1.呪いの言葉と青い塔 ⑥

 髪や瞳のせいか、透き通る夜を思わせる美貌の少女は、そうしているとまるでずっと昔からオスカーの傍にいたかのようによく似合う。ラザルは絵になる一対にぼうっとれた。オスカーがそんな幼馴染に不思議そうな顔をする。


「どうした、帰りたいんじゃなかったのか」

「あ、そ、そうでした……すみません」


 ラザルは急いで馬に乗る。辺りの日はすっかり落ちて、夜が足早に訪れようとしていた。ティナーシャが手を一振りすると、馬の鼻先より少し前方に小さな光が浮かび上がる。みちゆきを照らす明かりにオスカーが感嘆の声を上げた。


「魔法か。便利だな」

「これくらいならいつでも。何かを焼き尽くしたいのなら要相談で」

「不要だ。お前は俺の傍にいればいい」


 さらりと返すオスカーを、少女は呆れたように見上げる。だが彼女はすぐに目を閉じて微笑んだ。

 そんな二人を見ていたラザルは、不意にかすかな予感を覚える。

 ここから先、何かが濁流のように変わっていってしまうような、そんな予感を。


「行くぞ、ラザル」


 少女を乗せて主君の馬は走り出す。ラザルは自分も手綱を取りながら、ふと塔の方を振り返った。

 見ると薄闇の中、確かにあったはずの塔の扉は消え、そこには周囲と同じ、ただの青い壁が続いているだけだった。

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Unnamed Memory VI 名も無き物語に終焉をの書影
Unnamed Memory V 祈りへと至る沈黙の書影
Unnamed Memory IV 白紙よりもう一度の書影
Unnamed Memory III 永遠を誓いし果ての書影
Unnamed Memory II 玉座に無き女王の書影
Unnamed Memory I 青き月の魔女と呪われし王の書影