二章 剣と魔法のガチ勢 ④

 うわ、すげえ。砦の構造と説明、戦闘する可能性のあるギルドの構成なんかが一覧になってる。こんなのどうやって調べたんだ。

 そしてもう一つ。増援という記述があった。


「先ほど彼女も言ったが、確かに我々の人数では策略を練らなければ勝利は厳しい。だが卑劣な手は使いたくない。そこで考えたのが、傭兵を雇用するという作戦だ。一枚目の資料に詳しい説明がある」

「えっと、増援として傭兵ギルド『ヴァレンシュタイン』を雇用し、その打撃戦力を主軸として戦闘を行う、ですって! 仲間が増えますよ、やりましたねルシアン!」

「ちょっと、やめなさいよ! ……って、傭兵? 傭兵ってまさかマスター」

「その名の通り、金で雇われる兵士だ。我々に足りない人数を補うには良い作戦だろう?」

「マ、マスター……やっぱりお金で解決するわけ……?」


 瀬川はげんなりと頭を抱えた。

 まあ予想できた話だよね、うん。


「そう言うな。このギルド『ヴァレンシュタイン』はたったの五人で構成されている」

「ああ、なんだ。小規模なのね」


 それならいいんだけど、と言う瀬川に笑いかけて、マスター。


「だが安心しろ、リーダーのバッツ氏を始めとして、サーバートップクラスの実力者を抱えた有力ギルドだ。五人いれば五十人は殺すぞ」

「だからそういうとんでもないヤツを連れてきたら意味がないって言ってんでしょ!?」

「先生はみんなの力で頑張って欲しいのにゃ……」

「援軍を頼むだけです。数で言えば我々の方が多いのですから」


 戦力で言えば圧倒的に向こうの方が上だと思うんだけど。


「当日は開戦十分前に集合。『ヴァレンシュタイン』と軽くミーティングを行い、最初の一時間は実戦の中で連携を調整。そして最後の一時間に本気で攻める形になる」

「そんな強い所なら細かいことはお任せでしょ、どうせ」

「うむ。他のギルドからも声がかかっていたが、高い報酬を約束して引きぬいた。活躍してくれることだろう」


 マスターは自信満々に言った。

 うーん、そういう作戦になったか。


「……ちょっと、西村」


 寄ってきた瀬川が難しい表情で言う。


「結局は金でなんとかしようとしてるわよ、マスター」

「現実のお金じゃなくてゲームの中のお金で雇ってるんですよね? なら別に良いんじゃないですか?」

「それに金って言ってもとてつもない額を払うわけじゃないと思う。使ったアイテムの代金と、それなりの時給と、暴れる機会が欲しいだけだろうから」

「にしたってねえ」


 瀬川の懸念もわかるんだけど、ごめん。


「俺もこの作戦は案の一つとして考えてた」

「はあっ!? あんたも!?」

「だってしょうがないだろ、どうやったって人は足りないんだから」


 暇そうな知り合いのギルドに声かけて、使ったアイテムの金はこっちで負担するから好きに暴れてくれ、みたいな依頼をしようかなって考えてたんだ。

 そういう意味ではマスターは流石だ。

 少数戦力としてはサーバー最強クラスの傭兵を連れてきたんだ、そりゃ凄い。

 凄い、凄いは凄いんだけどさあ。


「そういう人ってちょっと特殊だからなあ。マスターに使いこなせるのか」

「マスターもカリスマがないってわけじゃないんだけどねえ」

「あの、そんな強い人と一緒に戦うのって怖いんですけど……ルシアン、守ってくださいね?」


 いやいや味方だからねその人達。


「ねえねえ先生、この『秘密結社アルパカ牧場』ってギルド、可愛いの?」

「アルパカはね、よく見るとちょっと怖い顔をしてるのよ」

「そこの正式名称は『秘密結社アルパカ牧場~未来に輝く新素材~』だ。氷結属性に対する耐性が高いアルパカ装備で固めている。もしも敵対した場合は炎属性で攻め立てろ」

「へー、本当にアルパカなんだー」


 あそこの三人は話が通じてるんだろうか。


「大丈夫かしらねえ」

「……ま、なるようになるさ」


 現代通信電子遊戯部、二度目の戦いが目前に迫っていた。


 そして日曜の昼、俺達は部室に集まった。

 まだ文化祭まで少し時間があるが、日曜日にやって来て準備をしようって熱心な生徒は沢山居るみたいだった。


「あのね、学生の皆と違って、先生は明日も仕事なのよ?」

「先生の仕事場と俺達の登校先は同じですよ」

「休みの日の部活監督も顧問の仕事でしょ?」

「顧問の仕事は無給なのにゃああああああ!」


 知りたくない事実が明らかになってしまった!


「勤務形態に問題があるのでしたら、改めて理事会の方に」

「ああいいのよ、教師はこういうものだから。大事にしなくていいから」


 真面目に受け取るマスターに先生がうろたえてる。

 教師って意外と大変なんだな、うん。


「さて、そろそろ攻城戦の時間だ」

「緊張しますねー」


 ちょっとアコの表情が硬い。

 人と喧嘩するってだけで憂鬱らしい。


「もう範囲攻撃でぐちゃぐちゃにされる夢を見るのは嫌なのよ」

「夢にまで見たか……」


 ネトゲの夢を見ることはよくあるけど、そんな拷問みたいな夢は辛いな。


「やった、勝った! 砦を取った! ってタイミングで目が覚めた日もあったわ。あの時の喜びをどうしてくれるの?」

「あの日は朝から茜に八つ当たりされたんだよ。酷くない?」

「仕方ないって。夢でレアが出て超喜んだ後、朝になって目が覚めてそれがないってわかった時は──もうとりあえず目に入るものを全部壊したくなるから」

「夢と現実は違うよっ!?」

「とにかく俺の前にあのレアがないのが気に入らない」

「砦が手に入ってないのが気に入らない」

「八つ当たりはやめよう、ね?」


 何故か秋山さんに八つ当たりをする俺達。

 それも全部苦笑いで済ませるあたり、彼女もやたらと器の広いリア充さんだ。


「さて、そろそろヴァレンシュタインと合流の時間だ」

「対人廃人さんねえ……どんな人なのかしら」

「要するに誰かを倒すのが好きでたまらない人ですよね」


 そういう言い方をすると危ない人みたいに聞こえるからやめて。


「誰かより強いってことを証明したいとか、単純に全てをぶち壊しにするのが面白いとか、そういう人も居るしさ」

「結局変な人じゃないですか」

「変じゃない人もいくらでも居るんだけど、やっぱ変な人が目立つからなあ」


 どこの業界でもそんなもんだ。

 そして、少人数最強ギルド、なんて異名がつく所は──大抵の場合、変なギルドだ。


「む、来たぞ」


 言われて画面を見ると、約束したカントルの広場に入ってくる数人のプレイヤー。

 ギラギラと光を放つ装備に全身を固めた五人組がこちらに歩いてきた。

 エンブレムは今にも飛び立とうとするワシの紋章。

 色んな意味で有名な傭兵ギルド『ヴァレンシュタイン』だ。


◆バッツ:うーっす

◆コロウ:どうもー

◆ミズカ:こんにちは^^


 先頭でやって来たのが、確かリーダーのバッツさん。俺と同じアーマーナイトのコロウさんとヒーラーのミズカさんが挨拶をした。


◆アプリコット:わざわざすまないな

◆ルシアン:よろしくお願いします

◆アコ:よろしくお願いしまうs


「チャットで嚙むかお前」

「だってえええええ」


◆シュヴァイン:おう

◆セッテ:よろしくー

◆猫姫:にゃ


 にゃ、で済ませる猫姫さんも相当な強者だなあ。

 後ろの二人……弓を担いだ人と、マスターと同じ魔法職の人は黙ってこちらを見つめてる。なんかちょっと怖い。


◆バッツ:悪いね、砦の近くだと同盟とかいじれないからちょっと遠いけどここにした


 チャットウインドウに表示が出た。

▼[ヴァレンシュタイン] と 同盟を結びました▲

 あー、本当に仲間付きで戦うんだなって変な実感があるなあ。

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