三章 ファイナルチャレンジャーⅩⅣ 新生アレイキャッツ ⑤
勢いに乗った野良猫姫親衛隊を止める力は『エンペラーソード』にはなく、ついにクリスタルの前にたどり着いた。
◆シュヴァイン:ほらよっ
シューの手でクリスタルが叩き割られる。
ここに俺達のクリスタルをはめれば、砦を占領できるわけだ。
◆猫姫:ここで猫姫さんのクリスタルを入れたらどうなるのにゃ?
◆アプリコット:あなたの社会的地位が終わります
◆猫姫:や、やらにゃいにゃ! 絶対やらにゃいにゃ!
リアルの方の猫姫さんがぶんぶんと首を振った。
無謀なこと考えないでくださいよ。
◆アプリコット:では……はめるぞ
▼[カントル小砦]を[アレイキャッツ]が占領しました▲
◆ルシアン:よし!
◆シュヴァイン:やったぜ!
◆アコ:先週の百倍ぐらい、嬉しいですねっ!
◆ルシアン:だな!
圧倒的達成感の違い。
これだよこれ、俺達の力で手に入れて、それでこその成果だよな!
◆アプリコット:油断するな! これより作戦は第二段階、防衛戦に入る!
喜んだのも一瞬、マスターはすぐに指揮に戻った。
◆アプリコット:今度は奴らの戦法を逆手に取るぞ。先ほどまでの資源収拾班、奴らの資源採集場を狙え。僻地戦で戦力を削ぐのだ。掘り死を許すな!
掘り師はともかく掘り死は放っておいても良いと思うよ?
戦力の少ない俺達はジャイが沢山来ると砦の外壁がボロボロになって守るどころじゃなくなる。ジャイに気を付けないといけないのは確かかな。
◆ユユン:ジャイ発見! ジャイ発見!
◆†クラウド†:ジャイ破壊部隊出撃! 蹴散らせ!
タイミングよくジャイアントカタパルト発見の報告。
うおおおお、とまだ鬱憤のたまっている前衛部隊が走って行った。
頑張れよー。
◆ユユン:──っ、前線付近に敵部隊が集結中! 規模から主力と思われます!
「ちいっ、ジャイは囮か! 残り時間は!?」
部室とパソコンの時計を見ると、どちらも時間は十三時四十分。
「残り時間は二十分だ!」
「ならばジャイを放置するのは危険か」
マスターはぎしりと椅子を鳴らし、姿勢を崩した。
「だが奴らの規模から見て次の攻撃はない。これが最後だ。ならば──」
その場で立ち上がり、マスターは俺とアコに指を向けた。
「ルシアン、アコ、別働隊を組織して奴らの背後に回れ!」
「それは『ヴァレンシュタイン』の作戦か?」
「うむ。これは『エンペラーソード』には一度見せている作戦だ。大きな危険がある。だが成功すれば我らの勝利だ。どうだ、やってくれるか?」
ちらりとアコを見る。
「やります、私だって、逃げません」
アコの瞳に怯えはあったけど、それ以上に強い決意があった。
その手をそっと握り、俺も頷く。
「よし、受けた!」
「うむ。盾とヒーラーが居る以上、残りは火力前衛でまとめてくれ」
「あたしの手勢を預けるわ。下手な使い方したら承知しないわよ」
「お前は戦国武将か何かか」
無駄に男前だな。
◆ユユン:本隊が前線へ移動開始!
◆猫姫:親衛隊防衛線、構築終わったのにゃ!
◆ルシアン:すぐに出る! 行くぞお前達!
◆アコ:生きて帰りますっ!
俺とアコは少数の味方を連れて砦を飛び出した。
エンペラーソードの視界外を迂回するように後方へ回る。
「落ち着けよ。最悪デバフの解除だけしてくれれば俺達が戦うから」
「はい、大丈夫です」
「声が震えてるぞ」
「だ、だって、怖いんですよーっ!」
「失敗しても誰も気にしないから」
「私が気にするんですっ」
必死な顔をするアコの頭をぽんぽんと叩く。
そんなに気負わなくても大丈夫だっての。
◆ユユン:『エンペラーソード』主力と前線が衝突!
報告が入った。
「よし……」
アコの頭から手を離し、ほんの一瞬見つめ合う。
◆ルシアン:行くぞ!
◆アコ:突撃ですーっ!
『エンペラーソード』の後方から突撃をかける!
突っ込んで暴れて、そうすれば味方が倒してくれるはず!
そう信じて突撃をかける俺達に対して、敵がぐるりと向き直った。
◆アコ:ルシアン、気づかれてます!
◆ルシアン:迎撃か!
やっぱりバレてたか!
反転した一部部隊が完璧に俺達へ照準をあわせてる。
それでも止まるわけにはいかない。突撃だ!
◆アプリコット:こちらも突撃だ! 総員、前へ!
「はあっ!?」
俺達突撃部隊が迎撃されたとはいえ、大半は前線を維持してる。突っ込んで勝てる状況じゃないはずなのに、味方前線がぐちゃぐちゃになって突っ込んできたっ!?
「な、ちょ、どうしたっ」
「西村っ、いいから目の前の敵を倒してっ!」
「言われなくてもそれぐらいしかできることねーよ!」
乱戦も乱戦、大乱戦だ。
凄い数の敵味方が入り乱れて何が何だかわからない。
「頑張ってねー」
突っ込んでないセッテさんが気楽に応援してる。ああもう、楽そうだな!
あっ、むーたんが死んだ。
「アコ!」
「はいっ」
「私の位置がわかるか?」
「え、あ、えっと……はいっ」
二人の会話を聞いて、戦闘を続けながら位置を確認。
アコは俺の横にいる。マスターは──。
「ちょ、ロウウィザードのくせに乱戦のど真ん中に居るのかよ!?」
「ははははは! いいかアコ、私を見ていろ、私だけを見ていろ!」
「ど、どういう意味ですか?」
「こういうことだ!」
アプリコットの足元に巨大な魔法陣が出現する。
何度も見たマスターの必殺技、自分中心メテオ。
「な、そこでメテオ打つのかよ!?」
当然だけど攻撃が集中する。
矢が、剣が、魔法がマスターに飛んだ。
こんなのすぐにやられるに決まって──ない!?
マスターが黄金のオーラを放ちながらその全てに耐えぬいてる!
多分詠唱妨害を受けない装備をしてる──でも、その耐久力はどうなってんだよ!?
「私を、ギルドアレイキャッツのマスターを! 舐めるなよっ!」
詠唱がぐんぐん進む。
まさかこんな無茶をする魔法使いがいて、さらにそいつが倒せないなどとは誰も思わない。
無数の攻撃に棒立ちで耐えぬいて、マスターが呪文を完成させる。
その寸前に。
「アコ!」
「──エクストラダメージ!」
褒めてやりたいぐらいの絶妙なタイミングだった。
次の一撃に限ってダメージを倍にするバフ効果がマスターにかかる。
少しでも早ければバフ解除の魔法が飛んでくるし、少しでも遅ければ無意味になる。
やるじゃんアコ、良い仕事だ!
「これが!」
そしてスキルが発動する。
「これがっ!」
轟音と共に画面が朱に染まる。
「これがっ!!」
限界まで高めきった二倍火力のメテオが砦の天井を叩き割り、乱戦のど真ん中に着弾した。
「私の火力だああああああああ」
高性能なパソコンが一瞬固まるぐらいに膨大なダメージ表示が重なった。
うっわ、超ラグい。
ガリガリと処理をすることしばし、戻った画面の中ではその場の敵兵の全てが倒れていた。
たったの一撃で全てが灰燼に帰した。
「……なんだかね」
やれやれと息を吐いて、今さっきまでメイン火力だった瀬川が笑った。
「やっぱ、うちのギルドはマスターが火力よね」
「はっはっはっはっは」
全ての鬱憤を晴らしたかのように、マスターは高らかに笑った。
おめでと、マスター。
「アコも、ぐっじょぶ」
「はいっ」
アコと二人、ぎゅっと手を握った。
俺でも中々できないタイミングだった。よく集中してたな。
「うーん……」
と、ちょっと遠くのパソコンで、先生が小さく呟くのが聞こえた。
「タイミング的に、私のエクダメも一緒にかかってたと思うのにゃ……」
「はうううう」
「せんせー、空気読んで」
なんで言うかなあ、そこで……。



