二章 剣と魔法のガチ勢 ⑦
そのタイミングで背後から『ヴァレンシュタイン』の攻撃。
食らいたくないなー、この攻撃。
「うわ、ノックバックで範囲に叩き込んだ。それも一振りで三人も」
「む、メテオが当たったな」
当たりさえすればマスターの火力は伊達じゃない。
打ち込まれたメテオは三人まとめて消し飛ばした。
「今回に備えてストライクダメージ:フレイムをダブルでつけたからな。火力は更に上がっている!」
「またそんな特化エンチャを……」
バッツさん達は敵の反撃が来る前に乱戦を抜け、マスターのメテオが放ったエフェクトに隠れてタイミングをズラし、再度突撃をかけた。
ろくに抵抗もできずに倒れていく『エンペラーソード』、およそ二十五人。
◆バッツ:あー、マジ雑魚
たった五人で五倍のプレイヤーを倒しておいて、彼はあっさりと言い放った。
現在時刻十三時五十分。
「残り十分、か」
「そーね」
時計を見たマスターに、瀬川がだるそうに返した。
「面白くなーい」
「…………」
秋山さんは既にキーボードから手を離してるし、アコすらも余り楽しそうじゃない。
何度かやって来た『エンペラーソード』も、ちょっと姿を見せた他のギルドも、『ヴァレンシュタイン』が完璧に叩き潰した。
少数精鋭、連携のでき上がった廃人ギルドってこんなに強いんだな。
知ってたけど、想像以上。
◆バッツ:あー雑魚ばっか。つまんねー
◆ミズキ:カントルなんで^^;
◆コロウ:俺達が強すぎるだけじゃ
大口を叩くだけのことはあるけど、その砦を取れずに困ってた俺達の前で言わなくても。
「ねえ西村くん」
秋山さんが俺の肩をつついた。
なんでしょうか、あんまり顔を近づけられると怖いんですけど。
「この人達やっぱりやばくない?」
「そりゃやばいぐらい強いけど」
「じゃ、なくてさ」
秋山さんに呼応するように、アコも不安そうに首を傾げる。
「私もなんだか、ちょっと嫌な感じが」
「あ、アコちゃんもわかる? なんかねえ、本当に良くないタイプだよ、こういう人」
「良くないって言っても……」
抽象的過ぎて何が言いたいのかよくわからん。
「瀬川、どう思う?」
静かに画面を見つめている相棒に聞いてみる。
しかし頼れる相棒はなんかこんな顔→(´・ω・`)で言った。
「シュヴァインは豚だから難しいことはわからないわよ」
「しっかりしろ瀬川ー!」
らんらんになってるー!
他人任せのクソゲーが瀬川の心をらんらんにまで落としてしまった!
「(´・ω・`)やんやん?」
「やらねーって、出荷するぞお前」
マジで豚だからツッコミにくいし!
「……ま、どーでもいいわよ。これでエンブレム校章にしてSS撮ったら文化祭の準備終わりでしょ、楽で良かったわ」
あーあ、と背中を伸ばす瀬川に、マスターが眉をひそめる。
「油断するな、まだ終わってはいないぞ」
◆猫姫:そうにゃ、終わるまでが遠足なのにゃ
「先生みたいな台詞ですね」
◆猫姫:ひどいのにゃ><
そんな言葉通り、バッツさんから連絡が入った。
◆バッツ:んじゃ俺達は最後に備えて町で補給してくる。すぐ戻るから
◆アプリコット:了解
町への帰還アイテムを使い、ヴァレンシュタインのメンバーが戻っていった。
「彼らが居ない間が危険だ。戻るまでの間集中して防衛を──」
マスターがそう指示を出していた、まさにその時。
俺達のチャットウインドウにこんな文章が表示された。
▼[ヴァレンシュタイン] との同盟が 解除されました▲
「……は?」
なんだ、どうなってる?
同盟が解除された? あの人達との?
「えっ、攻城戦中に同盟って解除できるの?」
「ギルドメンバー全員が町の中に戻れば可能だ」
「と、ということは、つまり、あの」
アコがおそるおそる、と聞く。
「こうやって同盟が解除されたら、どうなるんです?」
「あいつらの攻撃が、俺達に当たるんだよ」
「それってもう何もかもが駄目なやつですよね!?」
駄目なやつですね、ええ。
「ね、言ったでしょ? ヤバイって」
あーあ、と秋山さんが苦笑いする。
信じておけば良かったかなあ、この人の勘。
「まだ何が起きたかはわからんぞ」
マスターはそう言うけど、でも余りにも予想がつく。
◆猫姫:すぐ戻ってくる、って言ってたからにゃ
「ですよね……」
そしてクリスタルを守る俺達の前に、バッツが現れた。
仲間は居ない。
たった一人の、しかし最強の──『敵』だ。
◆アプリコット:どういうつもりだバッツ
◆バッツ:だまして悪いが、仕事なんでな。死んでもらおう
バッツはニヤリと笑って剣をとった。
◆アプリコット:罠……だと!? そんなことが!
ばっと手を広げ、驚愕に表情を歪めて言うマスター。
なんでそこで無駄にノリノリなのかな!
◆バッツ:相手は俺一人、止めてみろよw
◆アプリコット:迎撃!
「簡単に言うけどなっ!」
実際止められる気がしない。
対人戦で人数は圧倒的な力ではあるが、最強の単体戦力もまた圧倒的な力。
言っちゃなんだけど雑魚揃いの俺達が束になっても勝てない相手っていうのは存在する。
「これが入ればワンチャンあんだろ……くっそ!」
何とかスタンだけでもと振るったバッシュが避けられ、するりと抜けた先に居たセッテさんが一撃で切り払われる。
◆セッテ:ばっつんひっどーい
あーあー、と秋山さんが両手を上げる。
「この、調子にっ」
瀬川が大剣を振るうが、モーションと射程が完璧に見切られてる。
シューが大技を振るために動いた数歩、その移動タイミングで突撃スキルを打ち込まれた。
◆猫姫:にゃっ!
猫姫さんの回復で一瞬だけ立て直すが、猫姫さんを壁にして俺達と対角線上に動くバッツに一撃も入れられない。そのまま猫姫さんが倒れる。
◆猫姫:無念なのにゃ……
「一緒に行くわよ!」
「あわせる!」
シューのタイミングはわかる。
この状況で小技を使う奴じゃない、突撃スキルキャンセル大範囲技で決めにかかるはず。
「あんたの言う通りらんらんしてやるわよ、食らいなさいっ!」
シュヴァインが腰だめに大剣を大きく振る。
範囲は広い、避けられるタイミングじゃない、はずが。
カウンター! カウンター! カウンター!
「噓でしょっ!?」
「あれカウンター取れんのかよ!」
大剣の振り回し攻撃はダメージ判定が三回ある。
その判定が出る一瞬だけをついて、カウンターが三発入った。
んなことできるのかよ、本スレでも聞いたことねえぞ!?
「これ無理だわー」
シュヴァイン自身の火力まで上乗せになった三連撃に、攻撃した本人がぶっ倒れた。
「くっそっ!」
まだバッシュのクールタイムが終わってない、スタンは入れられない。
いや、仮に入ったって俺一人の火力じゃ……。
「むーりーだー!」
殴っても切っても体当りしても全部避けられる。
無残、としか言えない状態で、俺もやられた。
◆バッツ:ラスト一人
◆アプリコット:くっ!
詠唱していたマスターの魔法が発動する前に、バッツが肉薄する。
一発は耐えた、二発目も、三発目も、四発目も。
狩りステの魔法職としては脅威の耐えっぷりだ。
流石だけど──それだけだった。
◆アプリコット:そ、そんな馬鹿なああああああああああ
「マスター、断末魔が完全に悪役だぞ」
「制御できない傭兵に背中さされた王様ってこんな絶叫をするもんよね」
俺達のクリスタルが叩き割られる。
▼[カントル小砦]を[ヴァレンシュタイン]が占領しました▲



