Prologue 二輪の花 ④

「もちろんれんあい感情はナシねー。やっぱりめんどうじゃん? れんあいってさ、全部ぶっこわす毒みたいなもんだし。だから、アタシたちにはナシ」


 さっきのエモい歌詞みたいな台詞せりふから一転、一気にぞくっぽい内容になった。

 ……まあ、言いたいことはわかる。ビジネスとれんあいはなすべきというのは、いつぱん的にも大切な理論だと思う。


なつくん、どう? できる?」


 テーブルの下で、ツンツンとつま先であしつついてきた。……まあ、日葵ひまりみたいに可愛かわいい女子がこういうこと自然にやっちゃうなら、つうは好きになっちゃうんだろう。なんかきよ感近いし。サークラ気質っていうのか。

 日葵ひまりうれしそうに両手でほおづえき、ゆらゆらと頭をらす。そのれいかみが、さらさらと左右にれていた。


「それとも、もしかしてれちゃった? もうれちゃったかなー?」

「…………」


 おや、と日葵ひまりまゆが寄せられる。

 その意外そうな顔を見て……今日、初めてやり返す場面がきたのだとさとった。


「俺、美人って苦手なんだよ。うちの姉さんたち、かなりれいでモテるんだけど……家ではカレシへのやばい本音とか、小学生のころから聞かされてさ。系女子、マジでこわい」

「…………」


 ぽかんと俺を見つめる。

 それからかたらしながら、まんできない感じでした。


「ぷっはーっ! 系女子!? いいね。やっぱりって最高!」


 そう言って、俺の鼻をツンとつついて笑った。

 どうやら、最後の『かくにんこう』はクリアしたらしい。……てか、いきなり呼び方がになっててむずかゆかった。れんあい感情はないにしろ、いきなり女子に下の名前を呼び捨てとかずかしくて死ねる。


「男の子が、みんなみたいなタイプだったらいいんだけどなー」

「いや、無理でしょ。つうの男子ならここまでで3回くらいれてるし、その上で5回くらい告ってると思う」

「なんで告った回数のほうが多いし!?」

「とりあえず美人とは、や、や、やりたいって言うか……?」


 日葵ひまりかいそうに指を鳴らした。


「あーっ! いるいる! そういう人、たまに声かけられるかも。主に上級生と下級生にせいそくしてる。てかずかしいなら言わくてよくない?」

「いや、いぬづかさん、明らかに陽キャ側だし。そういうノリのほうがいいのかなーって……」

「アハハ。無理しなくていいよー。でも、みたいなぶつちようづらさんが顔真っ赤にしてとか言ってるの、可愛かわいくてアタシ好きかもなー」

「そ、そりゃどうも……てか、ここ飲食店だからもう許して?」


 俺みたいな男が言うならまだしも、日葵ひまりのような美少女がそれを言っちゃうと、マジで周りの視線が痛いからかんべんしてほしいのだった。

 ……でも、なんだろう。この『理想の男ともだち』を前にしているかのような安心感は。


「でも、ぶっちゃけれんあい感情とか覚える前からモテてたからさー。もうよくわかんないんだよねー。今後、一生れんあいできなさそうな予感すらある」

「ええ。どゆこと?」

「なんか脈アリっぽく見られやすいのかなー。そこから告られまくって『あ、アタシってモテるんだー』っていう自意識だけが成長してさー。たぶん、いまだにはつこいがない」

「俺にはえんどおなやみだけど、なんか大変そう」

ってカノジョいたことないの?」

「こんなしゆで、いるわけないじゃん。あ、でも好きな子なら……」


 日葵ひまりの目が、キランッとかがやいた。

 ちょっと食い気味に、身を乗り出して聞いてくる。


「いるの? だれだれ? アタシ知ってる子なら、取り持ってあげようか?」

「いや、絶対無理。マジで無理。そもそも、俺もどこにいるかわかんないっていうか……小学校のころ、旅行で知り合った女の子だし」


 日葵ひまりが「ぷっ」といた。


「純情くんかーっ!?」

「……純情くんだよ。悪いか」


 ……これはいけない。

 日葵ひまりは、相手の弱点をようしやなくからかってくる。でも、それにびっくりするくらい悪意がない。まるで積年の友のようなみような安心感のせいで、あらゆることを白状させられそう。


「やー。アタシたち、ある意味、すごく似てない? って思ったより話しやすいし、運命って感じするなー」

「に、似てるかあ?」

つうけつこんとかできなさそう」


 それなら確かに感じていた。

 日葵ひまりは感性がうきばなれしすぎているし、俺は単純にお花バカ。どうも同級生たちにはけ込めているようで、け込めていない。

 そんな俺たちが、こうして出会ったのが運命と言われれば、それは案外、しっくりときていた。それほど、俺と日葵ひまりは初対面から馬が合った。


さ。30になってもおたがい独身だったら、いっそアタシと暮らす?」

「そのとうとつなアプローチは置いとくとして、なんで30……?」

「んー。とりあえずのボーダーラインっていうか? とにかく、それまでは目標までわきらずがんりましょうねーっていう感じ?」

「ああ、そういうこと……」


 確かに、物事にはメリハリが必要だ。人生をける以上は、失敗すること……つまり引き返すための準備も視野に入れなくてはならない。


「30まで独身ひとりだったら、アタシにしときなよ?」


 日葵ひまりが思わせぶりな感じで、うわづかいに俺を見た。その指が、空になったシェイクのカップをはじく。

 その裏側にひそ容易たやすく見破ると、俺は小さなため息をついた。


「……とは絶対やだ。俺、もっとおしとやかな女性がタイプだし。家に帰ってもこの感じとか、マジでかんべんしてほしい」


 その返答に、日葵ひまりは予想通り「ぷっはーっ」とした。そして「アタシ、生まれて初めてフラれたかも!」と言いながら、ちょっと呼吸困難になるくらいばくしようしていた。

 何がツボだったのかは知らないけど……どうやら、俺はこの女子の好みを確実に学びつつあったらしい。


 こうして、俺は友情に落ちた。

 日葵ひまりという女の子と、俺は一生、としてげるんだと思った。

 その劇的でドラマチックな確信が、まさかたったの二年でくだるなんて……いや、マジで人生ってうまくいかねえなあって思うわ。

刊行シリーズ

男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 10. 貴様ごときに友人面されるようになってはお終いだな?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 9. あのね、これで最後にするからこの旅行の間だけわたしを彼女にして?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 8. センパイがどうしてもってお願いするならいいですよ?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 7. でも、恋人なんだからアタシのことが1番だよね?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 6. じゃあ、今のままのアタシじゃダメなの?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 5. じゃあ、まだ30になってないけどアタシにしとこ?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 4. でも、わたしたち親友だよね?〈下〉の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 4. でも、わたしたち親友だよね?〈上〉の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 3. じゃあ、ずっとアタシだけ見てくれる?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 2. じゃあ、ほんとにアタシと付き合っちゃう?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 1. じゃあ、30になっても独身だったらアタシにしときなよ?の書影