二章 剣と魔法のガチ勢 ⑥

 そうだよな、今でこそ使えるようになったシュヴァインがまだまだ下手だった頃も、アコがいくらミスをする奴でも、仲間を捨てるようなことは絶対にしなかったのがマスターであり、俺達のアレイキャッツだ。

 適当に引きつけて死ねなんていう指示を出すようなギルドでは、断じてなかった。


◆バッツ:このタイミングで崩すから


「言っていても仕方あるまいか。行くぞ」

「このイライラ、あいつらにぶつけてやるわっ」

「ええい、やってやるよっ」


 アコとセッテさんを置いて、シュヴァインと共に防衛戦へ突撃をかける。

 俺だって練習したんだよ、二十人規模の相手なら抜けられる、はずっ!


「よし、行けそう」

「ぶった切ってやるわよっ!」


 薄くなったとはいえ遠距離攻撃の弾幕が降りそそぐが、練習通りに合間を抜ける。

 シューからもらった装備でMDEFを上げてある。意図的に魔法陣の上を抜け、弓矢を避けて前に出る!

 なんとか敵前面にたどり着くって所で、敵の前衛が俺達の前に立ちはだかった。

 俺と同じく盾を構えて、槍装備のアーマーナイトが正面から俺を睨む。


「敵前衛が前に出てきた! 当たるぞ!」

「向こうが前に出てくればこちらの魔法の射程内だ! 潰されるな!」


 盾同士なら、後ろの火力をどれだけ信じられるかが勝負だ。

 奴の一発目を防いでスタンをかける、一人ずつ倒していけば──。

 そんな風に思考を回していた間に、目の前を黒影が横切った。


◆バッツ:止まんなくていいよw


 横から滑るような動きで接近してきたバッツさんが、両手の剣を一閃していた。

 俺の正面に居た敵のHPが一発で半減する。

 反撃しようと突き出された槍をするりと避けて背後に回る。

 双剣をさらに一振り。それで敵の剣士は沈んだ。

 いや、あの、俺のやる気とかそういうの、どうすれば……。


「……は? 何なのよ、今の」

「凄まじい火力だな」

「火力もだけど……」


 凄いのは火力だけじゃない。

 先頭で走っていたアーマーナイトの俺に視線を集めて、弾幕の薄く、かつ敵に近い部分だけを的確に抜けて突破してきた。

 俺を攻撃しようとした敵の機先を制して一撃を入れ、自分のスキル硬直を細かい移動でキャンセルし、最初から読みきっていた敵の反撃をモーションキャンセルのついでだけで見事に避けきる。

 背後からの攻撃で前衛を屠った後は即座に敵陣の真ん中に突っ込んで、柔らかい相手から食いちぎるように倒す──その動きにも一切無駄がない。

 こんな動きができるものなんだ。


「飛んでくる遠距離攻撃も減ってると思ったら、後ろの弓の人が凄い勢いで落としていってるわね」

「半端じゃないなこの人達」

「ううう、まだ一周終わりませんー」

「あーきーたー」


 アコとセッテさんはまだ砦の周りを走ってた。

 ごめん、二人共。本当にごめん。


「……何もする必要がないな」

「本当にな」


 俺達がほとんど何もしていない間に『ヴァレンシュタイン』の人達が敵の防衛ラインを叩き潰した。

 後退させたとか崩壊させたとかじゃなく、全員を倒したんだ。

 本当に冗談みたいだった。


◆コロウ:ここが一番守りやすいポイントだったから後は流れ作業でいける、押します

◆ルシアン:はーい


 同じ盾職のコロウさんと肩を並べて砦の内部を進軍する。

 砦の中庭に作られた二つ目の前線も敵じゃなかった。俺と比較にならない速度で前線の端を突破したコロウさんが後方で盾を振り回し、『エンペラーソード』のメンバー達はろくに抵抗もできないまま倒れていく。


「なんぞこれ」

「ありえん」


 げんなりと見守るしかなかった。


◆アコ:ルシアン、待ってくださいー

◆ルシアン:お、アコ、追い付いたか


 最後尾にようやくアコが追い付いてきた。追いかけてきた敵は途中で戻ったらしい。

 進んでいく陣形から少し離れてアコを待つ。

 やっぱこいつが居ないと調子が出ないよ。

 とっとっと、と軽いアコの足音が聞こえる──のと一緒に、とっ、とっ、とっ、とゆっくりの足音が。


「……ステルス!」


 この音は、ステルス移動をしてるアサシンの!


「アコ、まずい! どっかにアサが隠れてる!」

「えええっ、ど、どこですか!?」


 動揺したアコの足が止まった!

 ちょっ、それは一番駄目! 足を止めちゃ駄目だ!


◆ロキ・F:ヘアッ!


 足を止めたアコの背後から飛びかかったアサシンの短剣が迫る。

 ヤバイ、後ろからモロに入った! アコの防具だと即死まである!


「きゃーっ!」


 べしっ、と。

 アコが闇雲に振るった杖の一撃がロキさんを叩き落とした。

 しかし不屈のロキさんはさらに短剣を振るう、が。


「何か居ました、出てきましたよ! きゃー、きゃーっ!」


 アコが適当に振るう杖の攻撃がロキさんの攻撃を発動前に止める止める。


◆ロキ・F:おうっ! おうっ! おうっ!


 腕を狙えばキラッ☆ と迎撃され、足を狙ってもキラッ☆ と防がれ、突進してもキラッ☆ と止められる。


「う、うわあ……」

「きゃー、きゃーっ! ルシアン、助けてー!」

「お、おう」


 通常攻撃だけでハメられるロキさんの哀れさに硬直してたけど、そんな場合じゃなかった。

 とにかくアコを助けないと!


◆バッツ:邪魔

◆ロキ・F:うああああああああ


 いつの間にか戻ってきていたバッツさんが一撃でロキさんをのした。


◆バッツ:さっさと行くよ

◆ルシアン:は、はい


 可哀想に、ロキさん。

 公式から頭蓋骨が配られたりしなきゃいいけど……。

 俺達が居ない間にも本隊は突き進んでいた。

 最終防衛ラインである領主の間はそれなりに硬い前線が敷かれてたんだけど、


◆バッツ:俺達全員で行くから、見てればおけ

◆ミズキ:私も前に出るんで、後ろお願いします^^

◆ルシアン:全員って、ちょっ


 言葉通り、本来後衛に位置するはずの魔法職や弓手まで五人全員が躊躇なく飛び込んでいき、全員が暴れに暴れた。


「もうこいつらだけでいいんじゃないかな……」

「遺憾だが、そう思わざるをえない」


 あっさりと領主クリスタルを叩き割った傭兵ギルド『ヴァレンシュタイン』を見て、俺達は全てのやる気が奪われていくような気分だった。


◆アプリコット:ともあれ、ここに我々のクリスタルを置けば良いわけだな

◆バッツ:そそ


 マスターがそっとクリスタルを設置する。

 蒼い輝きが領主の間を包み、チャットウインドウにアナウンスが流れた。

▼砦[カントル小砦]を[アレイキャッツ]が占領しました▲


「……達成感、ないわねー」

「こういう形でクリアして欲しくはなかったにゃあ」

「贅沢を言うものではない」


 そうたしなめるマスターが一番納得いかなそうな顔してるよ?


◆バッツ:じゃあさっきラインを潰した所で守ってて。俺達が裏で隠れてて、攻めてきた敵の後ろをつくから

◆ルシアン:了解です


 もはや完全に指揮権を奪われた俺達アレイキャッツ、言われるがまま中庭に前線を作って待った。


◆セッテ:遠くから団体さん来てるー

◆ルシアン:了解……ってセッテさん、どこに居んの?

◆セッテ:戻ってもしょうがないから上から見てたの


 ああ、要領いいですね、大正解です。

 俺の周りってそういう人は珍しいからちょっと新鮮。


◆バッツ:またエンペラーソードだなー。適当に潰すから、範囲打って足止めて

◆アプリコット:わかった


 再びやって来たのは、当然砦を奪われた直後の『エンペラーソード』だ。

 怒り任せに突っ込んできた彼らだけど、マスターの大範囲魔法に一瞬足を止めた。


◆バッツ:んじゃゴーで

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