プロローグ1|《神宮寺琉実の独白》 ②

 わたしが部活にのめり込んでいる間、二人がどうしていたか知らない。じゆんきゆうどうだったからそれなりに部活に行っていたけど、おりはほとんど帰宅部みたいなもんだった。それなのに、部活終わりに二人で帰る姿をけたことがある。一度や二度じゃない。仲良さげに歩く二人を見ていると、何となく声をけづらくて、わたしは遠くからその後ろ姿を見ることしかできなかったし、なんなら見付からないようにわざと電車を一本ずらすなんてこともした。

 だから、わたしは──

 おりの気持ちを知っていながら、気付かないりをした。全部、見なかったことにした。

 二年生にあがって、じゆんと同じクラスになった。一年生の時は別々のクラスだったから、学校でじゆんを意識することはそんなに多くなかった。

 でも、同じクラスになって、教室でも話すようになって、やっぱりじゆんから目がはなせない自分を自覚した。他の女子と話すじゆんの姿をけんする自分が居た。

 そして休み時間、じゆんの元に現れるおりを何度もけた。

 ああ、おりはこうして一年の時からじゆんのところに来ていたんだ。全然知らなかった。

 おりじゆんの友達とも仲良くなっていた。どんどん自分の居場所を作り上げていった。

 断られてもいい。ほんの少しでもわたしのことを意識して欲しい。

 いつしかそう考えるようになっていた。

 わたしはじゆんに告白しようと決めた。どんな結末になるにせよ、自分の気持ちに、なやみに、区切りをつけたかった。もしかしたら楽になりたかっただけかもしれない。それでもよかった。

 三年生になる前の春休みの夜、じゆんを呼び出した。シャワーを浴びて部活のあせを流して、かみを整えて、ほんのり色付くリップをって、気合いを入れ過ぎないようにしながらそこそこカッコのつく服を着て、《コンビニに行くからいつしよに来て》とラインでさそった。

 照れやずかしさを感じていたと言っても、そういうたのごとを簡単にできるくらいの関係ではあった。だっておさなじみだし、となりの家だし。

 メッセージを送る時は、やばいくらいきんちようした。送信マークの上で、どれほど指が止まっていたかわかんない。余りのこわさに、画面から目をらしたまま送信したのは今でも覚えてる。

 なんてウブでわいかったんだろうな、あのころのわたし。

 おりがおに入っているすきねらって待ち合わせた。さすがにだまって出て行くのは気が引けたから、「コンビニ行くけどなんかる?」とおのドアしに声をけた。

 何も知らないおりは「プリンよろしく!」とじやに返した。

 そのな声が、わたしの心の中にある黒々としたみにくかたまりさった。

 家を出ると、めんどくさいなぁという顔を張り付けたじゆんが、立っていた。

 そういう顔が似合うんだよね、また。困ったことに。

 コンビニまで何を話したか、どこを歩いたか思い出せないほど、わたしはきんちようしていた。いつ言おう。どうやって切り出そう。ああ、勢いで──なんて考えているうちにコンビニに着いてしまい、ひとまずプリン二つと飲み物を買った。

 帰り道、「久しぶりにあの公園寄ろうよ」とじゆんさそった。

 じゆんに告白するタイミングをのがつづけたわたしは、今日こそ言うんだ──この公園で告白するんだと心に決めていた。子どものころいつも遊んでいた小さな公園。すべだいとブランコくらいしか遊具はないけど、子どもが走り回るには十分な広さと立派なあずまがあるいつもの公園。

 この思い出の公園こそが、告白の場に相応ふさわしいと思っていた。

 それなのに……かくを決めたのに、いざベンチに座るとどうしようもなく不安になって、なんて切り出せばいいかずっとなやんでいた。断られたらどうしよう。てか断られるに決まってる。

 わたしはおりみたいにわいらしいわけじゃないし。

 というか、じゆんおりのことが好きだし。

 そう、わたしが言い出せずにいた一番の理由──じゆんおりのことが好きだったのだ。

 小学校の五年とかそれくらいのころじゆんはことあるごとにおりのことをいてくるようになった。しょっちゅうおりと話すくせに、「おりは家でどれくらい勉強してる?」とか「おりは今どんな本を読んでる?」とか。口を開けばおりのことばっか。あいつはそうやっておりのことをライバル視しているうちに本気になった──そうして疑念はいつしか確信に変わっていった。

 だれが見たって、おりのことが気になって気になって仕方がないって感じだった。

 それでも言うって決めたでしょ!

 何度自分を奮い立たせたかわからない。

 そう決めても、断られたらって考えるとどうしようもなくこわかった。以下ループ。

 ああ、わたしに告白してきた男の子たちは、こんな気持ちだったんだなんてちがいなことを考えてしまうみように冷静な自分も居て、何が何だかわからなくなってしまった。そんなこと考えてる場合じゃないけど──みんなすごいよ。こんなに勇気が必要なことをえてきたんだ。

 ダメだ。弱気になるな。やれる。わたしはやれる。

 ……ここで言わなきゃこうかいする。

 言える。うん、だいじよう。何度目かのループのあと、わたしはかくを決めた。

 人生で一番きんちようした。

 なんてカッコつけても、おくびようなわたしは真面目に言うのがずかしくなって、「わたしと付き合ってみない?」って、ちょっと軽い感じで告白するのが精いっぱいだった。これでも相当勇気を出した。事前に用意してたセリフなんて、もうどっかに飛んで行ってしまった。死ぬかと思った。心臓がバクバクしすぎて、じゆんに聞こえるんじゃないかってビクビクしてた。


 ちんもく。そして、せいじやく



「いきなりどうしたんだよ」


 じゆんの口からようやくでた言葉がこれだった。その言い方には、そんなこと言われても困るみたいなふくみがあった。いきなりなんかじゃないって言いたかった。

 ずっと好きだったって言いたかった。

 わたしには言えなかった。

 マジになるのがこわかった。


「四月から三年生だしさ、高校に上がる前にそういうの経験してみたいじゃん。うちらは受験も無いし、ちょうどよくない? 周りでもかれちの子とかちらほら居るし、おためしみたいな感じでどう?」


 付き合おうと言った同じ口で、おためしなんて口走ってしまうのがわたしだ。いつだって本当の気持ちを打ち明けられない。あれだけかくを決めたのに、すぐにげてしまう。はぁ。

 ちんもくこわくて、じゆんが深く考え込まないようにたたけた。


「ほら、じゆんだったら子どものころからの付き合いだし安心じゃん。おたがいのことよく知ってるし。じゆんだって、わたしなら丁度いいでしょ? それともわたしとじゃいや?」


 あせるあまり、都合のい女まっしぐらなことを言ってしまった。

 ダメだ。わたしはもうダメだ。ちょー情けない。自分で言ってて悲しくなってくる。

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