4.湖の畔 ⑩

 戦闘用の装備を整えていたのは知っていたが、まさか一人でそこまでやって来るとは思わなかった。啞然とするオスカーに、ティナーシャは目を閉じて微笑する。


「また数十年後に同じ手間を踏みたくないですからね。あ、封印解除を狙ってた魔法士たちは、死体を地中に置いてきちゃいました。未回収ですみません」

「それは構わないが……無茶するなよ」

「余裕!」

「大怪我してたじゃないか」


 当然の突っこみに魔女は舌を出す。そんな彼女に、オスカーは姿勢を正すと言い直した。


「助かった。お前のおかげで被害が出なかった。ありがとう」


 あのまま魔獣が復活していたなら、どれだけの惨事になっていたか計り知れない。

 それを未然に収めてきた魔女は、黒い目を丸くすると相好を崩した。


「これくらい、なんでもないです。魔女なんですから」


 彼の負う重みを気にも留めず、守護者である彼女は綺麗に笑う。そんな魔女の黒髪を、シルヴィアが小さなはさみで前と同じ長さに梳いてくれていた。

刊行シリーズ

Unnamed Memory -after the end-VIの書影
Unnamed Memory -after the end-Vの書影
Unnamed Memory -after the end-Extra Fal-reisiaの書影
Unnamed Memory -after the end-IVの書影
Unnamed Memory -after the end-IIIの書影
Unnamed Memory -after the end-IIの書影
Unnamed Memory -after the end-Iの書影
Unnamed Memory VI 名も無き物語に終焉をの書影
Unnamed Memory V 祈りへと至る沈黙の書影
Unnamed Memory IV 白紙よりもう一度の書影
Unnamed Memory III 永遠を誓いし果ての書影
Unnamed Memory II 玉座に無き女王の書影
Unnamed Memory I 青き月の魔女と呪われし王の書影