■第五話 春夏秋冬、修行修行! ③
ていうかそもそも、そんな風に彼女の運命を
そりゃあ俺はクソッタレな運命を良しとしない反逆者だよ?
けどだからといって、なんでもかんでも好き勝手に変えようなんて欲深な野望は抱いていないし、主人公に成り代わるつもりも
だから未来のヒロイン達と知り合って、キャッキャウフフと愉快にダンジョン攻略なんてのは……うえっ、考えただけでも
「面倒くさいことを考えますねマスターは。我々に手段を選んでいる余裕などないでしょうに」
「あぁ、全くもってその通りだ。この件については百パーセントお前が正しいよ。だけどな、アル。これがギャルゲープレイヤーなんだよ」
「というと?」
そう尋ねる裏ボスに、俺は自分が思うギャルゲープレイヤーの
「俺達はさ、別にゲームの主人公に成り代わりたいわけじゃないんだ。主人公とくっついて幸せに喜ぶ
「随分と
「紳士ってのは、そういうもんだ」
やれやれ、と無表情のまま肩をすくめる裏ボス様。その顔は能面のように不変だが、この数カ月間彼女と行動を共にしてきた俺には分かる。
奴はちっとも諦めていない。むしろ、やる気満々だ。
「ダンジョン攻略の為には業務パートナーの存在は不可欠です。実現不可能な人物ならばともかく、可能性のある人物まで除外する行為は人事を尽くしているとは言えません」
「いや、だから『あの子』はまだ、冒険者になってないんだって」
「であれば、彼女のご家族や知り合いを当たりなさい。
「(……んっ?)」
その物言いに思わず反応してしまったのは、彼女の
アルの正論は今日に始まったことではないし、流石にこの程度で目くじらを立てるほど怒りっぽい性ではないんでね。
気になったのは家族というフレーズだ。家族。そう、ヒロインの家族だ。
「なぁ、今って皇暦1189年だよな」
「はい。マスターの欲している答えを補足するのであれば、本編と呼ばれる時間軸のおよそ二年半ほど前に位置する時点にございます」
そう。主人公がこの街にやって来る二年半前の時間軸に立っている。
で、あれば……。
「アル。一人候補が見つかったんだが、聞いてくれるか」
「伺いましょう」
そうして俺は
向こうの世界で同じことを語ったとしても、それはただのオタトークにしかならない。
けれど、今この時この瞬間において彼女の物語を語ることには、大きな意味がある。
「……成る程。であれば、冒険者ライセンスの取得を春先に変える必要がありそうですね」
俺の話に賛同してくれたアルが早速修行プランの修正を語り始める。
その後、二人であれこれと今後のことを話し込んでいたら「二人はとても仲良しさんですね」と姉さんに微笑まれた。
なんとも複雑な気分になったが、不思議と悪い気はしなかったよ。
◆◆◆冬────飛躍の季節
雪が降り、辺り一面が白銀色に染め上げられた師走時。
俺達の修行はついに締めの段階へと突入した。
トレーニングによって鍛えられた肉体、意外な才能を発揮した
冬の修行は、そんな過去の経験を総動員しなければスタートラインにすら立てないほどの難関だった。
端的に言うと、実戦である。
裏ボスのダンジョン(正確に言うならあれは
そして────
「どうしましたマスター? そのような体たらくでは、肉まんで両手を覆ったこの私に一太刀を浴びせることなど到底
「っるせぇ!」
吹き飛ばされて雪に埋もれた身体を叩き起こし、そのまま《
「そう何度も何度もコテンパンにされる
「はい。そうであることを期待しています」
言葉とは裏腹に、奴の脳裏に食への探求心しかないことは火を見るより明らかだ。
舐めやがって。
「目に物見せてやるわっ!」
木剣を正眼の位置に構え、そのままあらん限りの気合と共に振り上げる。
奴との距離は約三十メートル。このまま剣を下ろしても到底アルの所までは届かない。
ならば。
「ぉぉおおおおおおおおおおおおおおっ!」
そう。届かないのならば近づけば良いだけだ。
振り上げから振り下ろしまでの僅かな間隙で三十メートルの距離を埋めるべく、俺の身体は早風のように疾駆する。
使用した術は先の《脚力強化》と固有スキルの《時間加速》。
放出系のスキルが苦手な俺がどうにかして時間操作能力を活用すべく編み出した必殺コンボだ。
《時間加速》は読んで字のごとく周囲の時間の流れを速める空間支配術のことなのだが、俺はこれを体内の時間経過速度────つまり俺の時間だけを早めることで単一の強化系スキルの範疇に収めることに成功。しかもその加速量は
更に駄目押しとばかりに付与された《脚力強化》の術のお陰で、俺の身体は尋常ならざる速さで三十メートルという距離を踏破する。
常人から見れば、まるで時が止まったかと錯覚するような一瞬の移動。
技体合一の合わせ技により見事アルの背後を取った俺は、そのまま彼女の後頭部に木剣を振り下ろし────
「良い攻撃です。私でなければ成功していたでしょう」
避けられた。あっさりと。流石は裏ボス、近接戦闘もお手のものってか。だけど……
「(そう来ると思ったぜっ)」
俺は内心でほくそ笑みながら、飛んできた裏ボスの回し蹴りを後方宙返りで回避する。無論、ただバク宙を決めるだけでは隙をつかれてお終いだ。だから俺は、即座に腰に差し込んでいた『レーヴァテイン』を握り込み、着地地点に向けて一閃。
「ふむ」
案の定、アルは俺の着地場所を狙って攻撃を仕掛けてきた。スカートに包まれた美脚を
天に昇る白髪の女神の蹴撃と、天から
「(取った!)」
「甘いです」
ぐしゃり、と俺の腹部に痛烈な一撃が入り込む。
吹き飛ばされる肉体。雪原にめり込む筋肉マッチョ。寒い。《時間加速》で自分の時間を弄っているからすぐに身体が冷えるんだ。
「畜生! これでも駄目かぁっ!」
肺に入り込む空気の冷たさを感じながら、俺は何度目かのアタック失敗を実感した。



