第一章 機械仕掛けの相棒 3 ③
「いいえ。説明します、彼女をよく見て」ハロルドが促してくるので、エチカは渋々従う。「手首に、ブレスレットをつけています。トナカイの角や
「仮に彼女がサーミだとしても、サーミ全員がバイオハッカーというわけじゃない。ブレスレットひとつで、あの子がリーを
「ですが彼女は、大量のインスタント食品を買い込んでいます。彼女以外に、そんな行動をしている客はいなかった。あえて生鮮食品を避けたのは、買い物に出かける回数を減らしたいと考えているからでは? 外に出て、人目に
「いや……何でインスタント食品だって知ってるの?」
「紙袋の膨らみ方からして間違いありませんよ」
でたらめだ──そう言おうとした時、双眼鏡越しの娘が、抱え上げた紙袋を盛大にひっくり返す。雪の上に散らばったのは、他でもないインスタント食品のパッケージだった。エチカは内心、舌を巻く。出会った時も思ったが、このアミクスには透視能力があるに違いない。
「何よりも、駐車場での彼女の様子です。辺りを異様に気にしながら、首
「さあ……何か別のことを気にしていたとか?」
「そうです、彼女にはやましいことがある。買い物を終えて、車に荷物を載せる時も顕著でした。足先が不自然に開いて、爪先の片方がずっと駐車場の出口を向いていた。すぐにでも逃げ出したい心理状態を表しています。逃げたい理由は何です?」
いちいち
「ええその通り。彼女はリーを
「だから飛躍してる。第一、リーがバイオハッカーを頼ったかどうかもまだ……」
「電索官はバレエを見たことがないと
エチカは双眼鏡を下ろす──やっとこさ、先ほど抱いた疑問の答えを見つけ出していた。
「つまりリーは、とっくにバイオハッキングで不正をしている?」
「そうです。そして彼女こそが、リーを施術したバイオハッカーだ。だから
確かにそれならば、
リーはもともと不正に体を改造し、バレリーナの卵となった。バイオハッキングはドーピングと同等に悪質な行為で、スポーツ界では厳しく規制されている。公になれば確実に、踊り手としての生命を絶たれるだろう。リーはハロルドの言う通り、ウイルス感染をバイオハッキングの不具合だと思い込んだ。だから医療機関に行くことを避け、再びバイオハッカーのサーミ人を頼ったのだ。
だが、まだ確証が得られたわけじゃない。アミクスの実力を認めたくないという馬鹿げたプライドが、そう思わせる。
「例えば、こうは考えられない?」エチカは無理矢理、推測を
「聞いています。確かに、そうした可能性も十分に考えられますね」
ハロルドはバックミラーを
「答え合わせに行く前に、身だしなみを確かめておいたほうがいいかと思いまして」
「ああそう」機械に身だしなみも何もあるか。「そのわりに、後ろ髪が跳ねたままだけれど?」
エチカが
「これはわざとです。隙を残しておいたほうが、
あ、どうしよう殴りたい。