三章 コラボ戦記 ⑦
「俺達は悪くない、断じて悪くない! 悪いのは全部垢ハック野郎だ!」
「絶対に許しません、全力でいきます!」
「いや、あんた達らしいけど……」
なんか呆れた風の瀬川。なんだよ、俺達は悪くねえぞ。
鬱々としたってしょうがないしさ、元気出していかないと。
「で、こっからどうするのよ。ホテルの方にはせんせーが連絡してくれてるっぽいけど」
「んー、ぶっちゃけた話をすると、垢ハックされた場合、余程のことがないと消えたものは戻ってこないんだよ。規約にも書いてあるし」
「……あんだけ盛り上がっといてそれ?」
「しゃあないだろ、やっぱ基本は自衛だし」
ネトゲで保証ってのは、基本的に何もないもんなのだ。
これは何を言っても致し方ない。
大手運営の規約とか読むと凄いぞ、全力で一遍の手抜きもなく『例え何があっても絶対に何も保証してやらない』って書いてるからな。
「それでも、やられっぱなしは気にくわないって言うなら、スピード勝負だ」
公式サイトの通報窓口を開く。
「垢ハックは立派な犯罪行為だって先生も言ってたし。運営だって無視はしないだろ。すぐに通報すれば被害時の接続IPを確認してくれるだろうし、アイテムの流れも追えるかも」
「共倒れまで持っていこうってわけね」
「理想は永久BANだな」
通報窓口に詳細な経緯を書いて報告する。被害にあった日時、状況、できる限り詳しく。
「我々にできることはあるか?」
「勿論ある。人手も必要なんだよ」
できる限り多くの人手が欲しい。もちろんマスター達にも協力してもらわないと。
「向こうもスピード勝負なんだ。どうせ俺のアイテムを売りに出してるんだから、買い戻せる範囲で買い戻す」
「ハッカーに金渡すわけ?」
「腹は立つけど、絶対に逃せないものもあるんだよ」
絶対に誰にも渡せないものがいくつかある。
高額な装備も、レアなアイテムもなくなってもいいけど、思い出の品だけは取り返したい。
「わかったわ、ユーザー露店とマーケット見回ってくる」
「私も部屋のPCを使うか。状況が変わったらすぐに連絡してくれ」
ぽんと俺の肩に手を置いて、二人が急ぎ足で部屋を出る。
残ったのは俺とアコと、先生と。
「猫姫さんも、お願いします」
「警察に任せて……ってわけにもいかないわね」
建前では思い出のアイテムは帰ってこないのだ。仕方ない。
「ちょっと友達にも声かけてみるわ」
「よろしくお願いします」
よし。まずは必要なものを集めて、それで犯人を特定して。
あのクソ野郎、絶対に許さないからな。
「悪いけどアコのキャラ貸してくれるか。ハックされたアカウントはできるだけそのまま保存しておきたいんだ。余計なログを溜めずに、運営が確認しやすいように」
「はい」
変なソフトが入っていないか一応確認して、アコのアカウントで起動。
もちろんだがアコのキャラに被害は何もない。よかった。
ただ──装備している指輪から、追加効果が一つ消えている。
『ルシアン』が消えて、アコの結婚状態が解除されていた。
「……っ」
「あんにゃろう」
「ううう……折角結婚したのに……」
「こら、凹むな」
「は、はい、私は悪くないですっ」
よしよし、それでいい。落ち込むと際限がないからな。
「それで、私達はどうするんですか」
「まずは専門官に相談かな」
アコを動かし、一度来たことがある大手ギルドの溜まり場に向かった。
休日の夕方だ、絶対居るだろうと思ったあの人は、案の定そこに居た。
◆アコ:こんにちは
◆†黒の魔術師†:ええと君は確か……ルシアンの所の
ちょこちょこと連絡は取っていたが、直接会うのは久しぶりの†黒の魔術師†さん。なんか見た目の装備がさらにゴツくなってる以外は何も変わってなかった。
っていうかゴツくなってるからこそ、多分何も変わってないんだろうなと思う。色んな意味で凄い人だ。
◆アコ:はい、中身はそのルシアンなんです。俺のアカ、アカハックにやられちゃって
◆†黒の魔術師†:やられたのかい?
◆アコ:アイテムもあれこれ盗られて、キャラも消されました
◆†黒の魔術師†:むごいことを
廃人さんの垢ハックへの同情度はやっぱり大きい。
自分の持ってる財産が大きい分だけちゃんと喪失感を理解してくれる。
◆アコ:それでちょっと暇な人が居たら、俺の装備が売りに出されてないか確認してもらいたいんです
◆†黒の魔術師†:ああ、もちろん。ちょっとみんな、いいか?
すぐに声をかけてくれた。そこにいる人だけじゃない、別キャラで動いていた人も呼んできてくれたのか、どんどん人が集まってくる。
◆アコ:ありがとうございます、助かります
◆†黒の魔術師†:ルシアンがその気なら、俺達も動こうか
◆アコ:……ええと、動く?
◆†黒の魔術師†:デモだ
†黒の魔術師†さんはキリっと言い切った。
◆†黒の魔術師†:今回の垢ハックについては我々も動く。具体的には普段はいがみ合ってる各ギルドと連絡を取り合い、短期の新ギルドを発足する。誰もが驚くような、豪華なメンバーを集めよう
◆アコ:あ、あの
「この人何言ってるんでしょうか……」
「い、いや、俺にもわからん」
待って、なんか話が大きくなってきた。
どんどん違う方向に行ってる。
◆†黒の魔術師†:当鯖最大のボス狩りギルドのリーダー、幹部三人。鯖では有名な、サービス開始以来一度もログアウトしたことがないという勇者、フレが200人いる人望の持ち主、仕事辞めて全ジョブカンストした者。他に挙げたらきりが無いが、そうそうたるメンバーで総勢30人は集めてみせる
◆アコ:やめてください
死亡フラグにしか見えないし。
普通に暇な人だけ手伝ってもらえたらそれでいいし。
◆†黒の魔術師†:そうかい? 顔なじみのGMにも話をつけようかと思ったんだけど
◆アコ:怖いんで良いです……
◆†クラウド†:話は猫姫様から聞いている!
◆アコ:あ、本当ですか
次にやってきたのは新興宗教猫姫……じゃなくて、猫姫親衛隊のアジト。
猫姫さんに頼られた†クラウド†さん達はノリノリの様子だった。
◆†クラウド†:猫姫様の友人が被害にあったというんじゃ俺達も大人しくしてはいられない。既に各地のユーザー露店とマーケットには人を配置してる。一応、フルセットで売りに出してる怪しい店や自称引退露店を中心に見てるが
◆アコ:わかりやすい装備があるのでそれで
目星のつけやすい、わかりやすい装備をいくつか伝える。
◆†クラウド†:よし任せろ。行くぞお前達
『おー!』
◆†クラウド†:我らの猫姫様の為に!
『ジーク、猫姫! ジーク、猫姫!』
「なんですか、これ……」
「レベルアップしてるな……」
すごい一体感を感じる。今までにない何か熱い一体感を。
風……なんだろう吹いてきてる確実に、着実に、俺達のほうに。
中途半端はやめよう、とにかく最後までやってやろうじゃん。
ネットの画面の向こうには沢山の仲間がいる。決して一人じゃない。
信じよう。そしてともに戦おう。
工作員や邪魔は入るだろうけど、絶対に流されるなよ。
◆猫姫:違うのにゃ……普通に頼んだだけなのにゃ……
盛り上がる一同を背後に、猫姫さんがしょんぼりとしていた。
あれこれと知り合いに頼み込み、俺達も探すことしばし、ついに連絡が来た。
◆アプリコット:この露店ではないか、ということだが
◆アコ:そうだ、これだこれ
露店に売っていたのは良くも悪くも見慣れたアイテム。
「この杖、私の!」
「やっぱり売ってやがったか」



