三章 コラボ戦記 ⑫
「プランN、どうなってる?」
「対応待ちだ、三十秒」
「西村、持ちそう?」
「持たせるしかないだろ!」
無言で始まる取引。
相手側は大量の現金を取引ウインドウに積み、トレード希望を送ってくる。
お互い何の言葉も交わさないが、画面の向こうから、さっさとOKを押せよというプレッシャーが伝ってくるようだ。
「マスター、まだか?」
「十五秒」
「くっ、厳しいわね」
「……あの、私の置いてけぼり感が、すごく寂しいというか」
このまま取引を完了するわけにはいかない。
じりじりとしながら待つが──くそ、あちらからキャンセルされた!
「フェイズ2失敗、フェイズ3に移行するぞ!」
「残り五秒、フェイズ3が成功すれば見込みはある」
よし、頼むぞ。
取引がキャンセルされた後、相手が去っていく前に、今度はこちらからトレード要請を送る。
取引をしたかったんだけどちょっと手違いで時間がかかっただけだ、と思わせるように。
今度こそちゃんとやるぞ、という意思を込めて。
はたして、再びトレードウインドウが開かれた。
もう一度積まれる多額の現金。
「おい、プランNまだか。流石にもう限界だぞ」
「待て、もう少し、もう少しだ────よし、来た」
マスターの言葉と同時に画面が白く切り替わる。
一瞬のロード時間を経て表示されたのは闘技場の中央のような空間。
◆GM01 Nyack:こんにちは
当たり前のように鎮座する、ゲームマスターの姿。
◆GM01 Nyack:何故ここに転送されたかおわかりになりますでしょうか
◆ろん:……はあ?
「よっしゃあああああああ!」
「釣り上げたぞ!」
「ふぃっしゅ、おーんっ!」
「え、えっと、あの、ええ?」
歓声を上げる俺達にアコがおろおろと戸惑う。
後で説明してやるから、一緒に喜んどけ!
◆GM01 Nyack:今回、運営サイドは、あなた方がRMT行為をしている、という通報を受けました
◆ろん:なにいってんだ? んなことしてねえぞ?
呆然とする詐欺野郎。
んなの知ったことか。悪いが話を進めさせてもらうぞ。
◆ピロシキ:はい、RMTをしようとしていました
◆ろん:はあっ!?
驚愕するロン。
そう、俺はこいつとリアルマネートレードをする、ということになっていたのだ。
RMTする相手を探すというろくでもない掲示板を介し、まったくの他人として、取引の予約を取りつけた。それをリアルタイムのGMコールで通報したわけだ。
もちろん実際には全て嘘だ。大嘘だ。金なんて一銭も払う気はない。まんまと騙してやったわけだ。
いやあびっくりするだろうな。未遂なんだから言い逃れはいくらでもできるのに、わざわざ自白するやつなんて、普通はいないよな。
◆ピロシキ:彼とはRMT取引サイトで連絡を取りました。今まさにRMTをしている所でした
◆ろん:なんだそれ、おかしいだろ──くそ、掲示板使ってハメやがったな!
◆ピロシキ:最初にハメたのはお前の方だろ
俺のその言葉に気づいたのか、ロンは舌打ちでもするように言った。
◆ろん:お前あの時の奴かw はっ、馬鹿じゃねえのwww
偉そうに馬鹿笑いするロン。
◆ろん:現金がまだ動いてないRMT未遂で何が起こるんだよwww 散々苦労してアカウント停止三日、お疲れ様でしたww はいはい良かったねwww
勝手に勝利宣言してる所に悪いが、そうはならないぞ?
俺が言おうとする前に、機先を制するようにニャックさんが言う。
◆GM01 Nyack:いいえ、あなたにはキャラクター名『ロン』にてアカウントハッキングの訴えも出ています。今回の規約違反により過去の違反歴を詳しく精査致しますが、既に証拠も充分に足りており、運営としては不正アクセス禁止法に基づいての告訴も検討しています
うわあ、超怒ってる。ニャックさんも結構腹に据えかねてるっぽい。
そりゃそうか、コラボイベント台無しにされたわけだし、あっちも怒ってないわけないよな。
◆ろん:はあ!? 俺はんなことしてねえし!
◆ピロシキ:しただろ、証拠は揃ってるんだぞ
◆ろん:証拠ぉ?
焦るロンに、ニャックさんが冷静に言う。
◆GM01 Nyack:当初の通報では不正アクセス犯とあなたが同一であることが確認できませんでした
◆GM01 Nyack:しかし今回頂いたRMT掲示板書き込みログのIPが、キャラクター『ロン』と同一であり
◆GM01 Nyack:実際に取引に現れたあなたのIPが不正アクセス犯のIPと同一であったことから
◆GM01 Nyack:同一人物が不正アクセスとRMT行為をしていると判断されました
「……ええと、どういうことです?」
アコの混乱が限界に来ていた。
ええとな、説明するとな。
「IPっつうのはネットに繋いでる人全員に決まってる個人番号みたいなもんで、悪いことするとそれで犯人が特定されて捕まったりするんだけど」
「はい、知ってます」
そりゃよかった。説明が楽だ。
「んでな、ネトゲの運営とかも、規約違反をした奴のIPを確認するんだよ。犯人と同じIPで繋いでるアカウントを全部調べたりとかな」
「はい、よく聞きます」
だからこの部室で悪いことをすると俺達全員ヤバいんだけどさ。
「それで俺達もアイテム売ってた奴が垢ハックしたんだから捕まえてくれって頼んだんだけど、IPが違うから無理だって言われたんだ」
「……なんで違ったんです?」
「俺が集めたIPから調べると、普段は自宅でゲームしてて、本当に悪いことをする時だけはネカフェを使ってたみたいだな」
既に全ての情報は手元にあるのだ。
「状況証拠から犯人は特定できるけど、IPが違うってんじゃ捕まえられない。運営もBANするってわけにいかない。そこで二つのIPが同一人物だって証拠を集めようと思ってさ」
そこで使ったのがRMT専用の取引掲示板、というわけだ。
「あいつさ、取引掲示板には自宅のIPで書き込んで、実際に取引する時はネカフェからやったんだよ。すると二つのIPに相関関係ができるから──誰から見ても見事な同一人物だ」
「それで、こうなったんですか」
こう、とGMに問い詰められる詐欺師を示す。
画面の中ではロンが無駄な抵抗を試みている所だった。
◆ろん:掲示板だあ? 俺はIPの出る掲示板になんて書いてないぞ
◆GM01 Nyack:こちらで書き込みログを確認しています
◆ろん:やってねえっつってんだろ!
いやいや、やったじゃねえかお前。
◆ピロシキ:お前書いただろ。悪い奴しかいない、RMT取引掲示板なんてのに
◆ろん:書いてねえし。仮に書いたとしても、ああいうサイトが運営にIP流すわけねえだろ、何年やってると思ってんだ
◆ピロシキ:だろ? そう見えただろ?
◆ろん:あ?
短い一言にロンの焦りが伝わってきた。
俺が垢ハックにあった時みたいな、いやーな予感があるんじゃないか?
そしてそれ、大当たりだから!
◆ピロシキ:裏切るも何も、あれは三日前に作った俺のサイトなんだよな
◆ろん:は? 何言ってんだ、何年も前からログが……
◆ピロシキ:いやあ苦労した。それっぽいログを何年分も捏造するのは
◆ろん:は、な、おまえ、まさか
そう、そのまさか。
◆ろん:俺をハメるためにサイト一つまるごと偽造したのか!?
ははははは、騙されただろう!
俺のニセ詐欺ブログからしかリンクされてないニセ優良RMTサイトに!
そう、俺はロンにしか見られない状態の『ニセ詐欺行為ブログ』からしかリンクしていない『ニセ優良RMTサイト』を作ったんだよ!
「こういう奴は好奇心だけは無駄に強いもんね」
「それっぽいサイトがあったらとりあえず確認しないと気が済まないんだろーな」



