第三章 『境界線の手始め屋』
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控えの班は、それなりに忙しかった。
控え班の総リーダーには、浅間が就いた。武蔵の主社となっている浅間神社と東照宮。この二つの神社の代表である彼女は、三河からここまで、武蔵について多くの記録をとっている。実際、武蔵内に格納されて、今ここに表出している記録の大半は、

「私の書いた記録ですよね……」
これは、事が収納まったら自己回収と言っていいんだろうかと、そんなことを思う。

「というか書記のバラやんがそれやってないのは何故かな?」

「それは僕には僕の書くべきものがあるからだよ……! ノンフィクション戦記とか、いいよね……!」

「いいよね、って言ってないで書きなさいよ」
魔女がなかなか厳しい。だが、

「待ってくれ! 僕の紹介が出てないぞ!」


■ネシンバラ・トゥーサン
■呼名:バラやん
■役職など:武蔵生徒会書記
・三征西班牙出身。同人作家だが、かなりミスをやらかし気味。妄想の実力は黒帯特急クラスで、交渉に出すと相手が混乱する。術式で神を顕現することが出来るが、目下の問題はナルゼの漫研に借りてる印刷代の返却。補佐の走狗はミチザネ。


「――ちょっと待ってくれ! もっと長文を! 長文を頼むよ!」
無茶を言う。ともあれこちらはこちらで忙しい。何しろ、

「では、現場の皆が表出記録の中に入ったとき、いろいろ混乱しないように、こっちで各記録の流れを確認しておきます。通神で、あちらから”今はどのあたりか”と問われたときに答えられるように、ですね」

「Jud.、では宜しく御願いいたします。私共もP.A.Oda側から三河のことなどいろいろ情報を得ていましたが、当人からは聞いていません。――知ってみたいものですね」
成程、と己は応じた。自分の娘である豊は、今回の主力の一人として出ているようだ。皆も多くが出て行った。御高説としてはちょっと肩透かしな感があるけど、仕方ない。

「じゃあ、ここにいる人だけで、とりあえず三河争乱について話をしましょうか」

「Jud.、宜しく御願いするで御座ります……!」


■福島・正則
■呼名:フクシマン ノリちゃん
■役職など:近接武術士(侍)
・未来から来た二代の子。加速術式・逆落としを用い、機殻槍・一の谷を手に戦う。元羽柴勢で武蔵勢と敵対していたが、合流後は二代を師のように仰いでいる。しかし二代同様、かなり天然。清正と付き合っているが、仲が進展しない。


「待ってくれ! 福島君の解説が、僕の時と違って即座に出るのはどういうことだい!?」

「そういうところじゃないですかね……!?」
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武蔵野の地下に入ったミトツダイラは、背後に豊と嘉明、脇坂の三人を連れていた。

「引率感ありますわねえ」
とりあえず武蔵に合わせた神道の術者系と機動力のある魔女二人。特に豊は浅間の娘で、現浅間神社代表だ。能力的には浅間と遜色ないと考えていい。
自分も制服に銀鎖のオベリスクを四本装備しての出場だ。
遠く、砲撃音などが聞こえてくるのは、この艦内からだろうか。それとも外からだろうか。

「下、なんですよね……」

「Jud.、それがどうかしましたの?」

「あ、はい。他の艦では表層部にメインが表出しているんですけど、武蔵野と奥多摩は主に地下なのは何故なのかな、って」
と言う言葉の意味は解るが、理由は解らない。推測は幾つも出来るが、

「とりあえず、答えの出る疑問じゃなさそうね」
ナイトとナルゼの子。嘉明はどちらかというと内面でナルゼ似な気がする。脇坂の方はナイト似だ。金髪で巨乳がナルゼ似で、黒髪で薄型がナイト似だから、見事に逆と言うべきか。ちなみに彼女の母達の方も、黒髪のナルゼが白魔女で金髪のナイトが黒魔女で、名前がマルガ・ナルゼとマルゴット・ナイトだからとにかく諸処の混乱を招いた。娘二人がまた逆相なので、いろいろまた混乱を生むことにはなろう。
ともあれ地下を行く。
武蔵野艦首甲板から直下。武蔵野艦首甲板は表層部よりも高い位置にあるのだが、その高度差は降りて通過した。

「ここまでは、大体、倉庫や企業組合のフロアなんだねえ」

「Jud.、外壁側の倉庫は、弾薬庫としても用いる場合があるので、そちらは補強の上、外部パージ出来るようになってますわ」
今の所、副砲群は基部のみ残して解除している。元弾薬庫がそれらのパーツが保管されている場所だ。

「武蔵改の後期バージョンあたりからそのようになりましたけど、でも、中央側の倉庫は浅草や品川からの食糧などを一度受ける場所として使われ続けましたの。
だから一時期は甲板上で弾薬類が並ぶのを見つつ、野菜や魚肉の市場が開かれていたりで、まあ、都市艦としての武蔵らしいですわね」

「割り切ってんなあ……」
まあ、日常を捨てなくてよかった、とは思う。すると正面から戦士団の小隊が来た。

「あ、第五特務! この辺りです!」

「この辺り? 何がですの?」
Jud.、と相手が応じる。彼らは表示枠を開き、艦内インフラの通神から周辺の地域情報を引き出していく。一体何が、と思っていると、

「ちょっと、記録の表出が不定期というか、定まってないんです。そういうものかな、と思うんですが……」

「他の隊が飲み込まれたり、吐き出されたり、結構範囲は広いし、こっちに対してやらかしてくるんですが、こっちからのアプローチをしようとすると選別されるというか」
ああ、と豊が応じた。

「介入条件ありますね、コレ。恐らく、三河争乱の現場にいて、深く関わっている人がいるかどうかとか、そういうのじゃないでしょうか」
成程、と思いつつ、何となく通神で窺ってみる。
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『第一特務? コレ、どのような表出をしてますの?』

『Jud.、大規模なのはもうデカい占有空間使って御座るが、そうでないものは結構混じっている? そんな感じで御座るよ?』

『奥多摩の方だと、アルマダ海戦時の戦士団の記録があちらこちらで再現されてて、御陰で何か指示が入り乱れてる? 軽いパニックになってるらしい。正規の指示と、アルマダ再現の指示が、まあ、型式にあまり変化無いから、通っちゃうんだよな……』

『浅草ではネルトリンゲンの後の戦勝祭の再現もあるらしく、何やらライブが見れるとか見れないとかで戦士団が寧ろ突っ込み気味だそうで御座ってなあ』
何が何やら、という感じだ。

『つまり、入り交じっていろいろな要所が再現されてますのね?』
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嘉明は思った。これは第五特務から離れない方が良いわね、と。

「第五特務がいることが、過去の再現に至る要因だとしたら、あまり三河争乱に近しくない私達は、傍を離れない方がいいわね」

「アンジー達、岐阜城から見てはいたけどねー」

「あら、そんなところからこちらを確認してましたの?」

「いや、まあ、いろいろと」

「ケッコー、アサマホがいっぱいいっぱいでねえ」

「言わない……!」
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浅間は、ホライゾンが右手を挙げたのを見る。何事かと近付けば、

「浅間様、今の豊様達の遣り取りで、――握手を」

「あ、ハイ、何となく解ります」
しっかり握手しておく。

「フフ、まあそうよね。――出来れば愚弟の娘達がいつから私達のこと考えて活動し始めたのか、とか、そういうのも知ってみたいけど、流石に今回は外しね。勿体ないわ」
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ミトツダイラは甲板側、本陣での遣り取りを通神で見て小さく笑った。
やはり親子とは言え、結構長くに渡って敵対関係にあった。それには理由があり、その理由ももう解除されているが、だからこそ子供達にとってはちょっと”やらかした”案件になってもいるのだろう。
そんなこと、もう気にしなくていいのに、とは思うが、

「――やはり、気にしてしまいますの?」
と振り返った背後。そこに嘉明と脇坂がいなかった。豊の姿も消えている。

「え?」
三人がいない。というだけではない。周囲の風景が違う。
温度、湿度、何より違うのは匂いだ。
土。遠く海の潮の匂い。そして僅かに湿った風に、

「西日の空……!」
視界に広がるのは、周囲を高い土手に囲まれた土の広場だ。
ここは何処なのか?
自分には見覚えがある。この場所は、

「三河の、西側広間ですのよ……!?」
やられた。

「――過去の三河にトバされましたの!」
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豊は気付いた。これはマズいですね、と。

「ええと、ここは……?」
皆とはぐれていた。
一人だ。
自分がいる場所は薄暗いホール。どことなく焦げた匂いがするが、これはどうもパンを焼いたような香ばしいものだ。
見ればホールに近い扉が外れて、その周辺に焦げた跡がある。
誰かがこのホールか、もしくは近くで”爆発”に類することを行ったのだろう。
しかしここは、

「教導院の二階ホールですよね……!?」
外。何か大勢が騒いでいる声が聞こえる。
昇降口の大扉は閉じているが、では、あの向こうでは今、何が行われているのか。
そして自分は今、ここでどうすべきか。思案を一瞬巡らせたなり、声が来た。

『――コレ、何時頃だろう!?』
同行していた魔女二人の声が通神から来る。

『三河の陸港に、栄光丸が健在よ!』
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『動かないで下さい!』
浅間は通神に入ってきた魔女勢の声に安堵した。
彼女達の位置が、捕捉できなくなっている。だが声が届くと言うことは、この記録はやはり、武蔵の情報体としてのインフラを乗っ取るような形で”再現”されているのだ。

『豊、設定で術式関係の通神配布が可能か確認して下さい』

『――出来ます! こちらから浅間神社の、現実側にアクセス可能。最新術式などを表示枠に呼び出せます』
反応が早い。この事態を理解したなり、即座に確かめたに違いない。後は、

『しかしコレ、何時ですの? 栄光丸が健在って……』
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「栄光丸が健在と言うことは、私が一度、酒井学長と三河に降りて以降だな」
正純は、当時の記憶を思い出して言う。酒井の付き添いで三河の関所に向かう途中、自分は栄光丸が三河に入ってくるのを見上げたのだ。
そして浅間が作った表示枠に、当時の三河の概要図と、現場の四人がいる暫定座標が表示される。そこに見えるのは、

「ミトが西側広間で、浅間の娘が教導院、ナイトとナルゼの娘達が、浅草か」

『浅草の上空よ。――一応、私達の白姫と黒姫を小型展開してるわ』
じゃあ、と浅間が自分の手元の表示枠を手で撫でる。するとこちらの画面の中、三河の概要図が立体化した。
そして、それを見た世話子が手を挙げる。

「――これが、今回における三河争乱の記録において、リピートに至るとなる時間帯と、そういうことなのですか?」

「残念だが、まだ”何時か”は解っていない。――三河争乱の記録ではあるがな。
――浅間、そのあたりの割り出しはどうする?」

「現場の方で証拠を見つけて割り出して貰うのが一番ですけど、下手に動いて介入すると面倒が生じると思います」

「たとえば?」

「リピートしているとはいえ、介入すれば変化が生じます。ただ――」
ただ、

「私の予測では、リピート原因は記録の歪みや欠損です。何か、記録が途切れていて繋げられない。だからリピートに入る訳です。つまり――」

「――今、現場は、そこに向かって行っている、と?」
その通りだ。ならば、

「僕達は当時を知っている。時間帯さえ割り出せば、どの状況が歪みや欠損を生んでいるか解る筈だ。後は判別次第、そこに人員投入だね」
だが、声が来た。

『アー、御免、アンジー、チョイと馬鹿だから三河争乱、よく解ってないよ?』
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これは多分必要なことだろう、と浅間は表示枠を追加で展開した。
武蔵野全域のインフラ、特にインフォメーションポストとなっている鳥居型掲示板に対し、己はまず文字を作り、言葉を打った。一度手を打ち、

「ちょっと表記のルールを決めましょう。
――過去の記録内にいる場合、記述の先に”○”。
――現実側にいる場合、記述の先に”●”。
そういう区別をつけて、報告が解りやすくなるようにしましょう」

『GT方式ですのね?』
はい、と頷こうとしたときだ。

■GT
Girls Talkの略。武蔵で生じた事件の記録を納品したり、確認する際、関わった女子衆が皆を集めて夜更かししながら語り合い、再編纂を行うこと。しかし編纂中に担当者の私見など入るため、それとなく捏造気味。
現在、三つの記録が納品されている。


「せ、宣伝はいいんですよ別に!
――ともあれ三河争乱について、流れを説明し、確定します。――正純、行けますか?」
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皆が浅間の促しで黙った。遠くから聞こえる騒ぎの声や砲撃音などはあれど、このあたり、為すべき事を為すときに為せるのは自分達の強みだと思う。ゆえに己は為した。

「三河争乱の記録。そのベースとなる概要を確定しよう」
言う。

「三河争乱は主に二つの段階に分かれている。
一つは元信公による三河消失から、ホライゾンが捕らえられるまで。
一つは武蔵アリアダスト教導院を核とする武蔵勢が反乱し、三河を脱出するまで、だ」
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正純は言葉を作る。当時を思い出しながら、

「前提として、末世があり、極東中が怪異の発生頻度を高くしていた。
折しも、人を導く未来の歴史を教える預言書である”聖譜”。その更新がずっと止まったままで、最終記述の一六四八年が世界の終わりと、そう言われていたな」
懐かしい、という声が幾つか生まれる。それもそうだろう。去年はその解決のために奔走し、何もかも過去にしてきたのだ。
これは俯瞰。そう思って、己は言葉を続ける。

「末世については世界各国が研究をしていたが、P.A.Oda、つまり、Tsirhc諸国と敵対していたムラサイと織田の連合国家が、創世計画という末世解決の算段を進めていた」

「……つまり三河争乱の時点では、P.A.Odaは欧州各国よりも頭一つ抜きん出ていた、ということですね」

「Jud.、このP.A.Odaは、旧派であるM.H.R.R.旧派陣営を羽柴によって自勢に引き込み、欧州での存在感を強くしていたからな。この時点で既に九州を先に攻略し、三征西班牙ともM.H.R.R.と付き合いがあるので中立的な付き合いを持っていた。
欧州で明確に逆らえるのは、六護式仏蘭西とK.P.A.Italia、そしてM.H.R.R.改派、といったところだろう。正に欧州は二分されたような状況だった」
だから、と世話子が言葉を作った。

「三河はP.A.Odaと聖連各国の中立地で、ホットスポットでしたね」

「そうだ、ゆえに欧州旧派勢の復権と、旧派代表の威光を示すため、教皇総長が栄光丸で三河に乗り込んできた訳だ。三河周辺は全てムラサイ地域で、三河だけが中立地帯。そこにTsirhc旧派の代表でもある教皇総長が乗り込んでくるのは、かなりの事件なんだ」

「一気に説明が来やがったよ……」
まあそう言うな。ここからが大事なんだ。

「これより以前に、主力国には大罪武装という強力な武装が与えられていた。
教皇総長は、その新型を無心に、元信公とのアクセスを求めて乗り込んで来たんだ」
だが、ここで話が大きく動く。

「大罪武装は、元信公の娘であるホライゾンの感情を元に出来ており、最後の大罪武装は自動人形にされたホライゾンのOSそのものだった。その上で元信公は言ったんだ。大罪武装を全て揃えた者が、末世を左右すると。
――そして元信公は新名古屋城を爆破して三河消失。ホライゾンは教皇総長に捕らえられる」
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懐かしいですね、と世話子は思った。

「三征西班牙の審問艦、その”刑場”に捕らえられたホライゾン様を、元襲名者であった私が御世話することになったのです」

「そう、そこでついた名前が世話子様……!」
ちょっとその通り過ぎませんかね、と思うと、姫が振り向いた。

「その節はどうも。御陰様で今、非常に健康です」
皮肉も嫌味も悪意もないから凄い。
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「なお、審問艦は戦艦ではなく”裁判用の艦”です。艦首側に用意された結界の檻、この内部が審判の力に満たされて行き、それが最高量になったとき、内部にいる者は過去に起こした自分の罪を突きつけられ、基本的に死亡。流体的に分解されます」
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流石はホライゾン、と浅間は思った。ともあれ正純の言がここで切れたように、

「――ホライゾンが捕らえられるまでが、一つの区切りですね」

「しかし何故、元信公は新名古屋城を爆破したのです?」

「あー……、それは後々解るので、今はちょっと」

「あ、すみません……」
いえいえ、と言いつつ、自分は疑問する。コレ、ひょっとして娯楽作品状態になってないですかね……、と。
でも同時に思い出すのは、やはり当時のことだ。
彼がホライゾンを救いに行こうとして失敗して、自分はその晩、いろいろな対処に追われた。翌朝に入った浅間神社の泉が温水だったので寝落ちしたとか、そういう要らん情報もあるが、

「私達武蔵勢は、ホライゾンを救いに行くかどうかで議論して、その利点はあると判断しました。鈴さんが、迷っていた私達の背を押すような言葉を言ってくれて、尚更でしたね」

「あれは、まあ、うん……。あ、三要先生の説得もあったからね?」

「吊るされるようなことはするな、は、まあ確かにそうだね。憶えているとも」
そして開催されたのが、臨時生徒総会だ。

「ホライゾンを救いに行くか、行かないか。私達だけではなく、武蔵の総意を確かめるために行われた臨時生徒総会で、私達は身内の相対をします。
反対派の直政と、賛成派のシロジロ君が武神対商人という相対で、シロジロ君の勝ち。
反対派のミトと、賛成派の鈴さんが相対して、騎士のミトが市民の鈴さんを救う形でミトの勝ち。反対派と賛成派が並んだ時点で、反対派の正純と賛成派のトーリ君が相対したんですが……」

「まさか馬鹿が寝返って、こっちが賛成派にされるとは思わなかった」
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だがまあ大事なことだった。正純はそう思う。

「私もホライゾンを救いに行くことには賛成だった。だが、立場が有ってな。それが馬鹿の手筈で逆になったので、好き勝手言わせて貰ったら、教皇総長が会議に乗り込んで来て、まあ、馬鹿の援護もありつつ、何とか凌ぎ掛けた訳だ」
実際、ほとんど負けだったなあ、と思えるのは今だからだ。だがそれを”凌いだ”のを、やはり教皇総長は見逃さなかった。
当時、聖連側に付いていた極東戦士団。その代表である本多・二代を、敵として送ってきたのだ。

「まあ、拙者も、喜美殿に見事に退けられてしまったので御座るが」

「あれは喜美がいなかったらマズかったですね……」

「フフ、あれから随分変わったけど、どう? もう一回やってみる?」

「否。――喜美殿とはまた違う形で御願いしたいで御座る。同じやり方では、単に”上に行く”だけで御座るから」
そういうもんか、と思うが、馬鹿姉の方は小さく笑っただけだ。規格外の連中が何を考えているかはよく解らん。

「ともあれこちらが聖連の刺客であった二代を退けたことで、教皇総長を代表とする聖連諸国、つまり欧州勢とは敵対が決定。全ての判断は、各国が集まる公会議であるヴェストファーレン会議に預けることとなった訳だ」
そして、

「私達はヴェストファーレン会議までに、大罪武装を回収。各国の支持を取り付けることを目標とした。
一方の教皇総長達は、まず三河でホライゾンを処刑して、彼女のOSである最後の大罪武装を奪取しようとする。私達はそれを止めに行き、完遂。――三河を脱出する訳だな」

「あれ? ちょっと終わりの方、省略しすぎじゃね? 俺、ホライゾンを救うときとか、もっと活躍してるんだけど?」

「概要だよ概要」

「付け加える情報としては、各国に預けられた大罪武装の内、私が持っていた”悲嘆の怠惰”を、副長に敗北して返還されたことでしょうね。大罪武装の回収が始まった訳です」

「あ、あとトーリ君が、皆に広域援護をするためのチート級流体供給術式を使用するんですが、この使用には”哀しくなったら死ぬ”という制約が掛かります。これ、後にいろいろあるので憶えておいて下さい」

「フフ、いろいろあったわねえ。流石は”始まり”そういうことね」
そう。これが全ての始まりだ。
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いろいろありましたね、と浅間が思っていると、近くに浮いていたハナミが一つの表示枠を示した。それは各艦の流体経路の流れを示すもので、

……流体燃料の消費が、少なくなっている……?
どういうことかと思ったなり、自分は可能性に気付いた。

「リピートが近いです! 急いで”歪み”を割り出さないと、リピートして最初からになります!」
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ミトツダイラは、周囲を見渡した。ここは西側広間で、しかし無人だ。だとすれば、

「――私達がホライゾンを救いに行こうとした。少なくとも我が王達が戦士団を連れてここに来るより前ですわ!」
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誾は宗茂と視線を合わせた。彼が頷き、促しを作るのを是として、言葉を送る。

「陸港に審問艦がありますか? あるとした場合、刑場の状況を教えて下さい。刑場を包む光の壁の発光状態から、時間が割り出せると思います」
声は届いた筈だ。だが、

『浮上しないと見えないわ。――しても大丈夫?』

『駄目よ。――浮上すれば三征西班牙の戦艦に捕捉されるわ。最悪、向こうの砲撃が始まったり、武神が飛んでくる可能性があるわよ』

『ウヒョー、派手な時間帯! でも、ええと、アレだ。一応周囲確認してるけど、武蔵の周囲? 陸港も含めて無事だよ?』

『北壁が無事だとすれば向こうからの砲撃が始まってない時間帯ですね。――以上』
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成程、と浅間はタイムラインを文字に起こす。先ほどまで説明し合ったことは、

「文字情報の形で確定して、流体経路に”情報”として流します。これは補正時の補強材になるものですが、……今、どのあたりだと思います?」
◆三河争乱------------------------
・末世が問題となる。
:各国が主導権を窺う中、P.A.Odaが力を付ける。
:P.A.Odaは創世計画を掲げている。
・聖連代表として教皇総長が三河に来る。
:新型大罪武装の無心。
・元信公が煽って三河消失。
:大罪武装を集めると末世を左右できる。
・ホライゾンが捕らえられる。
:ホライゾンが最後の大罪武装である。

「ホライゾン、ちょっと格好良い役ですねえ」

「いやあ、いきなりでしたねえ……。あ、続きがあります、コレ」
・ホライゾンを救いに行くと武蔵勢が決める。
:教室会議と鈴さん、三要先生の説得。
・臨時生徒総会での相対。
:●反対派の直政 対 ○賛成派のシロジロ
:○反対派のミト 対 ●賛成派の鈴
・トーリ君と正純の相対が変な方向へ……。
:教皇総長の乗り込み。
:●教皇側の二代 対 ○武蔵側の喜美
・ホライゾンを救出に行く。
・制空権の獲得。
:○ナイト、ナルゼ 対 ●武神
・西側広間の吶喊。
:○ミト、直政 対 ●敵戦士団
・陸港の吶喊。
:○ノリキ 対 ●ガリレオ
:トーリ君の供給術式(悲しむと死んでしまう)
・大罪武装”悲嘆の怠惰”の獲得。
:○二代 対 ●宗茂
・ホライゾンの救出。
:平行線問答からのエロ不注意。
:審問艦の見せる過去の罪を払拭。
・三河を脱出する。
:●栄光丸 対 ○武蔵、ホライゾン
-------------------------------

「結構ありますね!」

「ってかアサマチ? 制空権の獲得で、
:○浅間 対 ●三征西班牙戦艦
って書かないとダメだと思うなあ」

「あれは前哨戦! そういう感じで……! というか現場の方、このあたりで思い付くものってありますか?」
問う。するとややあってから、声が来た。

『ネ母さん、こっち、教導院まで、あと三分くらいで来れますか?』

『こっち、西側広間ですのよ? 流石にそれは無理ですわ?』
じゃあ、と豊の声が聞こえた。

『――リピートまでに間に合えて、行けそうなのは私ですね。リピート箇所が解ったので出ます! 母さん、浅間神社から、私宛てに装備を射出して下さい!』
○

「――拙者の相手は、誰で御座るか!?」
鋭い声が響いたのは教導院の正面。二階からの入り口につながる橋上だった。
三河の全てを決める相対の中、教皇総長に派遣された極東戦士団の長、本多・二代が、蜻蛉切を持って武蔵勢に相対を望む。
対する皆は、橋の下でスクラムを組んで議論した。

「んー、あたしが地摺朱雀を空から落として不意打ちズドンってのはどうかねえ」

「それより、私が弓矢の遠距離射撃でズドンっていうのは」

「……何でこの女衆は全員ズドン系で御座るか?」
などなど、いろいろと言い合っている中で、不意に顔を上げた声が生まれた。だが、

「――――」
その声が、誰のものか、解らない。
あれ? と疑問の言葉を作ったのは、アデーレだった。

「今、ここに、……いない人、いますよね?」
そうだ。浅間が顔を上げ、直政が続き、そしてトーリが、

「あれ? 姉ちゃんが――」
と、姉の不在を疑問に思う。その瞬間だった。

「――ええ、喜美様はちょっと忙しいので、代理として来ました」
一人の少女が、昇降口一階の大扉を開けて出て来た。
巫女だ。

「……うちの正式装備?」
浅間の問いかけに、彼女は微笑する。

「大丈夫です。――そのあたりで茶でも飲んでて下さい。そして――」
彼女が、トーリと浅間に視線を向けた。口で何かを言いかけ、やめて、改めて言葉を作る。

「私が、あまりにも駄目な皆さんを救けてあげます」
○
父がいる。母もいる。皆がいる。
”そこ”に自分がいる。いないはずの自分が、だ。
豊は、この過去を偽物だと思いながら、一つの満足を感じていた。
橋上に至る階段を上がっていく。すると父と、副会長と擦れ違うが、

「――姉ちゃんの代理かよ? でも、姉ちゃんが推すなら出来るんだろ?」

「はい。――もう、親しいですから」
そうだ。喜美は自分の叔母にあたる。オバさん呼びも許可出ているのだ。だから、

「――任せて下さい」
言えて良かった。
かつて自分達は、羽柴勢として、父や母達と戦う仲だったのだ。
訳ありだったとしても、過去は変わらない。
ただこれは、自分達にとって、”変わる”ものだ。あの頃の己がどうであったか。今ならば素直に思い出し、言うことも出来る。そうしたい。もはや己の足は止まらず、橋上に至り、

「――貴殿が相手で御座るか?」

「はい。葵・喜美代行――」
名乗った。目の前の相手は、この後で武蔵勢となる存在だ。ならば今、自分は敵として、

「――長泰、と申します」
古い名前。平野・長泰。羽柴勢時代の襲名だ。もはや公的な諸事でなければ名乗ることが無い襲名かと思っていたが、ここで使うこととなるとは。
直後、己の背後に風を切ってそれが落下した。
激音と震動、そのままに展開する柱状のフレームは鳥居マークの付いたものだ。その内部、駆動音と共に姿を見せるものを、己は抜き取った。それは二つの刃とパワーアームであり、

「浅間神社、対怪異近接装備”二重桜”。
――結構、半端ないですよ?」



