一章 マイホームランド ⑪
◆ルシアン:猫姫さんじゃないですか
◆アコ:こんばんは
◆猫姫:にゃ。二人とも何をしてるのにゃ?
◆アコ:二人でハウジングに向けて、お金を貯めてます!
俺に寄り添って言ったアコに、猫姫さんは酷く微妙な表情を返した。
◆猫姫:やっぱり二人もハウジングなのにゃね……
◆ルシアン:猫姫さんも資金稼ぎですか?
◆猫姫:ギルドのみんなが城を買うって張り切ってるのにゃ。流石に無視はできないのにゃ
やっぱりあそこはでかいのを買うのか……聖天使猫姫神殿を建てないだけマシかもしれないけど。
◆アコ:でも先生、ヒーラー一人じゃ大変ですよね? どうやってるんですか?
回復職仲間として聞いたアコだけど、猫姫さんはうーんと微妙な顔をした。
◆猫姫:猫姫さんは今日で25Mぐらい儲かってるのにゃ
◆アコ:なんでですかあああああああ!
がーん、と大ショックを受けた──エモーションを取って、アコが叫ぶ。
◆アコ:ずるいです、どうやったんですか! 一日でそんなに儲かるなら私もやりたいです!
◆猫姫:別に変なことはしてないのにゃ
ふるふるとゆれる猫耳。
長い尻尾を自慢気に立ててるのが可愛い。あと、あざとい。
◆猫姫:やってるのは大討伐クエのヘルプにゃ。連続でやれば分配でそれなりに儲かるのにゃ
そして当たり前のように、そんなことを言った。
おお、大討伐のヒーラー役で儲けてらっしゃるのか、この人は……。
◆アコ:大討伐ってあの、ヒーラーワンミス即全滅みたいなクエストばっかりじゃ
◆ルシアン:エンドコンテンツだからな……俺達も相当死んだし
前にニコニコ動画で配信しながらやったやつと同じ種類だ。現状では最終目標の一つで、とんでもなく強い敵がとんでもなく高いアイテムを出すの。
◆アコ:連続でやってるんですか?
恐る恐る聞いたアコに、猫姫さんは機嫌良く耳を動かす。
◆猫姫:レアなんてそんなに出るもんじゃないのにゃ。とりあえず二、三個拾うまで抜けないのがルールにゃから、今日十回はやったにゃ
◆アコ:全部成功したんですか?
◆猫姫:失敗するようなメンバーは集めてないのにゃ
◆アコ:そ、そんな……
どちらかといえば自分が敗因になるタイプのアコには信じられない世界らしい。
俺達は野良を集めて駄目元で行ってみるような難易度のクエストですからね。ええ。
ヒーラーは装備も大事だけど、何よりも立ち回りとPSだから。廃ギルドにコネのある腕の良いヒーラーが金に困ってるのって見たことない。
だってクエストやるから来てくれって頼まれてるんだもん。暇じゃなくても呼ばれてるもん。そりゃお金も貯まるよ、勝手に。
◆猫姫:仕事もあるから時間はかけてられないのにゃ。ささっと集めて後は任せるのにゃ
◆ルシアン:教祖様は大変ですね
◆猫姫:みんなが悪ノリしてるだけなのにゃ……
燦然と輝く猫姫親衛隊のエンブレムに、先生はしょんぼりと猫耳を垂らした。
それは親衛隊の皆さんの要望でもあるんで、女神のお仕事頑張ってください。
アコの手前言わないけど、アレイキャッツに入って欲しかったぐらいなんだから。
◆猫姫:もう好きにすればいいのにゃ……猫姫さんが玉座に座ってやるのにゃ……
◆ルシアン:お疲れ様です
本当に、お疲れ様でございます。
疲れた様子で去っていく猫姫さんを見送った。
◆アコ:大討伐なんて無理なんですけど、私はどうすれば……
廃ギルドにコネはあるけど装備もPSもないアコはもっとしょんぼりと座り込んでしまった。
◆ルシアン:あー……アコさんや
◆アコ:はいぃ
◆ルシアン:地道に頑張ろう、地道に。俺も一緒に頑張るから
◆アコ:ううう、わかりました! スリッパ先生に負けたりなんてしません!
◆アコ:やっぱりスリッパ先生には勝てませんでした……
◆ルシアン:即落ちしてんじゃねえよ
二行即落ちシリーズか何かか。
あれから二時間も経ってないのに、アコは限界らしかった。
◆ルシアン:まだいけるだろ、もうちょっと頑張ろうぜ
◆アコ:もうモニターの汚れすらスリッパ先生と見間違えます……
残念ながらそれはよくある。
モニターはちゃんと綺麗にしておこうな。
◆ルシアン:んじゃそろそろ寝るか?
◆アコ:ああ、いまルシアンを殴ったらお金が落ちるかなって考えちゃいました……
◆ルシアン:殴りたきゃ殴ってもいいけどドロップはしないぞ
病状が深刻化してる。まだ一日目だっていうのに。
◆アコ:うう、今日はもう寝ます……
◆ルシアン:おーけー、また明日なー
アコが落ちていった。初日としては頑張った方、かな。
そろそろ日付も変わる時間だけど、さてどうしよう。
俺も眠いのは山々なんだけど……まだ二、三時間は頑張れる手応えだ。
ソロでもうちょっとやっていこう。
言っとくけど、俺だって勝つ気なんだ。
俺とアコの家が欲しいってのもあるけど、それ以上に。
アコ好みの家を建てて、アコ好みの内装を作って、みんなを家に入れた、その時アコはどんな顔で笑うのかって、それを楽しみにしてるんだ。
「うっし……やるか」
俺の操るルシアンは疲れた様子も見せず、スリッパ先生に剣を突き立てた。
数時間で終わる予定だった一人の狩りは日が昇る頃まで続いた。



