第一章 『五』人目の少女 2
「あっはっは!! ムネに関して言えば結局いっつも私がいじられ役だったっていうのに、まさか私のお下がりがぶかぶかになる子が出てくるなんてねえ!!」
「……、」
腹を抱えて目尻に涙まで浮かべて笑うフレンダ=セイヴェルンの前で、新入り
フィフティーンベルズは大雑把に分けて、上層の高級マンション、中層のオフィス、そして下層にはオシャレ系のブランドショッピングモールが広がっている。サイズの合わない
朝一〇時。表でガラスの扉が開くモール開店は一一時だが、上のマンション住人のみ特権的にお買い物できる秘密の時間。本当のセレブはバーゲン争奪戦もオンライン抽選も縁がない。
「……ていうか、そもそも大丈夫なんですかこんな所で超お買い物だなんて。言っても後ろ暗い仕事をこなして汚れたお金をもらう犯罪者集団なんでしょう?」
「ダイジョブ大丈夫だいじょーぶ。結局、ついさっきデカい仕事を片付けてきたでしょ? 報酬は即日振込だから心配いらない訳よっ、さあーて夢のブラックカードで買いまくるぞ散財するぞいたいけな少女達を使って着せ替えしまくるぞオおおおーっっっ!!!!!!」
もう正常な話が通じる感じではなかった。犯罪者集団呼ばわりを否定する素振りもないし。
太股の付け根辺りまで見える短パンではではちょっと冷房が寒いのか、時折自分の足を擦り合わせる女の子に
「……このヘンタイは超いつでもこんな感じなんですか?」
「いつも着せ替えで遊ばせてくれる妹が珍しく夏風邪でダウンしちゃったから、フレンダは耐えてきたんだって。頭のバルブひねって圧力逃がさないとそろそろ爆発するって言ってた」
反応に困る人だ。
当のフレンダの方は全く気にしていないようで、
「それよりお祝いも兼ねて何着か適当に買ってあげるけど、そっちからリクエストとかある? 結局、特にないなら私が勝手に決めちゃう訳よ」
「もし許されるなら、もうちょっと動きやすい服で超お願いします。丈が短いのは結構ですが、あっちこっちひらんひらんなのが空気に服を摑まれる感じがして超鬱陶しいので」
「結局好みはボーイッシュ系ってヤツ?」
「超知らんがな」
適当に言い合いながら歩く三人。共用の広場みたいな場所では、数人の店員さんが床一面に分厚いビニールシートを敷いていた。どうやら季節のイベントでスイカ割りをやるっぽい。隅の方に文庫本より小さな紙袋が集められているので、一発で成功すればご
少女達は適当にスポーツショップっぽいカラーのお店を選んで踏み込む。動きやすくてお手入れが簡単そうな衣服を適当に見繕おうとして、値札のゼロの多さに
そしてフレンダと
「へえー、やっぱり自転車系だとおフランスが強いのね。おら
「わー、ロボットアニメの女性パイロットっぽくカラフルでぴっちぴちにされてしまうー」
「結局戦隊モノの紅一点じゃね? 日曜日の朝ってアニメよりカブトドライバーとかの特撮派なのよねー、妹のヤツ。相手七歳だと情報集めて話を合わせるのも大変な訳よ。とにかく
こらこらこらこら!! と
「値札のゼロ見て遊んでいるんですかあなた達!? こんなの雑に扱って超うっかり傷でもつけたら大ピンチになりますよ!!」
「仕事を終えて無事報酬が入った
「え、いや超その、これ値段高過ぎますし」
「じゃあ結局さっさと試着室に行ってー、エアコンの風が吹いたらなびいちゃう薄っぺらな布一枚の向こう側で
「高いっつってんでしょ!! これ着るの超怖いですしっ!!」
泣き言は
「結局、自分でカーテン閉めないと知り合い設定しくじったSNSみたいに全体公開でお着替えしてもらう訳よ?」
「超分かりましたよっ!!」
シャッとカーテンが閉まった。
ジャージの
「楽しそうだね?」
「わっはっは!! 結局、決まり事でもあるしね。『アイテム』の新入りは一個前のセンパイの手で着せ替えされる運命って訳よ!」
という事でフレンダは
ややあって、だ。
「超着ましたよ……」
カーテンを開けて
フード付きのパーカーワンピに胸元を覆うベアトップ、後はレギンスの組み合わせ。確かに、急場しのぎで押しつけたお嬢様仕様のワンピースよりはしっくりハマった印象だ。
「おー」
「『アイテム』にこれまでなかった系統な訳よ」
二人から注目されて
どういう意思表示なのか、腕組みしたフレンダはうんうんと二回続けて
「じゃあここらへんをベースにして、あちこち違うジャンルで味変していきますか。いったん別のお店も回ってイロイロ系統を試していく訳よ」
「いやあのっ、だから超これ買っちゃうんですか!? 値札のゼロ!!」
「フレンダ。そういえばきぬはたの下着を忘れてる」
「……結局そこは本日最大のお楽しみな訳よ。うぇいうぇーい、罰ゲームみたいなオトナランジェリーか逆振りでお尻にでっかく子猫ちゃん柄か、どっちが恥成分多めだと思う?」
「え、じゃあきぬはた今のーぱんなの? それは困った」
~~~っっっ!? と顔を真っ赤にしてわなわなしている
「すみませーん、結局試着しているこれこのまま着ていくからお会計だけお願いしまーす」
「あのうー」
上客の機嫌を損ねるかも、という可能性だけで
「これえ、悪いんですけどお客さんのカードはお店のリーダーでは認証できぬーらしくて。どーもカードのIC部分や読み取り機材の故障じゃなくて連結した口座が使えないようでえ」
特にふざけているのではなく店員さんはこのトークでしゅんとしていた。
もう時間とか止まっていた。
フレンダ=セイヴェルンは恐る恐る後ろを振り返る。
予想を超えた事態をお見舞いされて小刻みに震える金髪少女の眼前で展開されているのは、
「わあっ、何ですか超いきなりハサミとか」
「きぬはた。このまま着ていくんだから、値札のタグは取っちゃおう。ほら切ったっ、もうこれできぬはたのもの」
「洗濯タグまで超まとめて切っ……? ああもう洗剤の注意書きとか覚えるの超大変ですよ」
「あはは、これだともう返品はできないね」
ほのぼの時空に水を差せなかった。
宙をひらひら舞っている値札のゼロの数とか数えたくない。