第一章 これくらいは変態じゃない……よね? ②

 今さら、おりと両思いだったから何だって言うんだ。過ぎたことじゃないか。


「だからって……そんなこと言われても……」

じゆんだっておりのこと──いや、それはいい。これはわたしからのお願い。わたしをおりのお姉ちゃんにもどしてしい。それはじゆんにしかできない。こういう方法しか思いつかないの」


 ぼうすいじようの、くりっとした目が見開かれ、僕をまっすぐにいたかと思うと、ふっと視線が落ちた。すようにまえがみげる。さらさらのかみが指をすべっていく。

 そうか。そうだったのか。はずっと前から僕のはつこいに気付いていたんだ。僕の気持ちを知っていたんだ。言おうとしてんだ言葉の先に続くのは、おそらくそのことだ。

 にぶい僕でも分かる。「じゆんにはわたしじゃダメなの」ってそういう意味で言ったのか。

 本当にバカだな。

 そんなのとっくに気持ちに整理はつけてたよ。

 それにしたって、お姉ちゃんにもどしてって言うのは……わたしの問題ってそういうことか。

 ──だから君は僕に別れを告げたのか? そのために?

 もしそうだとしたら、君は本当に馬鹿だ。とんでもない馬鹿だ。

 それがおりに対して、どれだけ不誠実で失礼で、小馬鹿にしたことか分かっているのか?


「……そんなにすぐ気持ちをえられない。それにこんな気持ちでおりと付き合うのって失礼すぎる」

おりのこと、きらいじゃないでしょ?」

「もちろん」

「だったらいいじゃん」

「よくねぇよっ。おまえなぁ、そーやって簡単に言うけど、そんなに単純な話じゃないことくらい分かるだろ? 大体……僕はまだのことを……」

「──やめて! それ以上言わないで! 何を言われたってヨリはもどさないから!」


 すがるような、しぼりだしたような声で、はそうさけんだ。

 の声が、僕のまくつらぬいた。

 との会話の中にひそさびしそうなこわいろ。ふとした仕草にめられた意図。時折見せるかげりのあるがお。そういうものを見つけるたび、僕は可能性をさぐった。

 もう一度やり直すためには何が必要なのか考えていた。

 しくて、浅ましくて、立ち直ることの出来ない僕に向けられた、それはからの明確なきよぜつの言葉だった。どうあがいても、おりと付き合わないと君はなつとくしないのか。

 本当にそれでいいんだな?


「それで本当にこうかいしないのか? 僕がおりと付き合えばそれで満足なのか?」

「……うん」がゆっくりとうなずく。

 なぁ、。君は、本当にバカだ。とんでもなくバカだよ。

 おりこいために。

 僕のはつこいために。

 自分は身を引いた。そういうことだろ? 姉のきようを守るために。

 今までのはかんたんの夢だった……ということでいいんだな?

 本当にバカだ。こんなことバカげてる。


「僕と別れた理由ってつまり……いや、いい」そこまで言いかけてやめた。

 一番バカなのは、ちがいなく僕だ。だって、の最後の願いを聞こうとしているんだから。


「でも、なんだろ?」



 ※ ※ ※


じんぐうおり


 すいひんのはじまり。かくも素晴らしき愛すべき日々ゴールデンウイーク

 深夜まで小説をふけっても、明け方まで映画をても許されるいとおしい休日。

 消費せよ! 物語を消費せよ! 独り身上等。あたえられた時間をいつぱい使うのだ。

 私は心の声に従って、初日から不規則きわまりない生活を送る。厳密には前日の夜から。

 ゴールデンウィーク前日の夕食のテーブルで、連休は混むからけたくないなぁとこぼしたお父さんは、ひさりにかつこう良かった。父親のげんを少し感じました。

 家が大好きなお父さんと私。外出が大好きなお母さんとお姉ちゃん。

 これが我が家に横たわる根深い対立構造。マーシヤルプラン共産主義モロトフプラン秘密警察シユタージに気をつけろ!

 ん? どっちが資本主義じんえいかって?

 うるさいっ! 私は家に居たいんだ! 人混みになんて行きたくない! マウアーを守るんだっ!

 以下、私きの会話。

 お母さんが「そうは言っても折角の休みだもの、どこか行きたいわ」と言い、お姉ちゃんが「学校のみんなは海外やら温泉やらさわいでたなぁ」なんてここぞとばかりにあおる。


「そうは言うけど、ゴールデンウィークなんてどこも混んでるぞ。遠出した帰りに、じゆうたいに巻き込まれるのはめんだ。運転するのは僕なんだから」

「私も運転するから。代わり番こに運転すればいでしょ?」

「そういえば、この前テレビでさくらんぼりの特集やってた!」

「あら、いいじゃない。でもさくらんぼの時期ってもうちょっと後じゃない?」

「ハウスさいばいなんじゃないか?」


 父よ! 知識をひけらかしたいという欲求をおさえたまえ! そこは否定でしょっ!


「それにしましょうよ」

「でも、混んでるんじゃないか?」


 そうだそうだ! もっと言ってやれっ!


「そりゃ少しは混んでるでしょうけど、そこまで遠くないしいいじゃない」

「まぁ、それくらいならいっかぁ」


 げん、無し。かつこう良くない。安易なてんとうむすめしんらい失うからね。覚えとけ。

 我が家はいつもこうだ。めんどりすすめておんどり時を作る。そのトサカ切ってやる。


おりはどう? さくらんぼり。楽しそうじゃない?」


 お姉ちゃんはいつだって、こうして私にちゃんといてくれる……けど。

 もう行く流れじゃん。絶対行くじゃん。きよけんなんてないじゃん。そうやって物事が決まってから、ちゃんとかくにんしてますみたいなポーズはずるいよ! ちらっと画面に映っただけの通行人が犯人だったみたいなずるさだよ!

 とりあえず私のターンだけど……同意するしかないじゃん。この流れ。


「うん。いいと思うよ」


 わかったよ。一日くらいくれてやろう。これも家族のへいおんを保つためだ。私はちゃんと空気を読むことが出来るのだ。なめたらいかんぜよ。行きたくないけどね!

 そして父よ。げんしようめつを自覚し、自省したまえ。許さないからね。


「じゃあ決まりだね」


 お姉ちゃんのうれしそうな顔を見られたからいい。よしとする。


「そう言えば、しろさきさんのとこのお父さん帰って来てるんでしょ?」

「おお、そうだな。たまには庭でバーベキューでもするか?」


 いいこと言うじゃないか、父よ。むすめしんらいかいふくに努めておくれ。


「いいね。お肉食べたい。とりあえずいてみてよ」これには私も積極的に意見を述べる。

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