ところで私は、どうやら純君をして、サブカル女子という括りになるらしい。いやいやメインカルチャーも好きですけど。何故にそうなった? ともかく、私はそういう扱いらしいようである。全く以て諾了出来ぬ。
斯く言う純君も同類である。小説や映画、漫画、アニメ等々が大好きで、私や時には友人を交えて議論したがる議論家……いや、語り屋だ。そうやってあれこれ議論することも大好きだけど、私は議論をしたくて物語を消費するのではない。ただ浸っていたいのだ。
私は幼い頃から数多の本を読み、色んな映画を観、様々な音楽とともに育ってきた。
端的に言おう。私のお父さんがそういうタイプなのだ。絵本や映画が好きだった私を、お父さんは照準線の真ん中に据えた。そして、英才教育を施した……と本人は思っている。
思い通りになんてなるか、このSFオタクめ。
私は騙された振りをして、父親の蔵書やDVDやCDを片っ端から消費してやった。
娘にとって父親を騙すなんて造作もないことなのだっ。父よ、娘を見くびるでない。
私に振られたお父さんは、純君をターゲットにした。純君は薫陶とはほど遠いお父さんの話を真剣に聴いた。来る日も来る日も耳を傾けた。
その結果、お父さんの趣味を色濃く引き継いだ弟子が誕生した。
純君はフォースの暗黒面に落ちたのだ。許すまじ、わが父。シスの暗黒卿め。
だから言わせてもらおう。純君こそサブカル野郎なのだ。
大体、お姉ちゃんと付き合っている時に宇宙航空研究開発機構のシンポジウムをデートの行き先に挙げるような些かヤバい人なのに、宇宙の話になった時、宇宙は最後のフロンティアだからなぁと真面目な顔で言う人なのに、好きな音楽の話になった時、クラフトワークは外せないなんて平気で言うような人なのに、私をサブカル呼ばわりする権利がどこにあるのか教えて欲しい。純君の方がよっぽどサブカルの塊じゃん。
それなのに、純君は周囲からサブカル呼ばわりされない。まことに、甚だ遺憾である。
説得力の差? 純君はいつも学年トップだから?
いえいえ不肖私も、学年順位が五位以内から滑り落ちたことはないのが自慢ですから。
改めて言わせてもらうなら、やっぱり純君は立派なサブカルクソ野郎だ。
あ、私の初恋の人の話ですよ、これ。
まぁ、初恋とかそういうのを抜きにしても、私にとって純君は、仲間とか戦友とか趣味友とかそういう類の人間って話。だから、私は純君といて退屈だと思ったことはない。
そうであるが故に、思うのだ。
お姉ちゃんは純君とどんな話をしていたんだろう、と。
どんなコミュニケーションをとっていたんだろう、と。
あの蘊蓄が服を着て歩いているような男の子とどんな風にデートをして、どんな風にいちゃいちゃしていたんだろう。私にはわからない二人だけの時間。
なんとなく想像は付くけれど、それは想像でしかない。
いつだってお姉ちゃんは私より先を行く。
友達を作るのも、服が小さくなって着られなくなるのも、ブラジャーを着けるのも。
そして、恋人を作るのも。キスをするのも。
全部、お姉ちゃんが先を行く。
私はそこに出来上がった道を辿るだけ。妹の私はペンギン・ハイウェイを歩くだけ。
でも、劣等感なんて抱かない。私は私。
私には私の勝ち方がある。
テストの順位は私のが大分上だし、胸だって今や私の方が大きい。
私には、私のやり方がある。細工は流流仕上げを御覧じろってね。
ペンギン? いやいや。私は飛べなくなんかない。
私は夜鷹。みにくいのは最初だけ。最後は星になるんだ。そうでしょ?
私の輝きに目を細めるが良い。高いところからなら、何でも見通せるんだよ、お二人さん。
隠れたって無駄だからね。