Ⅰ 〝ずっと離れない〟 ①

♣♣♣


 四月のじようじゆん

 高校二年に上がって、すぐのことだった。

 田舎いなかの春は、おだやかだ。てか、田舎いなかってマジでイベント事がカレンダーじゆんきよだから。この時期は、のほほんとしたものだ。

 そんな放課後、教室の一角で女子たちがきゃいきゃいと話していた。


「ねー。日葵ひまりさんの今朝の、やばくない?」

「わたしも思った。可愛かわいすぎでしょ」


 二人はスマホをのぞいている。

 今朝の、というのは、日葵ひまりとう稿こうしたインスタの話だ。春休みに10号線沿いにあるカフェでさつえいしたものだった。

 すずやかなウッドデッキで、新作の日向ひゆうがなつジェラートを持つしやたい

 両耳にはスズランをあしらった、プリザーブドフラワーのイヤリング。

 大きいサングラスからのぞかせるマリンブルーのひとみわく的だった。その窓の外には、ひゆうがなだの青い海が広がっている。

 今週になって一気に気温が高くなった。つうれつに夏を意識させるそのインスタは、非常にせんめいに映ったらしい。

 高校に入学して、日葵ひまりが始めたインスタとう稿こう

 もともとの素材のよさもあり、一年足らずでフォロワーが5万人をえたのだからおどろきだった。

 地元でも有名で、新作がアップされた日にはあんな感じでわいわいさわぐ風景が見られる。放課後にイオンに行くと、フードコートで同じような会話をする他校の女子生徒に出くわすほどだ。……さすが田舎いなか。どんだけイベントが少ないんだよ。

 俺のとなりの席……。

 その日葵ひまりは、すずしい顔でかばんに教科書をめていた。

 相変わらず、みようにオーラのある女だ。こんな田舎いなかまちにある学校のったい制服すら、こいつが着るとブランドの新作のように見えるから不思議だった。

 この二年で、ちょっと背がびた。それもあしだけがびたのかと思うような見事なスタイルをほこっており、男子たちの視線をいたずらに集めることも多い。

 表情にみような色気もただようようになった。うすく形のよいくちびるあわいグロスで照り、ふいに日葵ひまりくちびるめるたびに周囲をドギマギさせている。

 流れるような美しいかみは……かなりだいたんに切ってしまった。でもナチュラルに乱れたショートボブのかみがたは、茶目っ気のある日葵ひまりによく似合っている。

 あのとおるようなマリンブルーのひとみだけは変わらない。アーモンドのようにぱっちりと大きく……そして変わらずりよく的だった。

 二年前のとうめい感のある美少女は、より大人っぽくもなり、そのくせ以前よりもじやな気質もあらわにするようになった。先天的なあまのじやくである日葵ひまりを、よくよく現している。

 例の女子二人が、日葵ひまりの机にきて話しかけていた。


「このお店、どこ?」

「10号線を市内のほうに行くと、すぐ見つかると思うよ。このジェラート、秋までの限定メニューだって言ってたねー」

「じゃあ、このイヤリングは? イオンで買える?」

「それ特注だから、お店じゃ売ってないかなー」

「えー。すごーい。わたしもほしー」


 その二人に、一枚のめいを差し出した。

 ただ〝you〟とだけ記名された、フラワーアクセのクリエイターのものだ。


つうはんでは買えるから。めいのQRコードのサイトから注文してね。このキーコード入力すると配達料タダだよ。何回でも使えるし、一つからでもお気軽にどうぞ」

「ほんと!? ありがとーっ!」


 そんな流れで、放課後の遊びにさそわれている。

 カラオケ行こうって内容だ。というか、この町で放課後に遊ぶには、だいたいイオンかカラオケかスシローがベターだ。

 けっこうな人数が参加するらしい。クラスえで初めて顔を合わせるやつもいる。日葵ひまりをうまく自分たちのグループにさそいたいのだろう。

 ……地元の良家のおじようさまのけんは、高校でも健在だ。

 いや、むしろ二年前より大きいだろう。市役所で働く二番目のお兄さんが手がける地域開発プロジェクト。そのいつかんで進めていた高速道路が、とうとう開通したのだ。これでりんけんへの移動がしやすくなると、いぬづか家の株はばく上がりであった。

 その好意120%・打算120%のおさそいに、日葵ひまりはニコニコ微笑ほほえみながら「うーん。どうしよっかなー」とか言っていた。

 その視線が、ふと俺のほうを見たような気がした。


「…………」


 俺はかばんかたにかけると、席を立った。

 特にだれともあいさつかわさずに教室を出る。ろうには、下校する生徒たちがっている。ジャージ姿で部活に行く生徒もいた。

 べつむねにある科学室にきた。職員室から借りたかぎでドアを開ける。6人がけのテーブルが6つある。まどぎわの一番前のテーブルにかばんを置いた。

 科学室の後ろに、大きなスチールのたなが並んでいる。

 右のスチールだな、一番下の引き戸のかぎを開けた。LEDプランターが並んでいる。室内で害虫の心配なく植物を育てられるすぐれものだ。

 冬きの花は、すでにしゆうかくした。

 今は春植えの種やなえが植わっている。

 アマリリス、ラベンダー、ナデシコ、マリーゴールド……。

 すべての写真をって、成長の記録を収める。水をえて、園芸部の仕事はかんりよう

 後は、個人的な活動の時間だ。

 LEDプランターの引き戸を閉めて、かぎをかける。その一段上の引き戸のかぎを開けて、二つの段ボール箱を取り出した。

 一つのふたを開けると、ひやつきんそろえたみつぷうケースがまっている。その一つを取り出して、中身をかくにんした。

 大量のかんそうざいと、ようえきから取り出したプリザーブドフラワーの。これはパンジーのを加工したものだ。

 の色合いをかくにんする。あざやかな黄色が、やや深い色合いになっていた。いい具合にしぶみが出ている。花弁のれつも見られない。あとはかんそうの具合だけど……。


「よっと」


 もう一つの段ボール箱を開けた。

 こっちには、作業道具をまとめてある。用具箱からピンセットを取り出した。ビニールぶくろをはめて、みつぷうケースのふたを開けた。

 ピンセットで、パンジーのを取り出す。


「……いい感じでは?」


 うん。いい感じだ。

 というか、かなりいい感じ。ちょっと花弁がうすいし、外れちゃうかなって思ってたけど。

 とりあえず、これは安静に……花弁が取れちゃもったいない。


「よーし。ここからが本番だ」


 作業用のたくじようルーペを準備。

 それをかいしながら、フラワーアクセの加工を始めた。

 まずはをリングに通す作業だ。これが一番気をつかう。いためてはいけないし、えにも関わる。

刊行シリーズ

男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 10. 貴様ごときに友人面されるようになってはお終いだな?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 9. あのね、これで最後にするからこの旅行の間だけわたしを彼女にして?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 8. センパイがどうしてもってお願いするならいいですよ?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 7. でも、恋人なんだからアタシのことが1番だよね?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 6. じゃあ、今のままのアタシじゃダメなの?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 5. じゃあ、まだ30になってないけどアタシにしとこ?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 4. でも、わたしたち親友だよね?〈下〉の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 4. でも、わたしたち親友だよね?〈上〉の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 3. じゃあ、ずっとアタシだけ見てくれる?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 2. じゃあ、ほんとにアタシと付き合っちゃう?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 1. じゃあ、30になっても独身だったらアタシにしときなよ?の書影