一章 彼女と彼女の恋愛事情 ⑥
「俺は見てない。知らないけど?」
最初から最後まで、
「そうだったの」
「あ、ああ。じゃあほんとに、俺はこれで……」
「待って。最後に、本当に、もう一つだけ。聞かせてもらえる?」
「な、なんだよ? さすがにしつこい……」
「どうして
「え?」
瞬間、
理由は、ゆっくり顔を上げた
生まれてから今日まで一度も笑ったことがないと言われても信じてしまいそうなほど冷淡に思える彼女が、口角をきゅっと上げ、逆に目尻は緩やかに下がっている。
飲み込む唾が痛いほど喉はカラカラに渇き、胸がざわつく。
──何が起きている。いや、起きようとしているんだ?
「どうして、
同じ問いかけ。赤ん坊をあやすかのように一音一音を区切り。
「う……
「中にね、ルーズリーフが一枚、挟んであったんだけど」
「だから俺はそんなの知らな」
「ページが違うのよ。挟んであった場所が変わってるの。私の手元に戻ってくる前と後でね。その前後でこれに触った人間って一人しかいないでしょ」
「…………」
カタカタカタ、と。
「さーて、ここで問題です。慌てて紙を元に戻したつもりになっていたその男が、知らぬ存ぜぬを突き通そうとしたのは、どうしてなのか?」
依然として、笑顔。怒ってないから正直に話しなさいと



