三章 ファイナルチャレンジャーⅩⅣ 新生アレイキャッツ ⑥

 残り時間は十分と少し。

 例えもう一度エンペラーソードが来ても、防衛ラインを破れる時間じゃない。

 TMWとの不可侵条約が公開されているので大手ギルドがわざわざ手を出しに来る可能性も少ない。


「やれやれ、なんとか勝ったかな」

「文化祭の為にこんな苦労する羽目になるなんてね」

「私も少しレベル上げよっかな」

「あたし達が活躍してるのが羨ましかった?」

「うーん、資源採集班は我ながら活躍したと思うんだよ?」


 でもねー、やっぱねー、とちょっと不満気に言う秋山さんに、


「あとで手伝ったげる」


 ふふふと笑って、瀬川が得意そうに言った。


「アコちゃんも大活躍でした!」

「本当に今回はアコを褒めてやりたい」


 いっそ俺より役に立ってたよ、アコ。


「ですよねっ! ご褒美ください!」

「何で俺が褒美を……いいけど、何が欲しいんだよ」

「それは……ええと、じゃあ、ご褒美のキス、とか!」


 んー、とタコみたいに唇を突き出された。

 雰囲気ねーなー。

 流石の俺でもそれはないわー。


「ならとりあえず髪を切れよ」

「なんでそんな無茶な条件つけるんですかーっ!」

「先生の前でそういうことしないでね?」

「はっはっはっ」


 盛り上がる俺達を見つめて、マスターが軽く笑った。


「不思議だな。先週負けた時、裏切られたと知った時、あんなにも悔しかった。己の不甲斐なさに歯嚙みした。しかし──今の私は、前回勝てなくて良かったと、そう思っている」


 俺達を見回し、マスターは言葉に力をこめる。


「信頼できる仲間と、その友人達。背中を任せることのできる戦友と肩を並べて戦い、そして勝利した。みんなの努力、仲間達の絆、共に悩みぬいた時間が勝利へ導いてくれた」


 いつも冷静な表情が歪む。

 マスターの瞳から一筋の光が落ちた。


「もしもこの椅子を手に入れるのに、下らぬ金で依頼した者の手を借りていたのなら。もしもたったの一円でも使っていたのなら。こんな気持ちにはならなかっただろうな」

「……マスター」

「……ね?」

「はいっ」

「そうね」

「うんうん」


 頷き合う俺達に、マスターはもう一度、小さく頷いた。

 良かった、何もかもが上手くいった。頑張った甲斐があったよ。

 あとは勝利の瞬間を見届けるだけだ、と画面に目を向けた。


◆ユユン:敵襲! 敵襲です!


 ──そこに、報告が入っていた。


「……このタイミングで敵、か」


◆アプリコット:敵の陣容は?

◆ユユン:『ヴァレンシュタイン』のエンブレム! 数は五人! 先頭にバッツが居ます!

◆アプリコット:……そうか


 目を閉じて数秒、緩んでいたマスターの表情が、一気に戦闘モードに切り替わる。

 ふと見ると瀬川も、先生も、秋山さんも、アコまでが真剣な表情を浮かべてる。

 うん、多分俺もだ。


「ああ、来ると思っていたぞバッツ」


 マスターはいつものようにニヤリと笑った。


「面白いから裏切った──そう言っていたな。である以上は、我々がしぶとく砦を取りに来ればそれをぶち壊しに来るのがお前達の悦楽だろう。だが──」


◆アプリコット:譲らん!


 領主の間に揃っている野良猫姫親衛隊に言う。


◆アプリコット:迎撃だ! 奴らに我々の底力を見せる! たった十分でこの砦が落とせると思うな!


 うおっしゃああああ!

 簡単にやられると思うなよ!


◆ルシアン:よっしゃ、やるぞ!

◆シュヴァイン:おいお前達、俺様と来い!

◆セッテ:んー……私はこの辺に隠れてるね。アコちゃんもおいで

◆アコ:え、えええ?

◆アプリコット:それで構わん。シュヴァインを含めた奇襲部隊、中庭の裏で待機。ヴァレンシュタインの戦法を借りるぞ。奴らが領主の間に到達したタイミングで後方を突け


「さて、本家にやって効くかしらね?」


 仮にも隊長として弱音は吐けないのだろう、チャットではなく口で言ったシューに、マスターも少し苦々しく言った。


「劣化コピーは否めん。だがやらないよりはマシだ。決して無駄な戦いにはしない」


 確かに正面から挑んで勝てる相手じゃない。


「気を付けろよ!」

「ま、任せときなさいな」


 シュヴァイン達が中庭の裏に隠れる。それから間も置かずに五人の敵兵が見えた。


◆ユユン:ヴァレンシュタインの連中が来ました!

◆アプリコット:攻撃開始!


 マスターを中心に範囲攻撃が降り注ぐ。

 流石にノンストップで突破はできなかったか、奴らがスピードを緩めた。


「よし、このタイミングだ、シュヴァイン!」

「おっけー!」


 シュヴァイン達が前に出た瞬間だった。

『ヴァレンシュタイン』が範囲攻撃の射程ギリギリでストップ、そのまますぐさま反転する。


「っ!」

「駄目だ、バレてる!」

「承知の上よ!」


 さっきの俺がそうだったように、シューもまたためらうことなく突進した。

 でもその突進はするっと避けられて、後方から集中攻撃されてる!


「くそ、やっぱ駄目か」

「駄目じゃ、ないわよっ!」

「え……な、おいっ!」


 シュヴァインから白いオーラが立ち上ってる。

 ちょっとこれ、見たことあるぞ!


「お前、それは一個で500Kもするホワイトエリクサー! 今一体何個飲んだ!?」

「あたしだってね、遊びで戦ってんじゃないのよっ!」


 五人の中心で腰を落とし、ぶわんと大剣を振り回した。

 ダメージ判定が一回、二回、三回!


「らんっらんっ!(`・ω・´)」


 堕ちたらん豚が最後の奮闘を見せたっ!?

 大剣の振り回しで怯んだ弓使いに、突撃部隊の攻撃が集中する。

 流石の『ヴァレンシュタイン』メンバーでもダメージに耐えられないか、五人の内一人が沈んだ。

 しかしそこまでが限界。

 突撃部隊は一人一撃に近い即死。

 奮戦むなしく奇襲チームが全滅した。


「これが限界かあ……役立たないなー、あたし」

「馬鹿を言うなよ、MVPだ」


◆アプリコット:防衛戦の維持にこだわるな! 範囲攻撃で落とせる相手ではない! 前に出るタイミングを見誤るな!


 マスターの指揮が飛ぶ。

 それはそうだ、決まりきった戦術で倒せるなら彼らは最強じゃない。


◆バッツ:残り時間は? 後二分?


 こちらの射程距離ギリギリに陣取り、まだ二十人以上も残った俺達を見据えるバッツ。


◆バッツ:余裕だわ、これw


 人数差をその目で見た上で、奴はあっさりと言い放った。


「この野郎……」


 言い返すべきか、無視して殴りかかるべきか、誰もが思考したその一瞬。

 緊迫した戦線に影がさした。

 ふらっと、本当にふらっと、どう見ても弱そうな装備のキャラクターが『ヴァレンシュタイン』四人の中に入り込む。


◆バッツ:はっ!?


 俺も、アコも、マスターも、周りの親衛隊のみんなも、バッツですら止められぬまま、彼女は陣形の真ん中にちょこんと収まった。


◆バッツ:ちょ、おいっ

◆セッテ:やっほー、ばっつん


 意識の外、と言っていいタイミングだった。

 何がどうなったのか、見ていた俺にもさっぱりわからない。

 ヴァレンシュタインの操作が神業なら、この人の意識を読む技術も神業だった。


◆バッツ:邪魔だお前っ


 敵陣に食い込んだセッテさんに、敵は四人が四人ともスキルを飛ばした。

 低レベルのセッテさんはそれこそ一瞬で吹き飛ばされる。

 しかしクールタイムが発生する。

 スキルモーションがうまれる。

 次の行動までタイムラグがある。

 致命的な隙だ!


◆セッテ:あのねー、ばっつん。人を犠牲にするってね、こうやるんだよ

◆アプリコット:前へ!


「どりゃあああああああ」


 野良猫姫親衛隊全軍で突撃をかけた。

 軍の当たり方は完璧だ。いつも向こうから好きに攻めていた『ヴァレンシュタイン』が、初めてタイミングを逸した。

 今だ、今しかない!

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