Ⅰ 〝ずっと離れない〟 ③

「アハハ。そこまでやると、さすがにのアクセ宣伝どころじゃなくなるしなー」

「こんな田舎いなかまで会いにきてくれるって言ってたのに」

「んー。アタシの可愛かわいさが世界に気づかれちゃうとまずいからさー。ほら、アタシにひとれした石油王がきゆうこんしてくるじゃん? そうなったら、正妻戦争が起こって悲劇になっちゃうよねー」

「そのでかすぎる自信は何なの? そんな心配、だれもしてねえよ?」


 俺の手元を楽しげに目で追いながら、日葵ひまりの紙パックがずずっと音を立てた。

 ついでに俺のほうの紙パックも「飲んだらちようだい?」と言って、つうに二つともたたんでポケットにしまう。


「いやー。アタシと運命共同体しんゆうだから、けつこんできなかったらアタシが責任取ってやんなきゃねー。そちらのおやさんに申し訳ないし?」

「それ、やめてくんない? 日葵ひまりがそれ口走ってから、おまえの兄さんが『おとうとくん!』って呼んできてつらいんだけど」

「いーじゃん。おとうとくんになっちゃいなよー」

「ならねえよ。おまえ一人ですら手を焼いてんのに、同レベルにさわがしいお兄さんまで相手できるわけねえだろ」

だいじようだよ。うちのおしき、すごく広いからさ。3世帯ならゆうでプライバシー確保できるって」

「なんでつうにお兄さんと同居前提なんですかねえ」


 そのときはガチでそうなりそうだからこわい。おはようからおやすみまで日葵ひまりと同じDNAに囲まれてるとか、ただのばつゲームなんですけど。


いやならが先にけつこんしちゃえばいいんだよ? 高校入って一年もったんだし、好きな子くらいできたんじゃない?」

「……いや、それが」

「えー。まだはつこいのあの子が忘れられないのー?」

「う、うるせえ。忘れられないとかじゃない。あれ以上のしようげきの出会いっていうか、そういうのがないんだよ」

しようげきの出会いねー。確か、植物園で迷子になってるときに助けた女の子だっけ?」

「そうだよ。そのとき、いつしよに見たハイビスカスがれいでさ。白いワンピースの、大人しくてわいい女の子だった。その子も迷子で、ずっと俺の後ろでそでつかんでるのが可愛かわいくてさあ」

「…………」


 日葵ひまりが、じ~っと俺の横顔を注視する。

 そして何やら深刻そうな感じで、俺のほおをツンツンつついてきた。


「……ずっと言おうと思ってたんだけどさ」

「な、何だよ?」


 日葵ひまりは「へっ」と鼻で笑った。


「その子、の気持ち悪いもうそうなんじゃない?」

「ぶっ殺すぞ」

「あるいは、お花が好きすぎてげんかくを見たのか……」

「気持ち悪いもうそうと、どうちがうのか説明してくれませんかねえ」

「ドリーマーな気質は、りよくなんだけどなー。でも、そろそろ現実の女の子に目を向けてみたほうがいいんじゃない?」

「な、何でだよ。そんなの、いいじゃん……」

「だって、もしそのはつこいの子と再会できても、いまだにどうていじゃ格好つかないでしょ?」


 ぐさっと言葉が胸にさった。

 片付けしていた器材を、うっかり取り落とす。


「いいんだよ! 別に再会したいとか思ってないし!」

「うーん。どうていつくろおうともしないとは。のそういうとこ好き」

「そもそも! おまえが学校でもベタベタしてくるから、つうにカノジョいるって思われてるんだろ!」


 俺、こんしんの反論。

 でも日葵ひまりは口元をかくして、にやにやしながら俺の胸のあたりをポンポンたたいた。


「えー? だって、アタシはちょいちょいカレシできてますし? がフェロモン足りてないだけでしょ? アタシのせいにすんなって」

「そのおまえにフラれたやつらから、変なうわさ流されてるんですけど? なんで俺がカレシくんから、おまえを横取りした感じのうそ情報が流れてんの?」

「それはアレじゃん? アタシが、カレシくんの前での話しかしないからじゃん?」

「マジでめいわくだからやめて!! もう学校のどこにらいあるかわかんねえよ!」

「だって別に、カレシくんのこと好きだから付き合ってるわけじゃないしなー」

「じゃあ、なんで付き合うわけ?」

「んー? ひまつぶし?」

「うわあ。おまえのそういうとこ、マジで引く」

「アハハ。ちょっといまだにれんあい感情とかわかんなくてさー」


 あの中学の文化祭から、早二年。

 れんあい関連に関しては、相変わらずの二人だった。


「ま、今のままでもいっかー。アタシは30になったとき、もらないと困るしなー」

「おまえ、マジで店を出すまでけつこんしないつもりなの?」

「そもそもけつこんするつもりないんだけどさー。でもが先にけつこんすると、ほんとにお見合いさせられちゃいそうなんだよなー。それは本気でかんべんして」

「人をかくみのにしてんじゃねえぞ。見合いでも何でもいいから、さっさとよめに行け」

「相手、つうにオッサンだよ? 、アタシがお父さんと同じくらいのとしの男にとついでもいいの?」

「え、マジで?」

「うん。アタシの若い身体からだが、オッサンのあぶらぎった手でよごされちゃう……」

「お、おう。おまえ、ときどき男子の俺もドン引きなエロワードぶっ込んでくるよな……」

「えっちな女の子でゴメンね?」

「そういう可愛かわいいイメージじゃないんだよなあ……」


 どっちかっていうと、さびれた公園でエロ本拾ってくる男子中学生みたいな。

 〇〇せんぱいとそのカノジョが××でセックスしたとか、そういう情報だけやけに耳ざとい男友だちと話してる感覚なんだよ。……こんなに美少女なのに、マジでドキドキしない。


「てかイマドキ、マジでお見合いとかあんの?」

「あるよー。したら、高校卒業してすぐ連チャン。もう写真とか、知り合いの間で出回ってると思う。だからアタシ、進路を何も決めてないわけですし?」

「あー。そういえば一年のときの進路表、おまえ白紙提出しておこられてたっけ……」

「とりあえず何でもいいから書けっていうから『のおよめさん』って書いたのに、逆におこられるし……」

「それはおこられて当然だ」


 人の名前を勝手に使うんじゃねえよ。

 どうりで、あのときから先生によく「ちゃんとけいたいしてるか?」ってなぞかくにんされるわけだわ。悪いけど、今のところ持ってても特に使用の予定はないです。


「……でも、この令和の時代に金持ち同士のお見合いとかあるのか」


 マジでだいおくれだと思う。そんな人生の決め方、されたくねえよ。

 しかも相手は二回りも年上とか……。


「じゃあ、そのときのかくみのくらいにはなってやるよ。……親友だしな」


 そんな格好いいことを言って、俺はキメ顔でかえった。

 すると日葵ひまりが顔を真っ赤にして、必死に笑いをこらえている。リスみたいにほおふくらまして、ぷるぷるとふるえていた。

 さすがに察した。……俺、からかわれた。


「ぷはーっ。うっそぴょーん♪」

刊行シリーズ

男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 10. 貴様ごときに友人面されるようになってはお終いだな?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 9. あのね、これで最後にするからこの旅行の間だけわたしを彼女にして?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 8. センパイがどうしてもってお願いするならいいですよ?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 7. でも、恋人なんだからアタシのことが1番だよね?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 6. じゃあ、今のままのアタシじゃダメなの?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 5. じゃあ、まだ30になってないけどアタシにしとこ?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 4. でも、わたしたち親友だよね?〈下〉の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 4. でも、わたしたち親友だよね?〈上〉の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 3. じゃあ、ずっとアタシだけ見てくれる?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 2. じゃあ、ほんとにアタシと付き合っちゃう?の書影
男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 1. じゃあ、30になっても独身だったらアタシにしときなよ?の書影