三章 コラボ戦記 ④

「今回のコラボ対象になっている部屋はパソコンとインターネット環境が用意されている。ということは、全員が時間までコラボアイテムを試しているだろう」

「……なるほどね」


 よくわかってらっしゃる。

 流石に横並びで部屋は取れなかったらしく、俺達の部屋同士も少し距離が開いてる。

 それじゃあまた後で、とエレベーターで別れて自分の部屋に向かった。


「おお、なんかコラボって感じだ」


 ちゃんとしたPCとネット環境が用意された一室。なんだこれ、超落ち着く。

 枕元には持って帰っていいらしいぽわりんぬいぐるみなんかも置いてある。

 とりあえず起動して、LAに入ってみるか。

 俺──ルシアンが居た場所は、最後に起動した土産物屋の辺りだった。


◆ルシアン:うーっす

◆シュヴァイン:おせえぞ、ルシアン、どこで油売ってやがった


 相変わらず凄いキャラの変わり方するなお前。


◆アコ:ルシアン、ルシアン!


 お土産ショップ(ゲーム内)を見ていたアコが勢いよく寄ってくる。


◆アコ:凄いですよ! ホテルの中にも別のイベントがあります!

◆アプリコット:ホテルについてのクイズに答えると、チェックアウト時にぽわりんイヤホンジャックをプレゼント、だそうだ

◆ルシアン:要らねえ……

◆アコ:要りますよっ!


 アコはぐっと拳を握った。


◆アコ:ふわふわぽわりんのイヤホンジャックですよ! 想像するだけで可愛いじゃないですか!


 なるほど、わからん。


◆ルシアン:欲しいなら取ればいいけども……問題はどうなんだ? 正解わかったのか?

◆アコ:さっぱりです!


 おおう……相変わらず使えねえ……。


◆アプリコット:おそらくホテル内のNPCが正解の情報を持っているタイプだと思うのだが

◆シュヴァイン:流石俺様、部屋にあるパンフレットに少し答えが書いてあったぜ

◆アコ:えっと、えっと、ぱんふれっと……


 ホテル内をうろうろと捜し歩く。

 ホテルについての細かい質問もあったりするが、大体は手元にあるホテル案内パンフレットにのっていた。段々とホテルに詳しくなっていく自分が悔しい。


◆シュヴァイン:凄えなこの質問。Wiki見ても回答が書いてねえ


 参加者の少なさが感じられる。そりゃコラボホテルに泊まりに来るようなプレイヤーもそんなにいないよな。

 しかしゲーム内でも構造が複雑だな。ホテルそのまんまだよ。

 あ、そうだ。ついでだから俺が今使ってる部屋まで来てみるか。


「……あれ? トークンのIDとパス要求された」


 俺が泊まってる部屋の扉をクリックすると、なぜかトークンのIDとパスワードを入力する画面が開いた。

 とりあえず入れてみると……おー、入れた入れた。

 へー、ホテルの自分の部屋に泊まれるのか。


◆ルシアン:おーい、上の階まで行くと自分の部屋に泊まれるぞ

◆アプリコット:凝った仕掛けだな。悪くない


 どうも無料で完全回復できるらしい。無駄に手が込んでる。


◆アコ:本当だ、私の部屋ですよっ!

◆シュヴァイン:クイズの答えには関係ねーな、使えねえ


 シュー、お前かなりイヤホンジャックを欲しがってないか。

 俺はさして気になるアイテムではないので部屋に残ったままアイテムの整理をする。時間限定とはいえVIT+10のアイテムは熱い。大事にしまっておこう。

 と、ピコン、と効果音がなった。

 画面の隅に表示されるささやきメッセージ。


◆アコ:ルシアン、聞こえます?

◆ルシアン:おう、どした?


 アイテムの場所を入れ替えながら返事をする。

 またわからない問題でもあったのかな、とのんびりメッセージを待っていると、


◆アコ:ルシアン、今から私の部屋に来ませんか


「っ!? うわっ、もったいねえ!」


 予想外のチャットにびっくりしてつみれ煮一個使っちゃったよ! くそ、大事に使うつもりだったのに!

 ええと、それで何?

 今からアコの部屋に来いって?

 それはその、なんだ、どういう意味だ?

 普段は直接的に過ぎるぐらい直接的なアコらしくない、ちょっと雰囲気のある誘い方で、妙にドキドキしてきたぞ。

 修学旅行で女子の部屋に誘われるような──そんな経験ないけど──そんなドキドキ感。


◆ルシアン:べつに、いいけど


 アコの部屋に行って何をするんだよ、何を。

 夫婦らしいこととか言われたら、その、駄目ですよ?


◆アコ:良かった。私のトークンの番号教えたら、ルシアンも私の部屋に入れるんですよね

◆ルシアン:……トークン?


 おう?

 そこにトークンが出てくるのか?


◆アコ:はい。だって部屋に入るのに要るじゃないですか

◆ルシアン:ああ……部屋って……


 リアルのアコが泊まってる部屋じゃなくて、ゲーム内のアコが居る部屋のことね……。


「……だと思ったよ、そんなこったろうと思ったよ、別に何も期待してねーし……」


 くそう、ドキドキして損した。

 まあいいや。他の人の部屋がどんな構造してるかも気になるし。


◆ルシアン:アコの部屋って何号室だった?

◆アコ:402号室ですー 


 ゲーム内をてくてくと移動して部屋の前に。

 言われるがままにトークンの数値を入れると、俺も中に入ることができた。


◆ルシアン:この部屋の方がちょっと広いな

◆アコ:ルシアンの部屋は狭めなんですか?


 ベッドに座るアコ。

 特に意味もなく、その隣に座った。


◆アコ:この姿勢……いつかの溜まり場探しを思い出しますね


 その話はやめろと言ったろーに。


◆ルシアン:こら、そういう冗談で呼んだなら帰るぞ

◆アコ:えええ、でも私達、夫婦なんですから


 ああもう、こいつはいつもいつも。

 そうやってのんきに考えている場合では──本当は、なかった。

 夫婦だからってな、と文字を入力している最中に、ぷちっと画面が切り替わったのだ。


「……へ?」


 見慣れた、見慣れすぎたログイン画面が表示される。

 真ん中に出ている文字は、

 このアカウントで他のプレイヤーがログインしました

 接続を終了します

 そんなシステムメッセージだった。


「なんだよ、鯖キャンか?」


 ああもう、面倒臭い。

 たまにある変な落ち方だろうと、IDとパスを入力する。

 すると表示されたのは、

 パスワードが違います

 背筋に嫌な汗が流れた。

 ローテーションで変えてはいるけど、それでも慣れたパスワードだ。まず間違うはずはないと思う。

 でも、もう一度。

 パスワードが違います

 パスワードが違います


「──っ!」


 公式サイトのパスワード紛失対応窓口に接続。

 登録してあるメールアドレスへのパスワード送信を要請し、普段使っているメールアドレスにログインする。さっきまでアイテムコードの受け取りにも使っていたアドレスだ。

 そこにはパスワードの送信メールが──何故か、二件。

 しかも一件は既読になっていた。一度開かれてる。俺は見た覚えがないのに。

 誰かが俺のメールアカウントに勝手に入ってる? ……っ!


「やっべ、やられた!」


 これマズイぞ、俺の垢がハックされてる!

 ようやく理解した、けど、我ながら遅え!

 自分がやられるとこんなに混乱するもんかね、くそっ。

 ここ数日は普段使わない回線と機体でログインし過ぎてた。あってもおかしくない事態だってのに。ああもう。

 今受け取ったばかりのパスワードでLAにログインすると、このアカウントで他のプレイヤーがログインしていますの表記があった。

 この表記は同じIDで複数のPCから同時にログインしたときに出る表示だ。

 この表示が出ると両方のPCのクライアントが強制的に終了する。

 てことは、だ。

 たった今この瞬間に、別のPCから俺のアカウントに入っている奴が居たんだ。

 俺の『ルシアン』に誰かが入ってたんだ。


「……おいおいおい」


 ぞわりと背筋が泡立つ。

 怖いぐらいに俺に全幅の信頼を寄せてたアコが、このホテルの一室で二人きりの状態で、偽物の『ルシアン』と、何をしてたんだ?

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