06 金曜日 ①

 ミオンと一緒に登校するのも三日目? 四日目だっけ?


「ふぁ……」

「眠そぅ」

「あー、うん。あのあと妹に動画がバレて、説明っていうか口止めに時間取られた」

「?」

「あー、うちは姉と妹が一人ずついるんだけど、両方とも母親似ですごいわがままっていうか……キャラが濃いんだよ」


 姉の真白は姉御系女子だし、妹の美姫は中二系女子。振り回されるだけの人生を送ってきましたってやつだ。


「真白姉が大学行って寮生活してくれるようになって、やっと自分の時間ができた感じかな」


 そんな話をしながら教室に到着。いや、ミオンはリアルではほとんど喋らないし、俺が一方的に話してる感じになってる。

 ……愚痴をこぼして聞いてもらうってのは、普通は男女逆な気がするな。


「じゃ、また後で」

「ぅん」


 トテトテと一番前の席へと行く後ろ姿を見送るんだけど、彼女が動画のミオンだとは誰も思わないよな。



「おは」

「おは。ショウ、動画見たぞ」


 ナットも無人島スタートの動画を見たらしい。まあ、IROの情報追いかけてたら気づくか。


「くれぐれも内緒で頼むぞ?」

「もちろん。で、アレって出雲さんか?」


 小声で聞いてくるナットに頷くと、すっごく不思議そうな表情に変わる。

 こそこそとあれ自体が部の活動だということを─ベル部長のことは伏せて─伝えると、案外すんなり納得してくれたっぽい。


「……女の子は化けるっていうしな。それより頼みがあるんだが、お前の方で手に入れた攻略情報をできれば先に教えてくれ」

「んん? 普通にプレイしてるお前に役に立つ攻略情報なんかあるのか?」

「そりゃあるだろ」


 ナット曰く、店での買い物やらNPCで済ませてることを、プレイヤーが自力でできるようになればって話らしい。


「生産系は特に情報が足りてないんだよ。ポーションやナイフなんかはやっとプレイヤー製のが売られ始めたところだな」

「へー、やっぱ高性能だったりすんの?」

「らしいぞ。クローズドベータからやってた連中が情報を握ってるせいで、詳しい話が見えてこないのがつらい……」


 ふーん、先行者利益ってやつか。確かベル部長もクローズドベータ参加組だったよな。

 一応、確認してからの方がいいか……


「わかった。けど、俺一人で決められることでもないし、部のみんなと相談させてくれ」

「おう」

「はーいー、朝のホームルーム始めますよー」


 そこまで話したところで、担任のヤタ……熊野先生が来て、話はお開きになった。


◇◇◇



「ん……」


 ミオンが部室の鍵を熊野先生から受け取ったらしく、それをちょんと見せてくれる。


「じゃあな、ナット。また明日」

「おう、またな」


 ミオンがぺこりと頭を下げてから後ろをついてくるんだけど、奴にそんな律儀なことしなくていいよ?


「?」

「ううん、なんでも。とりあえず部室行って……やること結構多いなって」


 それにこくこくと頷き返してくれるミオン。

 一番気になってるのはIROで助けた仔狼。昨日のログアウト時にテントの中に残してきたけど、ログインしたらいなくなってたりすると凹む……

 それに動画の再生数とチャンネル登録者数がどれくらい伸びてるかも気になる。

 そういえば昨日、ミオンが次の動画を編集してたけど、いつアップするんだろ?

 あとはナットに頼まれた俺が見つけた情報のこと。俺的にはさっさと拡散してもらう方が助かる。そんなことで恨まれるのも嫌だし。

 まあ、部のみんなで相談してからだよな……



「ん」


 おっと、考えごとしてる間に部室に着いてしまった。鍵を開けて中に入ったミオンがそそくさと自分の席へと座ってVRHMDを被る。

 とりあえずベル部長が来るまではリアルビューで初回の動画の確認かな?


「うわ、一五万再生超えてるし」

『チャンネル登録者数も四〇〇〇人に近づいてます』

「コメントの数がやべえ……」


 コメントもすごい数だけど、だいたいは「ミオンちゃんかわいい!」って感じなので一安心。

 残りは「どうやって?」とか「教えてくれ」とかそういうのが多い。別に無人島スタートの方法は教えてもいいんだけど、俺のいる島に来られるのは困る……


「はー、最初の配信でバレなくて良かったわ」

『私にはバレてましたよ?』

「はい、そうでした……」


 ザーッと流し読みした感じ、強烈にディスってくるコメントはないっぽい。やっぱりミオンっていうクッションがあるからだよな、これ……


『ショウ君、これ次の動画です。見てもらえますか?』

「りょ」


 次にアップ予定の動画を二人で視聴。

 内容は島の(多分?)南東側、南国風の密林地帯がメイン。ゴブリンを見つけ、尾行してゴブリンの集落を見つけるあたりがハイライトかな。


「いいね。最後、あの微妙なテントで終わってるのも笑えていいと思う」

『はい』


 そんな話をしてると、扉が開いて入ってきたのはベル部長。


「二人とも早いわね」


 そう言って急いで席に着いてVRHMDを被る。


「次の動画かしら?」

『はい。部長も確認してください』

「ええ、見せてもらうわ。二人はIROしてきていいわよ。入部希望者が来たら私が対応するから」

「ああ、その前にちょっと質問というか相談が……」


 ナットから頼まれていた件を話しておくと、


「あー、それね。ショウ君が無人島で手に入れた情報に関しては、好きにしてもらっていいわよ」


 とあっさり。


「クローズドベータ組から恨まれたりしません?」

「ショウ君の場合は恨まれても無人島に来られなければ大丈夫でしょ。私も私の懇意にしてる生産組も先行者利益は取りすぎない程度にしてオープンにしてるわ」


 ベル部長曰く、投資したコストに見合うリターンが得られれば、視聴者にその情報を提供した方が固定客もつくとのこと。


「あー、攻略情報を知りたくて、チャンネル登録してくれる人が増えるってやつですか」

「そういうことね。ショウ君がその前に友人のナット君に話すのはいいけど、彼にもそのことは理解しておいて欲しいかしら」

「りょっす」


 まあ、俺のゲームプレイの動画から独占情報が漏れても誰も来られないからいいか。

 逆に先にナットがそれを拡散しちゃうと、ナットの方にめんどくさい連中が集まりかねないんだよな。


『ショウ君、もういいですか?』

「ああ、ごめん。じゃ、IRO直接行くよ」

『はい』


 あの仔狼、いなくなってないといいんだけどな……


◇◇◇



「ふう、今日もテントは無事か……」

「ワフッ!」

「おわっ!?」


 上体を起こしたところに急に飛びついてきたのは、昨日助けた仔狼。そのまま顔をめまくられる。


『ショウ君、まだですか?』

『ああ、ごめん。ちょっと待って』


 急いで配信をオンしたいんだけど、顔の前に仔狼ががが……


「見える?」

『ショウ君、こんにちは。って、その子は昨日の子ですか!?』

「うん。いきなり飛びつかれて……おいおい、もうわかったから」


 仔狼を持ち上げて─うん、男の子だな─あぐらを組んだ足の真ん中へ下ろす。


『怪我は治ってそうですね』

「かな」


 仔狼を見てみると……


【狼?】


 相変わらず「?」がついたまま。軽傷って表示が消えてるのはいいんだけど、表示の枠が白から緑に変わってる。


「この枠が緑なのなんだろ? 確か赤は敵、白はノンアク、青がプレイヤー、黄色はNPCだったとおもうけど。ミオンは何か知ってる?」

『私もわからないです』


 うーん、可能性としては友好的って感じかな? だとしたら……

 スキル一覧を開いて探すのはもちろん調教スキル。取れるなら明るくなってるはず!


「来た! 調教スキル! 必要SP9!?」


 普通のスキルがSP1だから九倍かよ! これレアスキルってやつだよな。コモン、アンコモン、レアで、1、4、9って感じなのかな。


『ショウ君、取るんですか?』

「そりゃ……取るでしょ。この子、飼いたいし!」


 覚悟を決めて取得! オッケ! 残りSPが一気に18まで減ったなー。


「えーっと、どうやるんだこれ?」


 とりあえず仔狼を見てみると、


【狼:NONAME:友好(テイム可能)】


 おお! じゃ、さっそくテイムしてみるか。

 ……いや、どうすりゃいいんだ? うーん、とりあえず?


「えっと、俺の相棒になってくれる?」

「ワフッ!」

刊行シリーズ

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