(*以下は『書庫』とは切り離した当非公開独立アーカイブでのみ保存・管理する事。多くの凶悪犯にとって情報とは上層部との裏の繫がりを認め、ある種の信頼の証として提示されるものだ。一般に『暗部』は外から命令される事を望まないが、その前提を踏まえた上で、秘密裏に街の暗闇を掌握したいという試みの主旨を自覚して日々の保全業務を遂行してほしい。
本件は、機密を保持するためであれば人の命が要求されるレベルの情報である。つまり取り扱いには責任が生じる。君達が直接手を汚すかは関係ない。単純なエラーか周到なサイバー攻撃かも重要ではない。外部への漏洩は、すなわちその不正閲覧者を君達が殺したと思え)
麦野沈利。
超能力者、『原子崩し』。
現在七人しかいない超能力者の一人。電子を粒子でも波形でもなくそのままの状態で撃ち出す事によって強い抵抗を生み出し、結果、照射された物体に莫大な熱や摩擦を与えて強引に焼き切る能力へと進化している。兵装分類的には粒機波形高速砲。その性質上、新型兵器研究、〇次元の物理証明、非レーザー式核融合炉の他、『一つの電子を万人の観測状況に関係なくそのままの形で操る』という非常に特異な能力の特性から従来と異なる新方式の量子コンピュータ、量子暗号、高度柔軟性AI開発、次世代大量高速通信など多様な応用研究が期待される。(*研究成果は一部『アネリ』プロジェクトなどに組み込みが始まっている。詳細は別紙参照)
なお、同じく電子的な超能力である『超電磁砲』とは互いに干渉するリスクがある。両者共に、研究施設の建設条件等はこの点を留意する事。
滝壺理后。 大能力者、『能力追跡』。
能力者が無意識の内に放つ微弱なAIM拡散力場を正確に記録、保存してそれを追跡する能力を扱う。一度登録さえしてしまえば追跡に距離の制約はなく、太陽系の外へ逃げても正確に捕捉できる。ただしAIM拡散力場の記録・検索はどちらも極めて特殊な『体晶』と呼ばれる粉末を経口摂取する必要があり、これには莫大な製造コストと強力な副作用が存在する。(*『体晶』の詳細については統括理事会一名より承認鍵を得てから閲覧する事)
なお、『体晶』使用時以外でも『南南西から信号が来ている』など何かを受信しているらしき言動が見て取れるが、こちらについては全くの未知数。虫の知らせや第六感といったものが、能力に起因するものか経験からの無意識的な察知かもはっきりしていない。
そもそも『能力追跡』については未だに謎が多い能力だ。大能力者にしては情報保全措置が厳重で、『書庫』のデータにも二重底の痕跡が見受けられる。これは統括理事会全体が把握している件のプロジェ(*以降は統括理事会六名から承認鍵を取得しない限り、閲覧不可)
フレンダ=セイヴェルン。
無能力者。
能力的には何の力も持っていないが、各種爆発物の取り扱いに長けている他(ただし無免許無許可)、素手での戦闘にも覚えがある。とはいえ我流で型を感じられないため、こちらについては無能力者が『暗部』で生き残るため現場で自然と習得していった経緯が推測できる。
爆発物、というより化学薬品の合成技術全般については大学の教授レベルに達している。体に目立った火傷や傷の痕跡は見られないためトライアルアンドエラーの独学とは思えないが、具体的にどこの誰に師事しているかは不明。友人知人が多すぎる。
生活に不自由せず交友関係も異様に広い事から、何故好んで『暗部』に身を置いているのか不明瞭な人物でもある。一時期は『学習装置』で必要な化学知識を即席で詰め込んだ風紀委員やネットニュース等の潜入捜査説もあったが、こちらは今日現在では否定されている。つまりなおさら不明。減点法を採用し、疑問点が累積一〇点を超えた段階で調査班を編成する事。
(*新規登録。機密事項『暗闇の五月計画』より一部ファイルを移動・結合)
絹旗最愛。
大能力者、『窒素装甲』。
空気中の窒素を操り、全身を超高圧縮した気体の壁で包み込む事によって絶大な防御力を確保し、擬似的な腕力強化も実現する能力を使う。特に防御については、本人が自覚をしていない死角からの奇襲にも自動的に対応する。かつ、その耐久性は至近距離からショットガンで撃たれても傷がつかない域にある。接近戦専門ではあるがそのスペックは絶大で、つまり、いかにして格闘のみに状況を限定させるかが勝敗を如実に左右する。
なお、彼女は学園都市第一位の超能力者・一方通行の思考パターンの一部を移植する『暗闇の五月計画』の被験者でもある。(*プロジェクトの詳細については別紙参照)自動で発動して全身をくまなく防護する『窒素装甲』の性質は、第一位が好んで使う『反射』の計算式を劣化しながらも一部組み込みに成功した事によるもの。関連して、極度に興奮すると口調が変質する、といった事例も報告されている。