第一章 あるいは、僕らの現代的自我 ⑤
「ああ……その辺は別にいいよ。自分がしたいからそうするだけだし。ほら、話しただろ。僕たちは仲間だって。だから……放っておけなくて」
我ながら、そのクサい
面と向かって仲間だなんて、安っぽいドラマみたいだ。
けれど、それが僕の本心なんだ。
昨日の放課後二人で交わした会話は──結構本気でうれしかった。
「……それに、このままじゃいつか色々バレる日が来そうだし」
恥ずかしさにそう付け加えると、自覚はあったんだろう。
本を本棚にしまいそばの席に腰掛け、
「……だよねぇ。がんばってるつもりなんだけど、やっぱりうまくいかなくて……」
「そりゃまあ、そうだよな……」
例えば、僕が演じ分けているキャラは、あくまで「僕の素の一部を過剰に盛ったもの」だ。
けれど、
共通点のない人間に近づかなければいけないとしたら、相当難しいだろうと思う。
「もちろん、僕にできることなんてそんなにないと思うよ。それでも、致命的なミスを回避する手助けをしたり、
「そっ、か……」
どうやら、なかなか決心ができないらしい。
「……あの、微妙だったら遠慮なく断ってもらっていいからな? 自分でも、押しつけがましいかなとは思うし……」
「あ、ううん! そうじゃないの!」
がばっと顔を上げると、
「お願いは……したいなって思うんだ。助けてもらえると、本当にありがたいよ。でも……やっぱり申し訳なくて。何かお返しできないかなって……」
「いや、そういうのはいいんだって。ただの、こっちの勝手なんだから」
「そんなわけにはいかないよ。だから
「
こちらを真剣な顔で見つめる
好きな子と同じ顔の女の子に「手伝いたい」なんて言われれば、どうしても「そういうこと」を考えてしまう。自制心とか自己
「……あ!
ふいに、
そして、彼女はぎくりとする僕に──、
「──今……わたしに何か頼むの不安だって思ったでしょ!」
「……へ?」
「こんな頼りないやつに任せられることはないって! 顔にそう書いてあるよー」
「……はは、バレたか」
「んむー!」
勘違いしてむくれる
よかった、今回はこの子の無防備さにちょっと救われたかもしれない……。
「……でも、確かにそこが問題だよね。できること、そんなになさそうだし……。あ、ご飯おごるとか? けど、わたしそんなにお金も持ってないしなあ……。悩みの解決……とかも無理だよね、自分の悩みも解決できないのに……」
と。
ふいに
「──あ、恋愛相談!」
その顔をぱっと明るくして──そんなことを言い出した。
「今
「え、す、好きな人……?」
「そう、片思いの相手。クラスとか、同じ学年とか、部活とかに……。わたし、恋愛もののマンガはたくさん読んでるから、恋愛相談には乗れる気がする!」
──思わず、硬直してしまった。
この展開は──予想していない。
まさか、片思い相手の別人格に……好きな人を聞かれるだなんて。
「ねえ、どう? いるのかな、好きな人」
「……そ、それは」
「どうなの?」
「……い、いるけど」
「え、誰? 同じクラス? わたし知ってる人?」
「……」
なすすべもなく、おろおろすることしかできなかった。
なんで
お返しをできるのがうれしいとか? あるいは、もともとこういう話が好きなのか……?
「……ん? どうしたの?」
そう言って、
髪から甘い匂いが──
「……なんでそんなに、恥ずかしそうなの?」
「い、いやその……」
「もしかして、体調悪いとか……?」
「そうじゃ、ないんだけど……あんまり近づくと……」
「近づくと……何?」
──至近距離に迫る、水晶のような瞳。
──薄桃色の唇と、襟元から
──ブレザーの胸元を押し上げる膨らみと、スカートから伸びた白い脚。
──と、そこで。
そして──まさか、という顔で。
何か、途方もない予感を感じている顔で、
「……もしかして──
ゆっくりと、その名前を口にした。
「
──もはや、キャラ作りも演技もできなかった。
頭の回転はほとんど止まっていて、ごまかしの言葉さえ出てこない。
自分でもはっきりとわかるほどに、顔が赤くなっていく。
「え、本当に……?」
「……本当に、
……どうすべきなんだろう。
この子に
気持ち悪いと思われるんじゃないか?
なんとかして隠すべきなんじゃないか……?
けれど、もうここからごまかしたり、
覚悟を決めるしかない──。
「……そう、だよ」
ちょっと声がかすれるのを自覚しながら、僕はそう白状した。
「僕が好きなのは……
「……そっか」
身を引き椅子に体重を預けると、うわごとみたいに
「
……どうなるだろう。
引かれるだろうか。拒絶されるだろうか。
どう扱われても落ち込まないよう、心の中で耐衝撃態勢を取った──次の瞬間。
「うわあ……うわあ、そうなんだ!」
──白い頰を桃色に染め、
「前から
予想外のリアクションだった。
まるで、普通の友達と恋バナをしているような、無邪気な反応──。
そして、彼女は椅子をこちらに寄せ、喜色満面でこちらを
「ね、ねえ、それっていつからなの……? まだそんなに、何回も会ってないよね……?」
質問攻めがはじまった。
「え? えっと…………。始業式の日に、朝偶然会ったとき……」
「じゃあほとんど
「…………そ、それって言わなきゃダメ?」
「いいじゃん、教えてよー。もちろん、
「え、えっと……自分を貫くところかな……」
「あー、あの子すごく芯があるもんね! ……ん? ていうか」



