02 月曜日 ①
「おは」
教室について後ろに座る悪友ナット、
「おは。昨日はキャラクリだけで終わったのか?」
「いや、ちゃんとインしたぞ」
「キャラ名プリーズ」
「ゆうた」
「ふざけんな」
はぐらかしたところでチャイムが鳴ったので、続きは休憩時間に持ち越しになった。
「で、キャラ名なんなんだよ」
「いつもと同じショウだよ」
「どこでスタートした?」
うーん、後でバレるとうるさいし、ナットには本当のことを話しておくか。
「あー、実はな……」
かくかくしかじか……
「マジか。あの無人島発見とかいうワールドアナウンスお前か」
「マジ。それ俺」
「うーん、俺もキャラ作り直すか?」
ナットが真剣に悩み始めたので慌てて止める。
てか、無人島発見はワールドアナウンスで流れてたのか。まあいいけど。
「やめとけ。つか、来んな。俺はIROでぼっちを楽しむんだ」
「ひねくれてんな。まあいいや。そのうち海を渡って押しかけてやるからな」
頑張れ。あの地図を見た限り、俺の島にたどり着くまでにサ
「
ナットとだべっているところに急に声をかけられた。相手はクラス委員長の
「ん、いいんちょ、どうしたの?」
「あなた、今日の日直でしょ。おしゃべりしてたけど、ちゃんと授業報告出したの?」
「うわ、マジか。ごめんごめん」
日直だと授業ごとにその内容を、担任に報告しないとなんだけど、すっかり忘れてた。
どうせ学校で把握してるんだから、いちいち生徒を経由させるなよって思うんだけど、しきたり的なものだからしょうがない。
「あれ? 終わってる」
っていうか、もう一人の日直、
ちゃんと謝っとかないとと思ってクラスを見回すが姿が見えない。
うーん、まあ、次の休憩時間に謝るか……
二限の授業が終わって速攻ダッシュ。一番前の席の出雲さんと対面できた。
「さっきはごめん。二限の授業報告は俺がやるから。交互でいいよね?」
ぼさぼさの髪は
「ぁ、はぃ……」
消え入るような声でそう答えた出雲さんは、そのままふいっとクラスを出ていく。
「あれ? 出雲さんは?」
「ああ、俺が授業報告出すって言ったら、どっか行ったけど?」
通りかかったいいんちょから聞かれたので、あったことをそのまま言う。
それを聞いたいいんちょはちょっと困ったような顔をした。
「なあ。出雲さん、なんかあったの?」
「なんかって何よ?」
「いや、ほら、イジメとかさ……」
「はあ? 私が委員長してるのにそんなことあるわけないでしょ! 彼女、まだクラスに
さすがいいんちょ。クラスの掌握に余念がない……
「とりあえず、いいんちょが友達になればいいじゃん」
「そう思ってるんだけど、なかなかタイミングが合わなくて。話しかけようと思ったらいないんだもの」
「へー、まあ、そのうち話せるでしょ」
そう返すと、めちゃくちゃ大きなため息をつかれた。
え、俺、なんか間違えたこと言ったっけ?
「お前、今日の昼飯どうすんの?」
四限が終わり昼休みに入った瞬間、ナットが聞いてくる。
どうすると聞いてくると言うことは、ナットも未定なんだろう。
「んー、購買でいいんじゃね」
「おけ、行こうぜ」
「待て待て、俺は日直だから先行け」
そう言ってナットを追い払う。
三限の授業報告は出雲さんにやってもらったので、四限は俺の番になる。
出雲さんの方を見て大丈夫と頷くと、出雲さんはそれを見て安心したのか教室を出ていった。
さっさと授業報告を提出して購買へと向かうと、そこには既に人だかりができている。
お、前の方にナットいるじゃん。まあ、ここから頼むのはルール違反だしやんないけど。
この学校の購買、人気商品はすぐ売り切れるけど、全商品完売になることはないのでまったりと待っていれば大丈夫だ。俺に好き嫌いはない。あんまり。
前方の人だかりがはけて、さて何を頼もうかなと見回すと、出雲さんがパンを持ってあわあわしているのが目に留まった。
声が小さくて売り子のおばちゃんに気付いてもらえてないのか……
「出雲さん、これ買うの?」
「ぇ、ぁ、はぃ……」
「おばちゃん! この子、これ!」
「ああ、はいよ。ごめんね、気がつかなくて」
無事に買えた出雲さんは、何度も何度も頭を下げてから去っていった。
さて、俺は何にしようかな……
◇◇◇
「ただま」
その声に二階から妹の
「兄上! お
夕飯を作るのは俺の仕事だ。いや、仕事ってなんだ。
うちの大黒柱である母さんの長期出張に、専業主夫の
「それは了解なんだけどさ。……お前、来年受験じゃなかったっけ?」
「いかにも!」
中二は過ぎたはずなので、中二病は卒業するべきなんじゃないかと、兄は愚考するわけだが……
「まあいいや。晩飯何がいいの?」
「カレーを所望する! 具材は購入済みだ!」
「はいはい。妹君のおっしゃるままに……」
台所に行くと根菜各種と鳥もも肉が置いてあった。チキンカレーを御所望か、めんどくせえ……
「お前、洗い物か風呂掃除のどっちかはやれよ?」
「心得た! 風呂掃除は任されよ!」
おかしい。この中二妹が中学の全国トップの天才とは思えない。
いや、やはり天才となんとかは紙一重というやつなのか……
「ところで兄上はIROを始めたのか?」
「ん、まー、始めたけど」
「我もプレイしたいのだが?」
「お前、限定オープンに当選してんの?」
今、IROをプレイできるのはクローズドベータ組一万人と、限定オープンに当選した五万人。俺はそれに当選してるからプレイできてるんだけど……
「無論、当選しておるぞ」
「だよなあ」
こいつのLUK=幸運値の高さからしたら当然だよな。
「なら、やればいいじゃん。お前、多少遊んでてもいい高校行けるだろ」
「高校は兄上と同じ高校にするのだが?」
「おい、待て。お前、
「もちろん。言い負かしたが?」
そうだった。親父はこいつにめちゃくちゃ甘いし、弁論で勝てるはずもない。
「まあいいよ。俺のキャラ見つけたら一緒に遊んでやるから」
「クックック、言質とったどー!」
いいから、大人しく座ってろ……
◇◇◇
「やっとインできた。配信どうするかな……」
昨日のミオンさんはまた来るとか言ってたんだよな。
うーん、まあ大勢に見つかってめんどくさくなったら、配信やめればいいか。当面はデフォルト設定のまま垂れ流しにしとこう。
それはそれとして、昨日作りかけだったテントを作らないと。
放置してあった流木は……っと残ってるな。よしよし、一安心。
「ふんふん〜♪」
流木を三脚に二組作ると、その上に背骨となる流木を渡してフレーム完成でいいだろう。あとはこれに布がわりの……やっぱ葉っぱしかないかな……
ま、テントに近いところから葉っぱ探しつつ島の探索かな。と、視聴ユーザーが一人になった。
【ミオンが視聴を開始しました】
『こんにちは』
「こんちわ〜」
『気になったので見に来ました』
「どもっす。あんまり面白くない気がするけど」
『そんなことないですよ』
酔狂な人だなと思いつつサムズアップしておく。
「さて、まずは島の南東側から探検しますか」
セーフゾーンは南の砂浜。反時計回りに行くことにする。
昨日ちょっとだけ奥へ進んだ林は基本的に南国系の樹木が生い茂っているので、このあたりのでかい葉っぱを持って帰れば良さそうだな。
「お、兎だ」
投石からのダガー。はい、解体。お肉ゲトー。
インベに放り込んでさらにさらに奥へと進む。
「んー、インベントリって増えるのかな?」
『バックパックとか装備するらしいです』



