二章 剣と魔法のガチ勢 ⑤

◆アプリコット:構わないさ、攻城戦開始からすぐに戦う気もない

◆バッツ:あ、そう? 最初から思いっきりやりたかったんだけどw


 そう笑うバッツさんの装備は、なるほどとんでもない。

 見るだけでわかる、これは対人戦に本気の人だ。


「強そうだな……」

「そう? あんまり強そうに見えないわよ?」

「いやいや、んなことねーって」


 単にMOB狩り用の装備を強化してるだけならどこにでもいる普通のプレイヤーだ。

 あの人達は、魔法防御が高い代わりに攻撃力が下がる鎧だとか、対人防御だけしか上がらない頭だとか、切るだけでデバフが入るっていう、モンスター狩りだと絶対使わない武器とか、そういう装備をオーラを放つぐらい全力で強化してる。


「対人専用装備なのにそれを躊躇いなく完全強化してるってのは、本当にガチ勢だ」

「ああいうのを指して強そうって言いたくないわね」


 そうかな、あれはあれで調和が取れてて結構格好良いんだけど。

 軽装だけど、なんかこう……人を殺す装備、って感じで。


◆アプリコット:では軽く連携の確認をするか

◆バッツ:あー、そうだな

◆コロウ:じゃあ盾の人、スイッチのタイミングだけ決めとく?

◆ルシアン:え……対人でスイッチとかするんですか?

◆コロウ:あー、んじゃいいや


 え、いや、説明! 説明して!

 スイッチってあれだろ、でかいボスの相手とかしてる時、一人でずっと盾役やってるとスキルとポーションのクールタイムで物理的な限界が来るから、盾役を交代するんだろ! 知ってるって!

 でも対人でどうやって何をスイッチするの!? ねえ!?


◆ミズカ:アコさんバフの振り分けはコンセが私でいいですか^^?

◆アコ:え、ええ?

◆ルシアン:ごめん、こいつまだコンセ使えないから

◆ミズカ:ああ、じゃあサクラお願いします^^;


「バフの振り分けってなんですかっ!?」


 落ち着け落ち着け、レイドPTなんかでもあることだから。


「二人で同じバフかけたら面倒だから、かけるバフを二人で分けるんだよ」

「じゃあサクラメントだけしてればいいんですね」

「全員にな」

「…………ひとり、ふたり、さんにん……」

「十一人PTだから」


 頑張れよヒーラー、大事な仕事だ。


◆ミズカ:こっち五人のリカバは私がするので、そちらはアコさんと猫姫さんお願いします^^

◆アコ:は、はいっ

◆猫姫:わかったのにゃ、アコちゃんに任せるのにゃ


「リカバリーオールも私がやるんですかっ!」

「多分十人超えぐらいのPTでも普通はヒーラー一人だぞ」

「無理でずうううう」

「先生は基本的に見てるからね」

「こんな所で先生をやらなくていいですー!」


 アコに泣きが入ってるのはともかくとして、準備を進めよう。


◆バッツ:セッテまだ低レベ? 装備それだし。じゃあ適当に指示出すからその通り動いて

◆セッテ:はあい

◆シュヴァイン:俺様はどうするんだ

◆バッツ:大剣でしょ、つっこんでらんらんしてればいいよ

◆シュヴァイン:らんらん……


 敵のど真ん中で大剣スキルのランページソードをぶん回しているだけ、っていうのが一番強かった時代に生まれた、クソゲーをたゆたうもの、らん豚になれとの指示が出てしまった。

 だ、大丈夫かな瀬川、怒ってないかな。

 ちらっと見てみると、ちょっと据わった目つきでキーを叩いてる。


「らんらんすればいいのね、ああそうね、わかったわ、わかったわよ」

「大丈夫か瀬川」

「いいわよ、らんらんしてやるわよ。あたしの大剣の威力舐めんじゃないわよ」

「お、おお。頑張れ」


 火力に特化してる分、威力だけなら捨てたもんじゃないから、シューならきっと活躍してくれると俺は信じてるよ。


◆バッツ:後はだいたい俺達について来てくれればいいから

◆アプリコット:そんな曖昧な方針で良いのか

◆バッツ:大丈夫だって、カントルとか余裕だからw

◆アプリコット:……そうか


 なんだか空気が悪い。

 本気で、決死の覚悟で、ガチガチに緊張して、頑張って勝つぞって気持ちで来た俺達と違う。

 ヴァレンシュタインの人達は適当で、曖昧で、全然本気じゃない。

 でも俺達が知らないことを山ほど知ってて、きっと適当なままで俺達よりずっと上に居る。

 そのズレがなんか嫌な感じ。


「ねーねー、ルシアン君」

「なんでしょうか」


 横合いから言ってきた秋山さんに返すと、彼女はちょっと微妙な表情で、


「……えっと、これは本題じゃないけど、なんで私にはほんのり敬語なのかな?」

「つい癖で」


 どんな癖? と首を傾げながら、秋山さんはモニターの中のバッツさん達を指した。


「この人達さあ、なんかやな感じじゃない?」

「んー、そっか?」


 確かにノリが軽いっつうか適当っていうか、舐められてる感じはある。

 実際俺も空気が悪いなって思った。

 けど、俺達が弱いのは本当のことだし、仕方ないって思わなくもない。


「んーと、説明が難しいんだけど……この人達ってさ、トゥイッターのフォローを早めに外しとかないとマズそうな子の空気がある、っていうのかな」

「どういう空気!? フォロー外さないとどうなんの!?」

「勝手に炎上してこっちまで延焼するの」


 わ、わからんでもないけど!

 こいつと繫がってるといつかすげえ迷惑しそう、みたいな輩は居るけど!


「まあまあ、初対面の人をそう悪く言わずに。仲間だしな」

「んー、私の勘当たるんだけどなあ」


▼ただ今より攻城戦を開始します▲

 不満気な秋山さんをなだめながら、俺も内心思った。

 この人の勘って超当たりそうだなあ、と。


 そしてやって来たカントル小砦。

 人気のない砦だけあって今の所は攻めているギルドも居ない。

 敵もさほど多くはなく、少ない見張りが小さな外壁の上に居るのが見える。


◆ルシアン:気づいたかな、砦の入り口に防衛線ができてる

◆バッツ:んじゃレベルの低い……セッテとアコ、それぞれ壁沿いに北と南に走って

◆アコ:えっ

◆セッテ:なんでー?

◆バッツ:いいから、一周して帰ってきて


 どうしよ、とこっちを見る二人。

 いやいや俺を見られても、指揮官は俺じゃないよ?


「とりあえずは指示通りにやってみるか」

「はーい」

「砦の周りを走ればいいの? 人居るよ?」


 とてとてと走っていく二人。

 砦の近くを走ってるもんだから、当然外壁の上から攻撃魔法が飛ぶ。弓も剣も槍も飛んでくる。


◆アコ:攻撃されてますーっ!

◆猫姫:二人とも逃げるのにゃーっ!

◆バッツ:おけおけ、逃げろ逃げろ、壁沿いに逃げて


 どんどん俺達から離れていくアコとセッテさん。

 まるで餌のように、その後を追って数人がついていく。

 ひとしきり前線を確認して、バッツさんが剣を構えた。


◆バッツ:よし、前線から人が減ってる、いけそ


 その為に走らせてるのかよっ!?

 マジでただの餌でしかなかったのか。


◆アコ:私達って囮ですかっ!?

◆セッテ:えー、酷くないー?

◆バッツ:いつ死んでもいいから、適当に引きつけてw


「何よそれ。囮やるならあんた達でやればいいじゃない」


 瀬川が荒っぽくマウスを操作しながら言った。

 傭兵で雇われた側なのに、雇い主を囮に使うってのはいただけない。


「酷いは酷いけど……戦術としては正しい。戦術としては」


 特に低レベルテイマーのセッテさんは本気で役に立たない。

 その彼女で数人を引きつけられるならとても効率は良いかもしれない。

 勝利だけを目指すならこういう作戦をいくつも使うのが正しいんだろうけど──。


「……私の好きな戦い方ではない」


 俺の考えをそのまま引き取るように、マスターが眉をひそめた。

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