三章 コラボ戦記 ⑧
ピンクスターのキラキラロッド。アコから押収していたものだ。
殴るたびにキラッ☆ キラッ☆ と星が出るという、効果としては無駄でしかないエンチャントがついてる。
しかしエンチャント難易度が高いせいで値段としてはそこそこ高いんだよ。絶対にどこかで売ってると思った。
「こんなわけのわからない物がほかにあるわけないし、間違いなくこいつだな」
「愛用なんですけども、わけがわかりませんかっ!?」
さっぱりわからんよ。そんな所でショックを受けられても困る。
位置、名前、キャラクターIDを確認してSSを撮った。
これも通報窓口から送っておこう。
◆アプリコット:もう大丈夫か?
◆アコ:ああ、全部情報は取った
すると、店の中から一気に中身が消えた。
◆アプリコット:ほら、ルシアンの装備だ──極一部だがな
マスターから渡される。
既に売れたものもあるだろうし、まだ店に出ていないものもあるだろう。
でも、間違いなく俺の装備の一部だ。
◆アコ:アコの杖以外は買わなくてもいいのに
◆アプリコット:気にするな。自分の罪悪感を弱めているだけだ
マスターが気にする必要なんてないっていうのに。
こいつら揃って良い奴だから、俺と一緒に無駄な苦しみを背負うんだよ。
ありがとうな。
◆シュヴァイン:後は運営からの連絡待ちか
◆アコ:そうだけど……まだもう一つ、見つけなきゃいけないものがあって
ピコン、と効果音が。
◆†クラウド†:おい、ちょっと情報が来たぞ。知り合いがアイテムルートのモンスターからそれっぽいのを拾ったらしい。メールでそっちに送ったぞ
◆アコ:ありがとう、確認してみる
あわててメールボックスを開く。
なんかあったぞ という端的な文章に、添付されていたアイテム。
「アコのリング……あったか」
「私がルシアンに渡した指輪ーっ!」
そこにはアコからもらった指輪が入っていた。
このゲームは名前付きの指輪っていうのが買えるようになってる。
それをプロポーズの時に使って、成功したらそのまま専用の結婚指輪になる。元々『アコのリング』というアイテムが、結婚後は『アコのエンゲージリング』と名前が変わるのだ。
それがプロポーズが失敗したり、キャラクターを消したり、離婚したりすれば『アコのリング』に名前が戻る。
モンスターが持ってたってことは、要らないからと捨てたのを、アイテムを拾う習性のある敵が回収していたんだろう。
「指輪、戻ってきたな」
「良かった……」
アコが持ってる指輪と、俺が持ってた指輪。
両方が揃ってた。これでとりあえず、全部やり直せる。
後はあの野郎だ。
絶対に、絶対に、絶対に許さないよ。
††† ††† †††
本当はここで一泊する予定だったけど、予定を早めて全員帰ることにした。
俺はそのまま泊まっても良いとは思ったんだけどそこは先生から許可が出なかった。
事情を聞いたホテル側に散々謝られて逆に申しわけなくなったぐらいだ。
そして家に帰って眠れぬ夜を過ごした翌日。
事情説明だの何だので、俺は前ヶ崎高校に呼び出された。
「垢ハックされたので学校呼び出しってのも変な話だな」
「本来は変ではないのだぞ。我々は学校管轄の合宿中に犯罪被害に遭ったのだ」
「理屈はわかってるけどさ」
マスターが部長として一緒に事情説明をしてくれたおかげで、さほど大事にはならなかった。『ゲームが取られたから取り返した、という程度の話です』と言われた高齢の教師陣は一様に納得し、危ない行動を取らないようにと一通りの説教だけ受けて開放されたのだ。
俺も犯罪だって言われたら大げさだなって思うし、適当に済ませてもらえたのは嬉しい。
ただし、だから怒ってないかっていうと、また別の話になる。
「……あのさ、マスター」
「どうした」
「俺さ、自分でも驚くぐらい苛ついてる」
「大切なアイテムが盗まれた。愛着のあるキャラクターが消されてしまった。ルシアンのそれは当然の怒りだろう?」
そうなんだけど、そうじゃなくて。
「なんつうかさ、説明が難しいんだけど……アイテムが奪われたってのも腹が立つし、俺のキャラが消えたのもむかつくけど、それ以上に。あいつが『ルシアン』の振りをしてアコと話してたのが一番許せないんだよ」
「…………そうか」
静かに頷くマスター。
「あいつが『ルシアン』の振りをしてみんなに暴言吐いて嫌われてたらって思うとぞっとするし、俺のアコがちょっとの間でも他人に取られてたってのも嫌だし。もしもアコが『ルシアン』が偽物だって気づかなくて酷い目に遭ってたらって想像するだけで──」
「常に存在する危険ではあるな」
マスターは目を閉じ、苦々しく言った。
「インターネット上の繋がりは常に本人確認が難点となる。ホームページの乗っ取りやなりすましは大昔から日常的に行われ、常に問題となっている。アカウントさえ奪えば容易に他人に成り代わることができるネットゲームにおいてはなおのことだ」
「なりすます……か」
ネトゲとリアルは別だと思ってた。
全然違うものだって、リアルは気にしちゃ駄目だって。
だからこそ、俺のネトゲの人間関係がこんなにも簡単に奪われるんだってのは、本当にショックだった。
「こんなに脆いというか、危ういというか。不安定なものだったんだな、俺達の繋がりって」
「そう悪く言うものでもない」
自嘲気味に言った俺に、マスターはゆっくりと目を開いて言う。
「アコは文字だけの会話でルシアンが別人であることを見抜いた。それがたやすいことだと思うか。考えてもみろ、文字だけの僅かなコミュニケーションで相手の同一性を推し量れる人間関係がどれだけある? それは確かな繋がりの証だと言って良い」
「繋がりかあ……そうだな、そうかも」
「だろう?」
繋がりがある。俺とアコに、俺とみんなに、繋がりがある。
誰かに誇っても良いような繋がりがある。
そう考えたら──なおのこと、腹が立ってしょうがないんだっての。
「なんかむしろ、あの野郎が許せなくなってきた」
「同意見だ。運営からの返信はまだなのか?」
「ことがことだし、すぐに来ると思う。帰ったら見てみる」
まずはそこからだ。
運営チームがしっかり確認してすぐに対処してくれるなら、それでも良い。
でも──。
「もしも仮に運営があいつを見逃したとしたら……」
「それでも我々現代通信電子遊戯部は絶対に奴を逃がさん」
自信と決意に満ちたマスターの声に心が落ち着いていく。
「……悪い、ありがとう」
「ギルドマスターだからな。任せておけ」
ふっふっふと悪人顔で笑い、ギルドアレイキャッツのマスターはそう請け負った。
帰宅してすぐに確認すると『レジェンダリー・エイジ運営チーム』からのメールが届いていた。
慌ててLAにログインして連絡を取る。
◆ルシアン(仮):おい、運営チームから連絡来たぞ
◆シュヴァイン:やっと来たか……というかルシアン、その名前のセンスは『ルシ☆アン』を笑えないぜ
るさいな、わかりやすいのが一番だろ。
ハックされたアカウントは入らないで置いてるから、もう一個アカウントを作ったんだよ。
さて、メールの内容は……。
レジェンダリー・エイジ運営チームです。
お客様から頂きましたお問い合わせ内容についてご案内させて頂きます。
今回、お客様からお問い合わせ頂きました時間の接続状況を精査しました所、複数のIPによる接続と、連続したパスワードの変更を確認致しました。
通常であればお客様のパソコン内部に危険なソフトウェアが存在している可能性も踏まえた対応の案内をさせて頂いておりますが、今回はLAコラボレーションホテル内部での不正ログイン行為であり、運営チームとしても非常に現状を憂慮しています。
ご報告頂きましたパソコンの使用停止と状況確認を行わせて頂き、改めて御連絡を差し上げる形とさせて頂きたいと考えています。
大変なご迷惑とご心配を──



