第七章

 さて、と僕は思った。

 とりあえず岩屋から外に出て、星空たっぷりの大地に出る。そしてバランサーと先輩がついていくるのに振り向いて、


「ええと、そのテラフォームはもう始まってんの?」


「あ、はい。既に始まってます」


 だから、と先輩がこの周囲や岩屋を手で示す。


「こういうの、私がさっきの力で作ったものなんですよ」


 ちょっと自慢げにいう先輩、超いいです。ホント、自分の出来ることに自信が持ててるのは素敵だ。五回くらい結婚したい! そんな内心は別として、僕はバランサーに問うた。


「つまりコレ、先輩が、テラフォームとして溶岩の海を大地にしている?」


《そのとおりです。しかし貴方は解ってないと思うので正確に言いますが、星自体を冷却している大地としているのではなく、彼女の神としての力を使って、強制的に大地を作っているのですね。結果、地熱は隠され、惑星の表面温度が下がります》


 やべえ、調子乗って小難しいこと言い出しやがった……。

 だけど僕の方もそのあたりはちょっと解ってる。えーと、と前置きして、


「星を冷やして、水を成立させる?」


 言うと、先輩が拍手してくれた。代わりというようにバランサーが唖然とした表情を画面に作って、


《馬鹿だと思っていたのに、評価を改めねばならないようですね。屈辱です》


「そこまで言うか……。あ、でも何だ!? 僕がいろいろ知っていて驚きか!? 愕然か!? うほほーい! うほほーい! ざまあ見ろ! で、どうすんの? それから」


《こ、この、猿の末裔が……!》


 評価が戻ったらしい。ともあれバランサーが一回画面を傾けて言う。


《あのですね。とりあえず向こう、彼女に頭を下げなさい》


 僕は先輩の足下で背面の伸身土下座した。


「アー! ローアングル――! でもこれそこの動く画面が指示したことだから僕の望んだことじゃありませんンンン――!」


《踏んでいいですよ》


「いやいやいや、どういうことです?」


「下から見ると巨乳で先輩の顔が見えないということです!」


 発見だ! さっき膝枕の時も発見したことだから、これはダブル発見だと思う。凄い。これからも回数を重ねて行きたい所存であります。


「良い機会を有り難う画面! お前の事を誤解していたよ!」


《誰が画面ですか、誰が。まあ私もそれは否定しませんが、用語としての混乱が発生する確度が高いのでバランサーと呼ぶことを推奨します》


 後になってそういうことが起きて訂正するのは面倒なので、今からでいい。だから僕はバランサーに告げる。先輩にも告げる。


「バランサー、つまり、こういうことなんだろう? 僕が今、ここで息が出来たり、そもそも生きていられるのは、先輩のおかげなんだろう?」


《地面に寝たままで言うのはやめませんか?》


「くそう……! お前、解ってないよ! 何で通じないんだよ……! そういうところじゃないだろう!? もっと、こう……」


「あの、住良木君? 一応下は岩なので、背中痛くありません?」


「あ! 大丈夫です! 先輩が作ってくれた大地でローアンやるならそこらへんは覚悟の上です!」


 僕は地面に這って、バランサーを見上げた。


「ほら、どうだ……!? この大地のこのあたりもあのあたりも、全部先輩がその巨乳揺らしながら頑張って作った手作りの一品だぞお? ああっ、先輩の手触りを僕は今、全身で感じている……! 羨ましいか! わっかんねえだろうなあ――!」


《この馬鹿、話が進まないので、こっちで進めませんか?》


「いえ、まあ、私とはバディなので……」


 いかん、このままでは先輩に迷惑を掛ける駄目な後輩になってしまう。ゆえに僕は急いで身を起こし、バランサーに首を傾げた。


「で? 何? 聞いてやるけどぉ?」


《く……!》


 しばらくバランサーが背を向け、上下運動を繰り返した。ややあってから画面はこっちに向き直して復帰し、


《――話を戻しますが、貴方が今、ここで生きていられるのは、確かに彼女のおかげです。彼女の神としての力が、信徒……、神道では氏子でしたか。その範囲にいる貴方に及び、守ってくれているということです》


「先輩スゴ――イ!」


 先輩が笑みで返してくれて、僕は自分のチョロさを感じました。

 あ、マズイ。ホントに僕、先輩に対してチョロいと思う。何か出会ってからあっという間だけど、相手が神様だったら仕方ないか!

 だけど先輩が、目を細めて言った。


「住良木君と組んで、さっき、ほら、神格上がったでしょう? あれでまた、いろいろ出来るようになったんですよ?」


「神格が上がるとアレで、またがいろいろ出来るように!?」


「え?」


《オイッ》


 僕は自分で自分の頬を叩いた。駄目。駄ー目。何かもう、神様の前だと隠し事が出来ないガラスのようなマイハートになってしまうせいで、いろいろダダ漏れだ。

 とはいえ向こうが話題を振ってくれた。だから僕は問う。


「どんなことが出来るようになったんですか?」


「はい。以前は溶岩みたいな地相を、こういう岩石の大地にするのに、私のいる周辺や手を翳した空間とか、そのあたりが限界だったんですけど、今はもうちょっと範囲が広がっているんですね」


 ほら、と先輩が、大地の縁に行く。

 そこから先は熱気で、火の粉が上がっている場所だ。熱い、と思うが僕に熱は通じてこない。先輩は神だから”もっと大丈夫”とか、そんな感じなんだろうか。

 ただ彼女が手を翳したとき、それが起きた。

 手前から向こう、三十メートルほどの幅と奥行きで、溶岩地帯が岩石の大地に変わったのだ。


「おおう……」


 塗り替えというかローラーというか、何だろう、今のは。


《相を変更しているのです》


「相?」


《地脈がその地形に与える、もしくは逆算的に発生した”型”。これが”相”です。地相とか、そう言った方が理解が早いかもしれませんね》


「どういうこと?」


 問うと、バランサーが半目になった。


《今ので解らないのですか》


「ああ、うん、説明が下手だったから」


 二分くらい貶め合った。流石に先輩が戻ってきて、説明をしてくれる。


「ええと、世界にはどこもかしこも地脈が流れていて、地脈というのは、空間を作り上げる流体の太い流れだというのは、解ってます、か……?」


「僕の表情の変化を読み取ってくれて幸いですが、さっきあったそのあたりの話はソッコでスッポ抜けてます」


 えーと、と先輩が、さっきよりも力を抜いて一つ頷く。

 そして彼女は、両の手で、宙を支えるように構えた。


「”空間”というものがあります」


 僕は、先輩の講義を聴くことにした。それが後輩ってもんだろう。そうだ。正面にとりあえず立って、


「あ、すみません、先輩」


「何ですか?」


「僕、多分、先輩の説明聞きながら胸を凝視したりすることがあると思うんですが、話は聞いてますし、その凝視は単に凝視なのであまり気にしないで下さい」


「え、ええと」


 と先輩が戸惑ったときだ。バランサーが不意に呟いた。


「あ、これは解りやすい」


 直後。あることが起きた。

 光だ。

 先輩が支えるように構えた両手の間。一メートル四方くらいの”空間”が、いきなり発光して弾け、砕けたのだ。


 ……は!?


 何が何だか解らない。先輩がライトなどを持っていたのだろうかと、そんなことを思ったが、


「光が……」


 散って砕ける光が、どう見ても”固体”だ。まるで光る氷や硝子の欠片のように、しかし、それらは周囲を吹いているであろう星の熱風に散り、ほどける動きで消えていく。


 ……どういうことだ?


 解らない。だけど先輩は、ちょっと驚き気味に啓示盤を確認の上、こちらを見た。


「驚きました? いえ、あの、私は驚きましたけど」


「いやまあ、驚きましたけど、……何です? 今の光というか、欠片?」


「ええと、今のは失敗なんです」


「失敗?」


 ちょっと期待していたのとは答えが違った。あの光の”固体”が何であるのかを知りたかったんだけど、でもいいか! 先輩とこう話せているしな! 今までの人生で、女性とこんな風に長時間話した事って初めてだと思うぞ! 死にたくなるな!


「ええと、今のは、住良木君の不規則言動に集中が乱れて、予期しないというか変化を間違えた感じで」


「え? じゃあ、僕が悪かったんです、ね……」


「いや、そういうのじゃないです。悪いとか良いとか、そういうのじゃないので」


《駄目ですよ、コイツを甘やかしちゃ! もっとガツンと!》


「クッソ、喋る画面が貶めに来たよ……!」


 まあまあ、と先輩が仲介に入ってくれる。その上で彼女は、また手を構え、


「さっき、光が暴発しましたけど、今、私が、この手で”空間”を掲げていると、そう見て下さい。この……、視線の先ですね、ここに一メートル四方の空間がある、と」


 あ、ハイと言われてみる僕と先輩の間。手で支えているのは何もない範囲というか、空間だ。


「この空間に、今、何がありますか?」


「何も……」


 と言いかけて、そうではないと気付いた。


「この星の、大気? あと、熱があります。風も……、あ、これは大気か」


「いえ、そういう認識で大丈夫です。じゃあ、ちょっと、御話をしますね?」


 先輩が言った。


「つまりこの空間をグっとやってパンっと変わるわけですが、それはつまり空間が流体でドバーっとなってるのをグっとやったせいで、普通はダラっとしてる訳ですね」


 あ、先輩、説明が超下手だ。


「解りました?」


 問いかけを受け取るタイミングで僕がバランサーを見ると、喋る画面は大地にぐったり伏していた。


「おい、どうした? 何だ? 今の先輩の説明、解らなかったのか?」


「……貴方、今ので解りました?」


「馬鹿野郎! 先輩の言うことなら何でも解るよ僕は! グっとやってキュっと締めてアハーンだろう!? ああ可愛らしい!」


「いえ、あの、グっとやってパンっと変わったのはドバーっとなってるからだと」


「ですよね――!?」


「解ったかナ?」


「いえ、私、解ってるけど、今のはちょっと……」


「コレ、チュートリアルみたいなもんだろうけど、終わるのか……?」


 バランサーは、消えてしまいたくなる自分のメンタルを何とか持ち直した。

 あのですね、と言葉を作って、猿の末裔に言う。


《この世界は地脈に満ちてます。つまりこの世界、地脈が通っていないところはまずありません。――解ります?》


「脈っていうけど、血管みたいなもんじゃないの?」


《……うわ、ビミョーに理解出来てるこの猿……、あ、こっちのことです。気にしないで下さい。それでですね。脈というのは、この場合、”流れている状態”のことを示します。そして”地”は地面に限らず、場としての全ての空間を示します。


 この世界全てが海だとしたならば、

 ・海=地

 ・海流=脈

 みたいなものだと思って下さい。そういう意味で”地脈”です》


 そして、


《地脈として流れているのは何かというと、”流体”です。これは地脈と同義語のようなものですが、”海と水”の関係のようなもので、”地脈=全体”で、”流体=特定範囲や、変化対象”として扱うときの呼び方だと思って下さい》


「海を例にするなら、”海と海水”じゃないの?」


 出来ることなら抹消してやろうかと心底思った。

 ともあれ数秒、高速の思考能力でありとあらゆる”落ち着く方法”を知識から検索して仮想空間で実践。万全の上で再度言葉を作った。


《つまり私達も、地脈で有り、流体です》


「待って」


「何でしょう」


 問うと、馬鹿が相方を手で示して言う。首の傾げもつけて、


「それ、おかしくない? だって僕も先輩も、地脈だとしたら、流れてないと駄目なんだよね? だって、地脈って、流れてるわけだから。――でも僕達、流れてないよ? それとも僕達は、地脈を素通りしている訳?」


《いえ、貴方も相方も、私も、流体で出来ていて、地脈の一部を構成しています。そして地脈は今も、私達を流れていっています》


「それは――」


 疑問が面倒なので、自分は先に即答した。


《”型”があるのです。先ほどの”相”と同じものが。

 貴方は貴方の”型”があるので、貴方を保っていられる。

 私も、彼女も、世界も同様で、自分達の”型”があるから、自分達でいられる。そういうことです》


《”型”は、流体が満ちることで、そこに”型”が示す形を発生させます。

 水風船のようなものですね。そして流体は何処にでも存在しているので、”型”は常にその形を保ち続けられます》


 これは簡単なルールだ。

 今、自分達は、”型”があるがゆえにここに存在できている。”型”が無ければ、流体は全く固定も、方向性も持たず、散って素通りするだけだろう。


《たとえば人間は、母の胎内などで受精し、発生した段階から情報が積み上がっていき、そこで個々の”型”を得ていきます》


 そして、


《この大地も何もかも、同じです。”相”として広大な”型”を持ち、そこに流体が流れ、わずかながらにとどまり、方向性を持つことで、この形を得ている》


「待って」


《何でしょう?》


 こちらの言葉に、猜疑しかないのだろう。というか多分、ルールがまだ解っていないのだ。ゆえに彼が、想定通りの疑問を告げた。


「……おかしいだろう?」


《何がですか?》


「だって、この世界がこういう形をしていることや、僕のような人間がこの姿をしているのは、”型”があるから? 違うだろう。僕なんかは細胞分裂重ねてこうなった訳だし、この星だって、重力とか熱とか、そういう物理――、そう、物理法則があるからだ!」


《そうですね》


 認める。馬鹿が、何か怪訝な表情をする。

 だが、ここからが本番だ。


《でもそれは要するに、この世界を流れる地脈にOSとして乗った物理法則が、”それ”なだけです》


「はあ?」


 バランサーの言葉は、無茶苦茶だと思った。


 ……僕や先輩は、それぞれの”型”があるから、存在できてるって? 


 ヘンテコ理論だ。だが、変だと抗議しても、この世界に地脈の持つOSとしての物理法則があるとなれば、そこで辻褄は合う。

 だが、これに意味はあるのだろうか。

 おかしいだろう、と僕は呟いた。


「この世界に物理法則があって、それで何も問題ないところに、実は地脈や流体や”型”があるんだ、って言って、何か意味があるのか?」


《ええ、よく考えて下さい。――”流体は、この世界の基本的物理法則を持っている”。では、こう考えたら、どうです? ”流体は、操作できる”と》


「はあ?」


 同じような疑問詞を間抜けに出してしまうのは、言われた意味が解らなかったからだ。 


 ……流体を操作する?


「それは……、右とか左に回したりとか?」


「いえ、そういうのじゃなくて……」


《流体は、空間の構成要素で有り、また、物理法則そのものです》


 それを操作する。


 どういうことか。


「グワっとやって、ポン、とたたき直す感じです!」


「先輩超可愛いです……!」


 先輩が頑張って僕に伝えようとしていることは何なのか。解る。が、解ってしまうと、おかしなことになる気がする。だが、


「これを理解出来ないと、僕、先輩と作業出来ませんかね?」


 それは嫌だ。だって巨乳の黒髪ロングで美人で擬音使って説明するような新型制服の頑張り屋さんが、僕と作業するんだぞ! そんな機会が無くなったら僕は死ぬね。いや、大袈裟じゃないぞ。ホントにそうだ。頑張れ僕。だからここは、こういうべきだ。如何にトンチキだろうと、


「――流体を操作して、空間にあるものを別のものに変化させたり、また、物理法則を別のものに書き換えられるのか!?」


 バランサーは、ようやく、山を越えたと、そんな風に判断した。


《御名答です。早めで有り難いですね》


 やったー、と彼女が喜び、馬鹿が”まあまあ”と言っているが、彼以外は全員が理解をしている事実だ。


《この世界の物理法則は、単に流体内のOSとして決まっているだけで、それは簡単に書き換えられます。そして流体も、万物が成立するには”型”があることになりますが、その”型”を書き換える、もしくは流体を直接書き換えすることで、万物を別の万物に変化させることが可能です》


「錬金術ってヤツ?」


《あれは方法が間違っていました》


 しかし、もう、猿の末裔にも解っているはずだ。


《先ほどから、彼女が、大地を作り上げたり、さっき、光の欠片を散らしましたね? あれは何だか、解りますか》


 ああ、と馬鹿が頷いた。彼女が、再び手を掲げるのに頷きを返し、


「先輩が、自分の出来る範囲で流体か”型”を溶岩から岩場に書き換えていた。

 また、掲げた範囲内の空間を、僕の情熱を受け止めきれず、つい”光”に書き換えてしまった。それも、この世界の光ではない。固体化した光に、だ」


《光で幸いでした。ブラックホールや、彼女も制御できないような状態に変化が生まれていたら、私の強制介入しかありませんから》


 さて、


《とはいえ、人類がこの操作を行うのは大変です。魔術と、そう呼ばれるものが手段の一つでしょうが、効率が悪い。ゼロに近い状態から技術体系など構築するのは、私達の高速思考があれば即座に可能でしょうが、それではまた、人のいる意味が無く、私達の存在意義にも関わります。だから――》


「だから神、か?」


《その通りです》


 これはもう、作業効率の問題だ。


《神と人の違いは何です? 人はその世界の物理法則下で生きていかねばなりませんが、神は自分の担当権能の範囲化において、流体を書き換えることが出来る。

 つまり神は、人に理解出来ない”奇蹟”を起こせるのです》


 だから、


《大規模な事業を行う際、物理法則をねじ曲げ、世界を書き換える神々がいれば、作業は効率化され、安定化もします。しかしその神々でも、限界点が出てきた。――だから”人の信奏”を発生させ、神々をアゲる。これは神々から人々に世界を下げ渡す前段階ともなり得るので、やるべきです。そして”やった”。

 ――今の状況は、そういうことなのです》


 ……話が長い……。


 大体は理解が出来た気がする。

 単純に言うとこうだ。


「神々が世界を変化させるから、それを手伝え、と」


《まあ、やることといえば、そういうことですね》


「……流体とか、”型”とか、説明必要だった?」


《……これからの作業において、彼女との意思疎通に必要でしょう。技術の理解が出来ていないならば、ライターを有り難がる猿と同じで、新しいものは発想出来ません》


 ああそういうことね、と何となく理解。

 じゃあこういうことだ、と先輩を見る。


「先輩、この喋る画面はイマイチ信用が出来ないんですが、先輩は、僕を信じさせてくれますよね?」


「ええと、はい、さっきから、こういうの、見せたかったんです」


 応じて、先輩が、虚空を支えていた手を軽く上げた。


 ……巨乳が生で揺れるよ……。


 ホント揺れるんだなあ、と思っていると、”それ”が生じた。

 一メートル四方。先輩の掲げた空間が、いきなり水になったのだ。


 一瞬だ。タイムラグ無しで、この星の大気の一部が水に変わった。


「私の専門じゃないんですけど、基本的な権能としてこのくらいは出来ます」


 これがおかしなことだと、僕は解っている。何故なら、


「今、ここの大気って、何度あります?」


《大体、摂氏三百度前後ですね》


 思ったよりあるなあ、と思う。だが、その中に水の塊が浮いている。

 本来なら、蒸発している筈だ。


「イリュージョン……」


 つい呟いてしまうが、これが”型”とか、そういうことなのだろう。


「その水を、今、先輩が”保っている”んですね?」


「住良木君や私が、ここにいられるのと同じで、私の産土下にあると、そういうことになっています」


 じゃあ、と僕は疑問した。


「それ解放したら、一気に蒸発しますよね?」


「ええ、そういうの見せて、理解して貰おうかと……」


 僕は喋る画面を見た。向こうも僕を見ていた。

 問いかける。


「確か、子供が大好きな爆発の一つに、水蒸気爆発ってあったよね」


《ちなみに水が沸騰した場合、体積は約千七百倍になります》


 僕達は先輩の掲げた水を見た。すると先輩が、横に開いた口で、


「コレ、どうしましょう、か」


《別に私達は死にませんよ。ステータスが猿よりちょっと高いだけの馬鹿は即死だと思いますが》


「ワーオ! 刺激的な投げやりを有り難う。後で初期化の方法検索してやるから喜んでデータベース見せろよ!?」


「いやいやいやいや、このお水、ええっと?」


「あの、別のものに変化させては?」


《彼女、神としては格がまだ低いので、大気から水へ変化させたものを、また別に、となると、ちょっとMURIでは》


「じゃあどうすんの?」


《彼女の”相”の範囲は、この前の格上げで広がっていますから、手放したら即爆発、ということはありません。あちらの岩屋に水を撒いて、距離をとって爆発を促せば、それで大丈夫かと》


 結局、岩屋が激震したが、何とか保った。


「――ええ、壊れませんでしたね」


 ちょっとドヤる先輩、超可愛い。


「ではちょっと、詰め込み気味ですが、テラフォームのさらなる効率化の話と、現状について説明しましょうか」

刊行シリーズ

EDGEシリーズ 神々のいない星で 僕と先輩の超能力学園OO〈下〉の書影
EDGEシリーズ 神々のいない星で 僕と先輩の超能力学園OO〈上〉の書影
EDGEシリーズ 神々のいない星で 僕と先輩のウハウハザブーン〈下〉の書影
EDGEシリーズ 神々のいない星で 僕と先輩のウハウハザブーン〈上〉の書影
EDGEシリーズ 神々のいない星で 僕と先輩の惑星クラフト〈下〉の書影
EDGEシリーズ 神々のいない星で 僕と先輩の惑星クラフト〈上〉の書影