ベルフラ地下遺跡が攻略されて一ヶ月後。大都市イフールにある闘技場では、冒険者たちによる闘技大会が開かれていた。

 ジェイドは歓声が上がる観覧席の最前列で、じっと目の前の試合を観察する。

 その視線の先。多くの注目の中、舞台で剣をふるうのは勇猛な女剣士である。対するは二倍の体格はある巨漢だが、彼女はむしろ巨漢を圧倒していた。


「スキル発動! 〈英雄の咆哮シグルス・ロア〉!」


 女剣士が叫ぶと、その体を包む赤い光がひときわ強く輝いた。同時にふるった剣が、斬り結んでいた巨漢の体を難なく後ろに吹き飛ばす。女性の力とは思えない怪力だ。


「くっ……! スキル発動、〈レギン・オーバー〉!」


 このままでは劣勢とみた巨漢が勝負に出た。力をため、己のスキル〈レギン・オーバー〉の力を最大限まで解放させた。体から青い光を放ちながら、女剣士へ斬りかかる。

 ぎぃん! 激しく火花とスキルの光を散らしながら、両者が激突する。赤と青の光が交錯し、闘技場をびりりと震わすほどの衝撃が駆け抜けて──


「がぁ!」


 吹き飛んだのは巨漢の方だった。

 しかしそれも当然だった。巨漢の持つ青い光は、人間の能力限界を超えることができない〝人域レギンスキル〟。対して女剣士の発揮したスキルは、人間の能力限界を突破させる〝シグルススキル〟。真っ向から力比べなどしたら、シグルススキルには逆立ちしても勝てないだろう。


「……うーん、違うな」


 最大の盛り上がりを見せる観客席で、しかしジェイドは難しい表情をつくった。


「確かに怪力系のスキルだけど、あの冒険者の力はあんなもんじゃなかった……」

「そんな馬鹿な。彼女ほど有名な怪力系スキルの女冒険者なんて、他にいませんよ」


 歓声に負けないよう、隣で声を張り上げたのは闘技大会の主催者だ。


「でも、違うんだ。髪の色も顔も違うし」

「旦那、こう言っちゃなんですが、夢でも見たんじゃないですか。いくら怪力系のスキル使いでも、レリツクを取り込んだ階層フロアボスを一方的にたたきのめすなんて、シグルススキルをもってしたって無理でさぁ。まして長いこと討伐に苦労していたあのヘルフレイムドラゴンですぜ?」

「そうなのですよ、ジェイド」


 横から声をかけたのは、白魔道士の純白のローブを着た、おかっぱ頭の少女だ。


「そもそも女の子の大鎚ウオーハンマー使いなんて聞いたことがないのです。男の人ですら扱いに苦労するものだし、ていうかそもそもジェイドは、こんなところで油を売っている場合じゃないのです!」


 ぴしゃりとジェイドを

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