三章 コラボ戦記 ⑬
んで見てみたら、他のサイトより明らかに、しかし怪しまれない程度に取引の値段が高い、あんまり流行ってない裏掲示板。
裏っぽい雰囲気がこいつ好みにできてる。絶対捕まると思ってた。
掲示板が裏切るわけがないと思い込んでるから素直に自宅から書きこむのはわかってた。後は規約に、取引を行う際は自宅で行わないように、なんて書いたりして、実際に取引する時はネカフェに行くように仕向ける。
ブログやサイトの管理権限までそえて運営にメールを送れば、アイテムを売ってた奴と詐欺ブログを書いてRMTまでしてるアカハック犯が同一人物だって証拠ができるわけだ。
今回は上手く運んでくれたけど、別にこれで釣れなくてもよかったんだ。
とにかく集める限りの情報を集める。今回限定ならとにかく運営が信じるに足る証拠さえあれば動いてくれると確信があった。
◆ピロシキ:いやー、ホテル巻き込んだのは失敗だったな。コラボ先が被害にあってんだから運営だってすぐに動くぞ
◆ろん:お前、馬鹿じゃねえのか、一人騙す為にそんな無駄な
自分を棚に上げて何を甘えたことを。
どうだよ、天下にとどろく詐欺師さんが騙された気分は。
「俺の嫁を泣かしてただで済むと思ってんじゃねえっての」
「ルシアン……」
◆GM01 Nyack:今回の件で、ホテルフローレス、レジェンダリー・エイジ運営チームの双方からお伺いしたいことがあります。つきましては連絡の付く電話番号、メールアドレス等をお聞かせいただけますか
◆ろん:あー、くだらねくだらね。もう興味ねえから勝手にやれよ。
◆GM01 Nyack:その場合、プロバイダーへの情報開示申請などを
◆ろん:あーうっぜ、んなクソゲー二度としねえし関係ねーから
話を聞きもせず、捨て台詞だけを吐いて、ロンは消えて行った。
見苦しいことこの上ないが、いやあ、スッキリしたよ。
◆GM01 Nyack:ろんさんに関しては、こちらでもさらに情報の精査を行います
ロンが居なくなったからか、ニャックさんは俺に話を向けた。
◆GM01 Nyack:永久BANについては間違いなくお約束できますが、それ以上については不透明な状態です
警察が動く──とはならないか。そりゃそうだな。
素人が集めた証拠しかないのに運営が動いてくれただけで御の字かな。
「とりあえず二度と俺達の前に現れることはない、ってだけで十分か」
「大勝利ですね!」
「……勝利、ではないかな」
「……?」
◆GM01 Nyack:また今回の、ピロシキさんの規約違反についでです
さあ、来たぞ。
ルシアン大敗北の時だ。
「ルシアンの、規約違反?」
「そりゃそうだよ。RMT未遂だし、RMT掲示板作ったし」
余裕の規約違反なんだよな、これが。
どんな処罰が下っても驚きはしない。
◆GM01 Nyack:明確な証拠がなければGMが介入することがないのは事実ですが、その為であれ規約違反は許されません。ピロシキさんには反省を求めます
◆ピロシキ:はい
◆GM01 Nyack:では、ピロシキさんのアカウントに対し『一週間のアカウント停止』を行います
◆ピロシキ:はい
◆GM01 Nyack:以上です
「…………はい?」
え? だけ?
他には? 何か罰ないの?
◆GM01 Nyack:また不正アクセスによりキャラクターが消去されたアカウントですが、こちらは特殊な事情を鑑み、消去された前日時点でのデータからキャラクターデータのみの復旧を行いました
「えっ、えっ」
「どゆこと?」
「ルシアンのキャラだけ復活させてやろう、ということではないか?」
混乱する俺をよそに話を続けるニャックさん。
◆GM01 Nyack:一部クエストやギルド所属、結婚状態などが解除されますが、こちらについてはご了承ください。伝達事項は以上ですが、ご質問などはありますか?
◆ピロシキ:あの……『ルシアン』のアカウントへの処罰とかは?
明らかに同一人物なんだし、メインアカウントだし、こっちも最低でもアカウント停止とかあるんじゃないか──と恐る恐る聞いてみた。
◆GM01 Nyack:運営サイドの見解と致しましては
ニャックさんは言葉を切ると、
◆GM01 Nyack:当該キャラクターに不正行為は確認されませんでした
そう、笑顔で言い切った。
「ニャックたん、マジイケメンね」
「GMかっけえ」
やばい、この人マジかっけえ。
◆GM01 Nyack:では、今後ともレジェンダリー・エイジをよろしくお願い致します
ふっと画面が切り替わる。
短いロード時間を経て、ピロシキ君は元の路地裏に戻されていた。
ありがとうピロシキ君。君の役目は終わりだ。
ありがとうGMニャックたん。あなたのことは忘れません。
「あの、ルシアン、復旧したって言ってましたけど」
アコが恐る恐る手を挙げた。
そういや復旧した、って言った以上は、もう直ってるのかも。
「見てみるかね」
いつものルシアンアカウントを起動。パスワードを入れて、キャラクターを選択。
そこには、いつも使ってる盾はないし、鎧もない、随分と情けない姿になった俺のメインキャラが、しっかりと待っていてくれた。
「ル、ルシアン! ルシアンですよっ!」
「おう、そうだな」
あー、良かった。育て直しとか面倒なことこの上ないからなあ。
「私のルシアンが帰ってきましたああああああ」
「はいはい、ただいまー。ずっとここに居るけどなー」
「るしあんー!」
狂喜乱舞するアコにやれやれと苦笑した。
なんだよ、ルシアンが戻ってこないと調子が出ないのかお前は。
「良かったわー。西村のレベル上げを手伝うとかお断りだったもの」
もうちょっとマシな祝い方しろよ、という俺の視線が通じたのか。
「……良かったわね」
「さんきゅ」
瀬川もちょっと嬉しそうに言ってくれた。
「では無事解決した祝いなのだが──少し小旅行はどうだ?」
と、マスターがぴらりと何かのチケットを見せた。
「実はホテルフローレスという所で、レジェンダリー・エイジ、コラボレーション企画、というのを行っていてな」
「いやと言うほど知ってるけど……まさか」
「そのまさかだ」
マスターが置いたチケットには、無料ご招待券、の文字が。
「我々の素早い対応のおかげで被害が抑えられたことの感謝と、不手際で迷惑をかけたことのお詫びに、だそうだ。ネトゲを愛する者として応じるのが人情だと思うが……どうだ?」
「…………」
「…………」
なんとなく微妙な心境で顔を見合わせる。
正直良い思い出がない、ってのは事実だけど……。
「……よし、行くか」
「良いんですか、ルシアン?」
「あのホテル、トラウマになってるんじゃないの?」
勝手にトラウマにすんな。
「途中までは楽しかったのに最後でケチがついたんだしさ。折角の合宿が悪い思い出で終わったら嫌だろ?」
な、とアコを見ると、彼女もちょっと笑って頷いた。
「そうですね、とっても楽しかったです」
「んじゃ決定な」
「まあ、あんたが良いならあたしは大丈夫だけど」
まだ納得していないらしい瀬川に、俺は最後の本音を漏らした。
「それにホテルのコラボアイテム、超強かったのに、俺の垢から全部消えてるし」
「ああ……納得したわ」
そっちで納得するのかよ。いいけどさ。
夏合宿第二回。
今度こそ楽しいもので終わらせよう。



