三章 コラボ戦記 ⑩
◆ルシアン(仮):……RMT?
◆アプリコット:リアルマネートレード、ゲーム内の金と現金を取引する行為だが──ルシアン、知らなかったか?
いや違う、そうじゃなくて。
確かクソ野郎のブログに、RMTをしてるってのも書いてあった気がする。
それも危険な金だ。さっさと換金したがってる、はず。
ということは。
◆ルシアン(仮):まだだ
まだ残ってくれてるGMさんに聞いてみる。
◆ルシアン(仮):もし仮に、ですけど、こちらでなんとかしたら、運営も動いてくれますか
◆GM01 Nyack:……情報が増えれば、取り得る対応も増えますが
よし、それで十分!
集めればいいんだろ、こいつがクロだって情報を!
◆ルシアン(仮):わかりました、また連絡します
◆GM01 Nyack:では失礼します
来た時と同様、何の脈絡もなく消えてなくなるニャックさん。
ニャックさんからもあいつをなんとかしたいって気持ちは感じられた。そして俺達は元より諦める気なんて欠片もない。
ならやるしかない。とりあえず動くぞ。
◆ルシアン(仮):作戦を考えたから手伝ってくれ。俺達も今からブログを作るぞ、ブログ
◆シュヴァイン:ブログ? 詐欺被害ブログ?
違う、そんなの作ってもしょうがない。
◆ルシアン(仮):違う、詐欺ブログだよ。あのロンって奴を引っ張り込めるぐらいの詐欺ブログだ
◆アプリコット:そんな物を作ってどうする?
◆ルシアン(仮):URLを送りつけてやるんだよ。あんな好奇心の強そうな奴、似たようなブログがあったら絶対見に来るに決まってる。そしたら犯人のIPがわかるだろ?
自分で作ったブログなら、やってきた人のIPを確認できる。
全く公開していないブログを作れば、あいつのIPだけを集められるはずだ。
◆アプリコット:だがそんなもの何の証拠にもならないぞ?
そりゃIP取って通報しても意味なんてない。
やるならもっとでっかくだ。
◆ルシアン(仮):ブログを作るのは序の口だ。大事なのはこっからだ
やられたらやり返す。
詐欺られた以上はこっちも騙してやる。
◆ルシアン(仮):思い知らせてやる。頼む、手伝ってくれるか
◆シュヴァイン:よし、一枚乗ろうじゃねえか
◆アプリコット:二度は言わん、任せておけ
ありがとうな、みんな。
猫姫さんは──先生は、とても巻き込めないな。
◆ルシアン(仮):よし、じゃあギルドアレイキャッツ、今から、凄く悪いことをするぞ
作るのに半日はかかったが、でき上がったブログは我ながらかなりあくどいものになった。
色んな人が助けてくれてるだけあって、詐欺をしてるふりをしたSSを大量に集められた。
中でも有名人の†黒の魔術師†さんから高額アイテムを盗み取る画像や、最近名前が広がりつつある猫姫親衛隊から会費を集める話なんかはそこそこ良い出来だったと思う。
ただこっちの違う所は、詐欺をしているブログだという詐欺をしてることだ。実際にそんなことするもんか。
さらに他のメンバーとも協力して必死に下準備を進めた。
自室のパソコンでキーボードをカタカタ叩きながら、LA内で連携を取る。
◆シュヴァイン:一年前から三ヶ月前のログ、とりあえずは完成したぞ
◆ルシアン(仮):さんきゅ。こっちも最近までのログは作った。後はサイトのデザインだ
◆アプリコット:そちらは終わらせてある。ログも三年前から去年まで終わっているぞ
◆ルシアン(仮):早っ!
ブログが完成してからも半ば徹夜で作業を続けてるってのに、マスターだけはやたらと仕事が早いな。あの人は本当によくわからないぐらいスペックが高い。
いかんせん使い所がいつも無駄な方向を向いてるんだけど。
「よし、ちょっと目処が立ったかな。後はマスターのデザインを適用して……」
んー、と背筋を伸ばす。
テスト前よりよっぽど集中してるみたいで、ボキボキと骨が鳴った。
あー、痛え。それにとんでもなく眠い。でも休んでる暇もない。
やれやれだけど、さっさと続きを──ピンポーン──進めないと……?
おや? と耳を澄ませると、再びピンポーンとチャイムが鳴る音が聞こえた。この聞き慣れた音は俺の家だ。こんなタイミングで来客かよ、面倒臭いな。
◆ルシアン(仮):誰か来たから行ってくる
◆アプリコット:おや? こんな時間に来客か?
◆ルシアン(仮):死亡フラグみたいに言うな
昼だよ。普通に来客のある時間だよ。
そんなチャットをする間にもピンポーンピンポーンと再び音が響く。
「はいはいわかったわかった、すぐ行くから」
パソコンデスクを離れて部屋を出る。二階の俺の部屋から玄関へ。
あー、そういや誰が来たのか確認もしてないな……ってちょっと考えたんだけど、何せ徹夜明けだ。もう眠くて眠くてどうでもいい。
「はーい、何ですかー」
だらだらと玄関のドアを開け、外の光に吸血鬼みたいに目を細める。うおっ、まぶしっ。
その先には、
「えへへ……来ちゃった」
照れたような笑みを浮かべるアコが居た。
──ので、すぐにドアを閉めた。
「え、えええええ!?」
微かなアコの声を聞き流しつつ、なんとなくだけど鍵も閉めておいた。
「さて、作業を続けないとな」
部屋に戻ろうと踵を返す。
するとドンドンドンガチャガチャガチャピンポンピンポンピンポーン! と凄い音が。
「ルシアンーっ!」
うっわドア叩かれてる! アコが叫んでる! 怖っ! 借金取りかよ! わかった、開ける、今すぐ開けるから!
慌てて玄関のドアを開けると、半泣きのアコが飛びついてきた。
「なんで閉めるんですかあああああ」
「なんかもう反射的に」
俺も悪いけどアコの台詞も悪い。妖怪月曜日かよ、思わず閉じちゃっただろ。
っていうかそれ以上に突っ込みどころが山ほどあるんだけど。
「ええと……とりあえず、なんで俺の家を知ってんの?」
尋ねた俺に、アコは欠片の悪意もなく答えた。
「ルシアンがネトゲのアカウント作ってる時にこっそり覚えました」
「やってることが完璧にストーカーだぞ!?」
「聞けば教えてもらえると思ったので、盗み見ても同じことかなーと」
「そう思ったなら素直に聞けよ!」
発想がなんか病んでるぞアコ!
くっ、こんなことなら登録住所を国会議事堂辺りにしておけばよかった。
思いっきり規約違反だし、問題が起きた時に困るからやらないけども。
「それにルシアンも何故か私の家を知ってましたし」
「俺はいいの」
「理不尽ですっ!」
俺の方はアコの住所を何度も入力させられたせいだから。こいつと違って盗み見て覚えたとかじゃないから。決して似たもの夫婦ではないから。
「はあ……まあ話は中でいいか。入れよ」
「はい。ただいまー」
アコは何の遠慮もなく家に上がった。むしろ帰宅ぐらいのノリだった。
「ここはお前の自宅か何かか」
「主人の実家は私の実家ですよ?」
「……古風な嫁だなー」
何を当たり前な、って顔で言われたけど、そういうのって今時はあんまりないと思うなあ。
「さてさてっ」
座り込んで靴を並べ直したアコはキラキラと目を輝かせて言った。
「私の──ルシアンの部屋はどこなんですか?」
「入るなよ」
「即答ですかっ!?」
当たり前だろ。何の準備もしてない状態で女の子を部屋に入れられるわけがあるか。
まだ未実装なんだよ。マップ端の明らかに入れる構造なのに見えない壁がある進入禁止エリアと同じだ。もしも入ったらBANだ。
しかもアコ、自分の部屋って言いかけてなかったか。なんかもう怖いんだけど。
「それに俺の部屋は散らかってるから、リビングでな」
「私が掃除しましょうか?」
むんっ、と腕まくりをするアコ。
「つまり俺に死ねと?」
「い、言ってないです!」



