲットの学生が喜ぶものとコラボしてくんない? ハンバーガーとかさあ。
「ならば無難にカレーで済ませるか……」
「私サンドイッチ食べます」
「STRが捨てがたいからTボーンステーキとエビフライのセット……」
瀬川がちょっと涙目でメニューを選んだ。
「昼からがっつり行くなー、お前」
「うるさいわね、エビフライぶつけるわよ」
五本ぐらい飛んできそうなので口を閉じる。
「ふん、だってしょうがないじゃない……」
攻撃力に惹かれたものの末路だった。
「ええと、俺は山菜のつみれ煮」
「人のこと言えるの?」
これが耐久力に引かれたものの末路でもある。
「先生は?」
「動く猫耳イアーセットがもらえるキャットドリアセット」
言い切る猫姫さん。その表情に一点の迷いもなかった
「あの……欲しいんですか?」
「猫耳は何個あっても嬉しいのにゃ」
にっこり笑顔の猫姫さんに、なりきり型プレイヤーの強さを見た気がした。
困ったことに味は美味かった。
コラボイベントによくあるコラボ先の本気感。これがいつも困るんだよな。なんかコラボが終わってからもたまに買っちゃったりするもん。それが狙いなんだろうけどさ。
「これか、パソコンがあったぞ」
「こんな所にあったのかよ」
レストランの近く、観葉植物に隠れたわかりにくい位置にコラボ用パソコンがあった。
「ここでトークンのIDとパスワードを入れるとメールアドレスにアイテムコードが転送されてくるぞ」
「んじゃ俺からやるか。……んー?」
なんだかパソコンの調子が悪いな。
いつも使ってるフリーのメールアカウントにちゃんとログインしたはずなのに、一度入れたパスワードが拒否されるでもなく通るでもなく、そのままの画面でもう一度要求された。
んー、なんだろ、変な感じだな。
しかしこんな古い形式のパソコンじゃ妙な挙動をするのが普通だよなあ。
「とりあえずもう一回……っと」
ブラウザを再起動してログインし直す。
今度は問題なく通過した。ったく、新しいパソコン用意してくれりゃいいのに。
何通かのメールが来ていて、中には体力+10のつみれ煮も入っている。
「よしよし、と」
「次の場所はどこなの?」
「ええと……1Fの土産屋だな」
「あ、あざといですー!」
集金体勢に一片の揺らぎなし! であった。
††† ††† †††
「一通り終わったら無駄にアイテムが増えたわねえ」
「でも可愛いのが一杯ありましたよ!」
「その上かなり強いんだよなあ」
タイアップイベントのむやみやたらに強力な所が困る。使わざるを得ないんだよこれ。
「さて、大体はまわったが……そもそも我々はチェックインしただけで、まだ部屋にすら入っていなかったな」
荷物は部屋に運んでもらってるけど、俺達はまだ一度も様子を見てない。
「もう夕方だし、一度解散して休憩にしましょうか?」
先生がぐーっと伸びをした。
体育会系の特徴なのか、先生的にはこうして室内でちょこちょこやる方が体の疲れがたまるらしい。人によって違うもんだなー。
「では夕食の時間に集合して、明日のミーティングとするか。緊急の連絡はメールかLA内のチャットで行うように」
「LAのチャットが緊急連絡に使われるのか」
それで大丈夫かよ、という視線に、マスターは余裕の笑みを浮かべた。



