第七章 『敗戦地の記憶者達』
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奥多摩解放の報せは、各所に届いた。
次の攻略は、品川にてマクデブルクの掠奪。その筈だった。だが、

「……過去の再現は行われているけど、今回は幾つものものが各所に散っている?」

『Jud.、基本としてマクデブルクだが、IZUMO上とか、三方ヶ原の戦いなども表出しているらしい。――だが、そのくらいの散り方は今まであったもので、今回のコレが問題なのは、”主”が何なのか、判別できないということだ』
言う義康は、当時、この流れの中で仲間となった里見教導院の総長兼生徒会長だ。


■里見・義康
■呼名:ヨッシー
■役職など:里見総長 重騎士
・一時期は羽柴勢に支配された里見を奪還した里見代表。二年生で、どちらかというと武闘派だが、人を頼ることを理解しているので無理は無い。最上・義光の養子となる予定で、里見と奥州の経済圏を想起しつつ、武神・八房を扱って武蔵の守護を担う。

里見・義康。
彼女が今、品川の調査に赴き、しかし過去に飲まれていないということに己は吐息した。

「……副会長? 何か、それでいいと、そんな事が?」
気付かれたか。肩のツキノワが振り返って頷くのは、彼女の言う通りだと思う。
今、品川では何人かの役職者や実力者が立ち替わりで”当たり”を探している。が、その間に、こちらは説明を進めておこう。
己は世話子に、義康のモニタリングを続けている表示枠を見せた。
画面に見える違和感に気付いたらしい。

「里見教導院は武神の有名処でな。義康は、総長とその機体が認めた者のみが登場できる”八房”に乗っている。
――これはそこからの映像だ」
武神。人型の巨大機械。多用途ではあるが、現在においては武装であることが多く、力のある機体は単騎で航空戦艦を落とす。
品川は輸送艦で、地下には広大な空間がある。無論、大型木箱を通すためのガイドレールなどが張られているが、武神が移動出来るくらいのスペースや通路はある。彼女は今、そこを移動しながら”八房”の流体検知で記録の表出を探っているのだが、

「……彼女があの当時の記録の表出に選ばれないならば、幸いだ」

「どういうことなのです?」

「ああ、私達を送り出した者は、私達を正しく見ていたと、そういうことなのだ」
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「ハイ! そう言うわけで本日のスーパー解説タイムの始まりィー!」

「い、意地でも湿った展開にしないつもりですねホライゾン!」

「当然ですとも浅間様、周囲を見て下さい」
言われ、浅間は武蔵野艦首甲板を見回した。
夕刻の空の下。そこで祭が始まりつつあった。
甲板は屋台で囲まれ、櫓もある。どうも喜美がライティングの指示など出しているあたり、ステージとなるのだろう。しかし、

「ええと、これは……」

「過去を”送る”んだとさ。まあ、騒ぎたい本心の言い訳かもしれないけど、確かに過去のいろいろには、思い出す美化もあれば、面倒な記憶もあるだろうさ。
だから、”送る”。祭はそういうものだろう? アサマチ」

「まあ、確かに、そうですね……」
表示枠で確認すると、祭の担当主社は浅間神社で、担当は父だった。
こっちに知らせてこないのは、父なりの気遣いだろう。つまり、

「……当時いろいろなことがあったけど、私達で抱え込まず、”神社”に任せておけと、そういうことですかね……」
だとすればこちらは、やるべき事がある。世話子に対し、既に何か講義のようなことを始めた正純に向け、足を進め、

「――あ、過去の流れの確認ですね。こっちも加わらせて下さい!」
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正純は、席に着いている世話子を前に、ちょっとした既視感を得た。
バイトで小等部の講師をやっている。そのときの感覚を思い出したのだ。

……子供扱いしたら嫌な顔されるだろうなあ。
思いつつ、前提として問うておく。

「貴方の所属する三征西班牙は西の大国だ。だがここから先の話は、関西から関東へと飛ぶ。……そのあたり、私達についての情報はどれだけ持っていた?」

「歴史再現として、同盟している三征葡萄牙が、中国方面まで武装商船団を送っています。なので、そちら経由では」

「だとしたら沿岸の港周辺に情報が限定されますわ。三方ヶ原の推移くらいは解ってると、そう思っていいんじゃありませんの?」
人狼女王の言葉が抜け目ない。彼女の言うとおりだとすれば、こちらがこれから教えるのは、ちょっとした貸しになる。そのつもりで己は言葉を作った。

「当時の流れだが、――まず、アルマダ海戦を終えた武蔵は、補修を必要とした。
よって英国の対岸、六護式仏蘭西の北部沿岸に浮上島として浮かぶIZUMOに寄港したんだ」
IZUMOは、極東における神道のベースであり、最大の企業組合だ。何処の国にも荷担しない中立ゆえ、各国の航空艦の建造や、神道を介した術式、装備などの販売を扱うし、

「神道の通神、流体経路などのインフラも、IZUMO管理によるものです。武蔵も、建造は三河でしたが、その設計にはIZUMOが大きく関わっていて、武蔵専用のドックがあります」

「武蔵がアルマダ海戦を”出来る”と判断したのは、疲弊してもIZUMOが近いと、そういう判断もあったのでしょうね」
その通りだ。ゆえに応急処置と廃材を確定してからIZUMOへと着港、補修に入った。

「それでまあ、久し振りに緩い時間を過ごしていたら、関東方面の代表者達がやってきてな。英国代表も含めて今後の会議となった」

「その議題は?」

「武蔵の関東招聘だ。――武蔵は松平家の所有。つまり羽柴の後に極東を支配する存在だ。ゆえに関東側としては、武蔵に関東での地位を固めて、自分達の存在を確定して欲しいという欲求があった。何故なら、聖連に所属する国は欧州中心で、アジア方面、つまり関東やその北にある国々は、外様扱いだったからだ」
それに、と己は言葉を付け加えた。

「羽柴の歴史再現で、慶長・文禄の役がある。これは神州世界対応論でいえば、関東、里見の周囲が羽柴によって一時期なりに支配されるということだ。
羽柴に正面から対抗できるのは、松平である武蔵。それもアルマダ海戦で勝利したならば頼れると、そうなった訳だな」
だが、と自分は言葉を継いだ。

「世界はなかなか見逃してくれない。補修途中ではあったが、六護式仏蘭西とM.H.R.R.旧派がIZUMOを包囲してきた」
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あの時の戦闘は、両親が六護式仏蘭西出身のアデーレにとって、複雑なものだった。

「六護式仏蘭西の総長、ルイ・エクシヴは大罪武装”傲慢の光臨”の所有者。生徒会長の毛利・輝元は大罪武装”虚栄の光臨”の所有者。
二人とも聖譜顕装まで持っているので、やたら面倒な戦闘でしたねー……」
世話子が頷いているあたり、憶えがあるのだろう。よく考えたら三征西班牙と六護式仏蘭西はこの時期によく小競り合いをしているのだ。
だがまあ、そんな世話子でも、当時、知らないであろう脅威がここで出現した。

「実はIZUMO戦。そこで、これまで秘匿されていた六護式仏蘭西の副長が出て来たんですよ。名称テュレンヌ公を襲名したのは――」

「――私ですの」
そうだ。ミトツダイラの母親にして人狼女王。規格外の存在で、

「私のこと、コテンパンにして、IZUMOを半壊させた上で、我が王を攫って逃げましたわね?」

「まあ、攫うとは人聞き悪いですわね。テイスティングのつもりでしたのよ?」
尚更タチが悪い気がするんですが、ええ。
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「……総長が誘拐されたとして、そこから、どのように? あ、武蔵が脱出出来たのは知っていますが」
Jud.、と正純は頷いた。

「六護式仏蘭西とM.H.R.R.旧派の包囲を解いたのは、M.H.R.R.改派の艦隊だった。
宗教改革によって生じた旧派と改派の衝突は、当時、欧州全土を巻き込む三十年戦争となっていたからな。旧派は、不用意な戦闘を避けるため、改派が私達を救出するのを見送った。
改派は私達に、これから起きる三十年戦争有数の激戦となった”マクデブルクの掠奪”に対し、市民の避難を要請しに来たんだ」

「一方で、誘拐された我が王の追跡として、私とメアリ、マルゴット、そして第一特務の四人が編成され、御母様を追いましたの」
と、そこで声が加わった。奥多摩解放を行いつつ、何か暇な時間を過ごしたナイトとナルゼが戻ってきたのだ。

「懐かしいねえ。あの頃のミトっつぁんは、仏蘭西気質が強くて、英国出身のメーやんと距離とってたんだけど、追跡中の戦闘とか経て、仲良くなったんだよね」

「そんなあからさまに距離とってました?」

「どうでしょう。ただ、ミトツダイラ様の御母様の話などを伺って盛り上がって、良い時間を過ごしたのは確かですね」

「まあ、私の話ですの!?」

「俺、攫われて何かされると思ったら、餌付けの上でママンから旦那との恋愛トークとかずっと聞かされてたなあ……」

「? どのような話を?」

「――合体ですわ」

「ドヤって言うことじゃありませんのよ……!?」
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やはりこういうトークは盛り上がるんだろうなあ、というのが、夕刻となった空を見上げての正純の感想だ。
だが話は進めなければならない。記録を取っている浅間が、視線で促すのを会釈で返し、

「マクデブルクについた私達は、住民を退避する準備を進めつつ、当地にいる重要人物と会った。六護式仏蘭西前総長のアンヌだ。――つまりマクデブルクで、欧州の要人が揃い、武蔵をどう使えるかという会議を行う。そんな算段だったのだな」

「……どのような人達が?」
ああ、これは知らないことか。ならば、まあ、今なら言ってもいいだろう。

「織田家によってP.A.Odaを追い出された大総長スレイマン。織田の代表として首を突っ込んでおきつつ、謀反の歴史再現がある松永・久秀。そしてアンヌと、改派の代表であるルターを二重襲名した巴御前だ」
彼女達は、安易に武蔵を味方として考えなかった。

「当時、やはり羽柴がM.H.R.R.旧派と組み、欧州の脅威となっていた。何故なら歴史再現として見た場合、三十年戦争で敗戦国となるM.H.R.R.旧派は、羽柴側の歴史再現を使えば、欧州どころか全国を支配出来るからだ。
――よって三十年戦争でM.H.R.R.旧派と敵対する改派、六護式仏蘭西は、私達に羽柴の抑制を依頼した。それによって、ヴェストファーレン会議での武蔵の立場を考える、と」
だが、

「武蔵はまだ力が無い。ゆえに関東に行き、味方を増やす。そういう結論だ」

「……だとすると、ここで武蔵の方針が決まったのですね?」

「そうだ。だがそこに、M.H.R.R.旧派が”マクデブルクの掠奪”として乗り込んで来た。羽柴を通してP.A.Odaの主力を組み込んだ混成戦士団だ」
この時期、羽柴は大規模な攻勢を各所で進めている。

「大事件となったのは、M.H.R.R。旧派が、やはりP.A.Odaと組んで行ったK.P.A.Italia侵攻です。まさか安芸が落ち、教皇総長が行方不明となるとは」

「あのオッサン、後で良いところになって出てくるんだよなあ……」

「トーリ君、ネタバレですよ……!」
まあ、皆、知っていることだろう。

「というかホント、大規模な三正面作戦だよね。K.P.A.Italiaとマクデブルクに関東も、だ。上り調子の大勢力は半端ないというか……」

「Jud.、マクデブルクに来たのは柴田・勝家、前田・利家、佐々・成政の三人。
彼らと麾下らの攻撃によって水没と破壊をされるマクデブルクから、私達は脱出した訳だ」

「ちなみにここ、後にルドルフ二世の弟で、M.H.R.R.皇帝となるマティアスの持つ大罪武装”飽食の一撃”によって拙者の蜻蛉切が破壊されて御座る」
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「――でも、その前に、ちょっとこっちの仕事がありましたわね」
人狼女王は、娘がちょっとぎこちない雰囲気を漂わせているのを見る。
自分の娘にとって、当時の流れは非常に大きな意味を持っているのだ。

「私は、武蔵の総長を連れ去った後、輝元から指示を受けてましたの。それは、六護式仏蘭西が武蔵と友好関係を結んだので武蔵の総長を食うな、ってことと――」
言う。

「当時、M.H.R.R.旧派の総長は”狂人”ルドルフ二世。独自の考え方を持っていて、M.H.R.R.旧派が三十年戦争に向かう場合、彼を始末する可能性がありましたわ。
だから私達は、先に彼に会う必要がありましたの」

「? ……どうして敵の代表ともいえるルドルフ二世に?」
あ、と武蔵の副会長が手を挙げた。

「当時、私達の周辺には一つの怪異が生じていた。公主隠しという、人が消える怪異だ。だがその犠牲者が、どうも創世計画に関与していた可能性が高い。
そしてやはり公主隠しで消された皇帝カルロス一世が残したメッセージを、ルドルフ二世が所持していると、そんな話だったんだ」

「武蔵はマクデブルクで、六護式仏蘭西前総長アンヌの願いを聞く。その引き替えに、私がルドルフ二世の処まで、うちの子達を案内したんですのね」

「結果として、私ケッコー鍛えられた上で、そのメッセージというか、暗号を手に入れましたのよね」
そう。そうだ。そしてマクデブルクへと急ぐ途中、自分と娘は、一つの決着を得た。

「――うちの子が、私と同等に戦えなければ、うちの子の王は私達六護式仏蘭西に勝てない事になりますの」

「故に御母様と手合わせして、……とりあえず、勝ちましたわ」

「御友人にかなり頼りましたけどねえ」

「か、勝ちは勝ちですのよ!?」
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世話子は、ふと一息をついた。
ここまでの流れ、政治的なものや、位置的、移動関連は知っている部分が多い。だが、

「……人の繋がりは、解っていませんでしたね」

「まあ、そうだろうな。そこからは本当に、人の繋がりだ」
武蔵の副会長が、静かに告げる。

「マクデブルクに対し、M.H.R.R.旧派は可能な限りの戦力と武装を投入した。
決め手となったのは、三河が消失する原因となった地脈炉暴走。それを爆弾化した竜脈炉だ。しかしそれは、アンヌが最期に無効化してくれてな。その間隙を突いて、武蔵は関東へと向かった」
知っている。そこからが、武蔵にとって大きな意味を持つのだ。

「――敗戦ですね」
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ああ、と応じるしかない。
マクデブルクでは、改派の敗北だった。だが、そこから関東に向かう流れを、追いすがる前田・利家によって三方原の戦いと定義されてしまった。

「松平家にとって、延々と悪夢のように語り継がれる大敗戦。三方原の戦い。
追撃を受ける武蔵を救ったのは、アンヌであり、――謀反の歴史再現をそこで行った松永公でもあった」
彼が武蔵に告げた情報は、今でも憶えている。

「終わらせて、終わらせない。――松永公が、創世計画として教えてくれた言葉だ」
そして関東に入ったとき、ある事が起きた。

「既に羽柴は関東にまで手を伸ばしていた。武蔵に先行して関東に入った武蔵二番艦、P.A.Odaの旗艦”安土”が、武蔵の本拠となるべき江戸や、里見を竜脈路で破壊したんだ」
帰る場所や、いるべき場所を失った。
自分達はただ羽柴勢から逃げるように北上するしかなく、

……ああ、そうだな。
ここで話が戻る。
里見教導院の総長、里見・義康の事だ。
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自分は、義康の表示枠を見て、言葉を作った。

「……三方原の戦いにおいて、里見は前総長を失い、義康が後を継いでいる。
当時は、まだ羽柴勢が未来から来た子供世代だということが解らず、敵対状態。武蔵を沈め、此方を止めようとしていた羽柴勢に対し、前里見総長、里見・義頼が立ち向かい、彼らを止めた一方で、命を落としている」
これらのわだかまりについては、後を継いだ義康が里見の代表として内外に認められたことと、羽柴勢の合流後にお互いが助け合う関係となり、解かれてはいる。
寧ろ、前総長、義頼がその後を作ったことで、今があるのだ、と。
だが、彼の突撃が、ここで義康を過去に呼ばない。それは、

「……当時の私達が今に至る道をちゃんと進んでいて、アンヌも、義頼も、それを押してくれたと、そういうことなのだろう」
と、そこで声が聞こえた。

『――それでいい。まあ、こんな風に、過去の入り口を探していていうのも何だが』
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義康は、現状を認めている。

「……そうだとも」
正直、前総長の義頼とは、上手くいっていなかった部分も有るし、彼の真意を知らず、随分と傷つけていただろうとも思う。
しかし、彼や、更に前の総長である姉から受け継いだこの”八房”。里見総長しか認めないという機体に搭乗すると、よく解る。
姉も、義頼も、間違っていなかったのだ。
こちらを信頼し、力を預けてくれたし、待ってくれた。そのことが解るのだ。ならば、

「義頼は、武蔵勢を”変えられる”から付き合ったのではない。武蔵勢が、自分が行けなかった道を進んでいるのを見て、それを守り、押したのだ。
――義頼は武蔵のターニングポイントではないし、それを望んでもいないだろう」
だから、

「――出来れば、義頼を、私と同じように、ずっと同じ方向を見て歩んできた仲間だと思ってくれ。それが、最後の最後でその本心を見せた義頼の喜ぶことだ」
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「…………」

「ホライゾン、ぶっちゃけ”本日のスーパー解説タイムの始まりィー!”とかやっておいてこの流れなので、チョイとビビっております」

「途中、カレーぶちまけて前田・利家の幽霊艦隊を浄化してたりと、やりたい放題なんですけどねえ……」

「言葉だけだと何言ってるか解りませんわねえ……」

「いや、あー、悪い。祭の中だってのにな」

『こっちもすまんすまん。――まあ、正直なところ、義頼の一件は私にとってはターニングポイントだろうが、武蔵にとっては違う案件だと思う。私の方、大体見て回ったが、別の人員での調査をした方がいいぞ?』
成程、と皆が頷く。その中で正純が二代と派遣の手配を進め、浅間が表示枠を開いた。

「あ、そういえば忘れてましたが、武蔵はそのまま北上して、関東IZUMOとして作られた大規模浮上ドック”有明”に合流しています」

「あれ、危なかったね……」

「そうですね。私達にとって、一番危険な時間帯だったと思います。
……でも、だからこそ、じゃあどこがターニングポイントだったのか、ということですね。ちょっと見てみましょうか」
◆マクデブルクの掠奪―三方ヶ原の戦い-------------
・アルマダ海戦を終えた武蔵はIZUMOで補修に入る。
・関東の代表者達がやってきて、武蔵を関東に呼ぶ。
・武蔵を六護式仏蘭西とM.H.R.R.旧派が包囲する。
:戦闘で六護式仏蘭西の大罪武装が出る。
・ミトのお母さん(人狼女王)によってトーリ君が誘拐される。
:ミト、ナイト、メアリ、点蔵君が追跡。

「ここから先、私達の動きと武蔵の方を一緒に書くと混乱しますわよ?」

「ええと、じゃあ分けることにします……!」
★武蔵側
・M.H.R.R.改派によって武蔵はマクデブルクへと誘導。
・”マクデブルクの掠奪”に対し、武蔵は住人を避難させる。
・マクデブルクで機密会議。
:スレイマン、松永、アンヌ、ルター(巴御前)と会議。
:羽柴の抑制を、ヴェストファーレン会議の支持と引き替える。
・マクデブルクの掠奪開始。
:皆を守ったアンヌの最期。
☆追跡側
・六護式仏蘭西の方針変更で、ミトのお母さん(人狼女王)と合流。
・合体話を聞く。
:合体期間は二十四日。
・ルドルフ二世の塔へ。
:ミトの覚醒回。
:創世計画に関係している? カルロス一世のメモ。
・ミトと、ミトのお母さん(人狼女王)の決着。

「何か私の普段の呼び方ベースなのでちょっと恥ずかしいですけど……」

「いえ、何か新鮮でいいですわよ?」

「授業参観気分ですけど、二十四日の情報は必要ですの?」
△合流後
・マクデブルク脱出。関東へ。
:松永公達の歴史再現や助力によって関東へ。
・羽柴によって関東破壊。
・里見・義頼の突撃で羽柴が侵攻ストップ。
・武蔵は有明に保護される。

「……と、こんなところだと思います」

「では、この中で、武蔵のターニングポイントという、リピートの起点になりそうな箇所というのは、何処ですの?」
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正純は、何となくルールに気付いていた。

……つまりこれは”武蔵の記録”ということだ。
世界の、公平かつ均等な記録ではない。武蔵中心の内容といえる。
そして基本的に、記録の多くは浅間が付けている。だから、意外に感情的な部分の記述も多い。というか皆の言行なども入れているので当たり前か。

「――定義としてみると、リピート解除の条件は”人の行いが通ること”だ。誰かが何かを為した、ということ。人が条件であって、機械の動作結果や、事故は換算されない」

「……じゃあ、人の”失敗”は条件にならない、と?」

「”失敗する”が条件の場合は通ると思う。例えば三河の臨時生徒総会で、向井がお前相手にわざと負けようとしたが、そういう行為は有りうる」
そして、と己は言った。

「記録は主に浅間が付けていたから、私達についての記述が基本だ。だから基本、私達の行いの中で、ターニングポイントとして強烈だったものが、強いがゆえに損壊する」

「強すぎて、そこに負荷が掛かりすぎるという、そんな解釈さね?」

「まあ、私は流体関係の専門じゃないので、今の内はそれでいいだろう。浅間なんかにはちょっとそこらへん精査頼む」
と、そこで手というか、扇子が上がった。保護者枠の最上・義光だ。

「――だとすれば、少々、別の可能性も有り得るのう。そうだえ?」

「Jud.、基本的に、ターニングポイントが強烈だから損壊した。だが、そうではない場合があったとしたら?」
問いかけてみる。するとすぐに答えが来た。

「……ターニングポイントとして、弱いから欠損した?」

「ターニングポイントとして”弱い”って、あるの?」

「記述だったら、有り得るんじゃないかな?」

「聞こう」
Jud.、とネシンバラが頷き、ポーズをとった。彼は無意味に表示枠の鍵盤を叩き、

「ターニングポイントは、基本的に強弱がない。変化が”有る・無し”の区別しかないからだね。だけどそれに強弱を与えるとしたら、二つの要因がある」
長いな……、とは思った。皆が目配せを始めるが、促した分、聞くしかない。

「手短に」

「おっと、すまないね。じゃあ簡単に言おう。つまり二つの要因とは、要するにまとめるとこういうことだ」
1:ターニングポイントに至る過程が凄まじいこと。
2:記録の性質上、記述の”濃い・薄い”が発生すること。

「どうだ! 解るかい?」

「……珍しくストレートにまとめてきたな……」

「”つまり要するにまとめると”って何言ってるか解らない割にストレートね」

「オイイイイ! もうちょっとホメたらどうだ!」
前科がありすぎるからな……、とは思う。ただ、ネシンバラの言った事は、自分としても同じ考えだ。

「基本、今までの二回、三河と英国は1だった。今回、それを想定して過去にアクセスする調査を行っているが、実際は2で、記録の”薄い”箇所があるんじゃないか?」

「…………」

「……私、何となく、何処がというか、誰が記述薄いか、解った気がしますの」

「まあネイト! 優秀ですわね! 誰の記述が薄いんですの?」

「――御母様か、御母様周りですわよ……! キャラとして立ちすぎてるから記述濃いようでいて、御母様、智の直接記述下にいませんでしたもの!」
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人狼女王は、んー、と考えた。自分がターニングポイントとして考えた場合、さて、どのような可能性が有るだろうか。

「IZUMOで、武蔵総長をチョバって下に飛び降りたあたりですの?」

「アレは一貫した流れと結果みたいなものだから、そこにターニングポイントとしての”決定感”は少なくないかな?」

「その場合、どちらかというと、貴女がIZUMOに行こうと決心した。その時こそがターニングポイントになる気がする」
んー。

「私がIZUMOに行ったのは、ちょっと恥ずかしい過保護な話ですけど、うちの子が駄目な未来へ行くんじゃないかと、手を引かせる意味がありましたから……、IZUMOに行こうという決心は、ある意味当然の流れですわね……」

「過保護というより親バカよのう」

「最上総長? 今は自己紹介の時間じゃありませんのよ?」

「でも御母様? だとしたら、御母様が私を止めようと思ったと……、そんなあたりまで遡りますの?」

「どうでしょうね? そういう考えになったのは私が副長になろうとした事と不可分ですし、そうなるとアンヌとの付き合いなどもあると思いますけど、……そこまで行くと、武蔵の記録としてはかなり外れますわね」
ただ、言っていて、何となく”当たり”を感じるものがあった。

「東照宮代表? ちょっと質問いいですの?」

「あ、はい、何でしょう?」

「記録として考えた場合、過去のいきさつなども必要ならば書くと思うのですけど、どのくらい昔まで”有り”だと思います?」

「いきなり難度高い質問ですが、……それが事案時の判断に密接に関わっているなら、”有り”じゃないかな、と思いますね……」
じゃあ決まりだ。
見れば、向こう、祭の櫓の近くにいた人影が一つ、いなくなっている。
きっと彼女も、何の過去が明確になっていないか、気付いたのだ。それは、

「私がネイトを武蔵に預けて大丈夫と思った理由、解りますの?」
当時の自分の行動理由の基礎。そして、自分の娘が、武蔵に在留し、関わっていくもの。

「――”王様”の話ですわ」



