プロローグ2|《白崎純の独白》 ③

 ねんため、真意をたずねた。じようだんで言っていないことは察したが、明確な回答がしかった。おくびようだとバカにされたとしても、そこはちゃんとかくにんしておきたかった。

 少し間をおいて、が顔を赤らめながら「うん」と返した。

 僕らは、その日からこいびとになった。

 と付き合うにあたって、くすぶったままのはつこいは過去のこととして決別する。そう決めた。

 はつこいの相手はふたの妹だったけど、いもうととうえいしようとしたわけじゃない。だって子供のころからいつしよに育った仲だったし、人としてのことが好きだったから、付き合うことに照れはあっても、ていこうはなかった。おりのことをあきらめた僕にとって──どうがんってもおり相応ふさわしい男には成れないこんな僕のことを、が遠回しに好きだと言ってくれた。

 今にして思えば、敗北感にさいなまれていた僕にとって、それは一種の救いだったのかも知れない。今までの努力がむくわれた気がして、なんだか気持ちが楽になった。

 なんてああだこうだ言っても、単純に彼女が出来たということがうれしかった。心の中でじやくやくした──だけじゃ足りなくて、ベッドの上で転げ回って、気付けばゆるみそうになるほおかくとうした。自分でも痛いと思うが……中学生だったし、そんなもんってことにして欲しい。

 そんな訳で付き合い始めた僕らは、ちゆうこういつかんこうおんけいを最大限に生かし、中学三年というつうならべんきようけになる大切な期間を受験に追われることなく、二人だけの日々を重ねることについやした。中学生らしい、ささやかな秘密とさいぼうけんいしれた。

 そうやって季節が移ろう中で、僕はのことが好きになっていた。

 物事を余計に考えすぎてしまう僕とは対照的に、は子供のころからいつも前向きで、行動あるのみといった風だった。例えば何かを相談──部活でのスランプだったり、人間関係だったり──した時も、「あれこれ考えても仕方ないんだから、まずは行動」とか「細かいことはイイから、自分がこれだと思ったようにやってみなよ」と背中を押してくれた。

 それに何度助けられた──救われたかわからない。

 はいつも明るくて、ちょっとおこりっぽいところもあったけど、いつしよにいてなおに楽しかった。おさなじみとしてじゃなく、自分の彼女として、のことをとても大切に思っていた。

 だから僕なりに、の望むようにしてやりたいと思った。

 に「ギャップを楽しみたいから、だんはコンタクトにしなよ」と言われて、外ではコンタクトレンズをするようになった。服装もそれなりに気をつかうようになった。

 そうやって少しずつ変わっていく僕に対して、「それ、お姉ちゃんのしゆ? もしや言われるがままなの? しりかれてると楽だから?」なんておりから茶化されたこともあるけど、周囲もふくめて色気づくとしごろ──つまり思春期ということもあって、他の人からあれこれせんさくされることは無かった。

 それもそのはず、僕とのことは仲のいい友人には話していたけど、わざわざけんでんするようなことはしなかった。付き合っている時は別のクラスだったこともあって、僕たちの関係が周りに知れることは無かった。

 そもそも、けんでんどころか母親にすら言わなかった。正直、感づかれていたような気もするけど、はっきり言ったことはない。これは単純に、言うのがずかしかったから。

 はどうしただろうかと思っていてみると、「わたしも言ってない。てか、言う必要なくない?」と言われた。

 とは言え、そこは中学生。親は別として、彼女の存在をまんしたいという気持ちもあった。

 だまっていることにむずがゆさを覚えていた僕は、学校では大っぴらにするのもいんじゃないかと提案したことがある。だが、「かくれてコソコソ付き合ってる方が楽しくない?」というの言葉に、「それもそうだな」なんてまんざらでもない風で返した。事実、みんなの目をぬすんで重ねるおうは、推理小説やスパイ小説が好きな僕にとって、一種の興だった。

 何も考えずに、その言葉を額面通りに受け取るくらい、僕はかれていた。

 どうしてが僕らの関係をみんなに言わなかったのかを理解したのは、高等部進学をひかえた春休みのこと。ちょうど付き合ってから一年をむかえようとする時だった。

 僕はとうとつから別れを告げられた。

 告白された時と同じように、僕は春休みの夜、に呼び出されたのだ。

 は泣くことも、笑うこともせず、いつもの顔で「今日で終わりにしよう」と言った。

 もちろんそんなことを言われてもなつとくなんて出来なくて、何度もただした。無様なほどすがった。けんや失敗もあった。思い返せば思い返すほど、原因になりそうなことがあれこれおもかんだ。僕はひたすらどこに原因があったのかたずねた。

 だけどは、ただ静かに首をって、「とつぜんこんなこと言われてもびっくりするよね。でも、わたしの中ではとつぜんじゃないんだ。もう終わりにするって決めてた。だから何を言われても無理。けど安心して。じゆんのことがきらいになったとかじゃないから。どっちかって言うと、わたしの問題、かな。わがままでごめん。でも、じゆんと付き合えてとても楽しかったよ。今までありがとう」と言って、ようやくさびしそうな顔をした。

 の顔を見ながら、なんて言えばいのだろうと必死に考えた。

 別れるなんて考えられなかった。もうはなせなくなっていた。

 だって、は初めて出来た大切な彼女だったから。

 のことが好きでたまらなかったから。

 だまっている僕にが放った言葉は、今でも僕をしばけている。



『最後にお願いがあるの。彼女としての、これが最後のお願い。

 おりと付き合って。今すぐにでもおりと付き合って。

 じゆんにはわたしじゃダメなの。それはおりも同じ。じゆんじゃなきゃダメなんだ……』



 そして、は深々と頭を下げ、似合わないことづかいで、お願いします、と言った。

 それはゆいごんなんかじゃなくて、僕にかけられたのろいの言葉だった。

 僕はそののろいにあらがうことの出来ないあわれな男だ。

 こうして僕は、はつこいの女の子と付き合っている。

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