06 金曜日 ②
【テイムに成功しました。名前を決めてください】
「え、名前? やばい、全然考えてなかった!」
ひょっとしたらとは思ってたけど、いきなりここで名前を決めないといけないとは思わなかった。
『あの……名前考えてきるんですけどダメですか?』
「え、考えてくれてたの?」
『はい。ルピはどうでしょう?』
「うん、決定」
さすがっていうか、可愛いしちょっと強い感じもするいい名前。
俺のネーミングセンスだとなんの
「じゃ、お前の名前は『ルピ』だ」
「ワフ〜」
【狼?:ルピ:親密】
おお、相変わらず『?』ってついたままだけど、ちゃんと名前設定されてる。やばい、すげえ嬉しい。とか思ってたら……
【調教の先駆者:10SPを獲得しました】
「えっ!?」
『すごいです!』
調教スキルを取って減ったSPが28に戻った。ってか、取る前より1増えてるんだけど、バランス的にいいのかこれ?
それに、誰か普通のゲームプレイしてる人が馬とか調教してそうな気がしてたんだけどなあ……
「ワフ?」
「ん? なんでもないぞ」
ゆっくり優しく撫でてやると、気持ち良さそうに目を細めて尻尾を振る。やばい。もうずっとこうしてたい……
『かわいいです〜』
「うう、ずっとこうしてたいけど、今日はどうしたもんかな……」
ルピを撫でつつ考える。
西側はもう少し奥まで探索を進めたいんだけど、今からだと時間的に微妙かな?
『とりあえず、ルピちゃんのために兎狩りはどうでしょう?』
「あ、そうだった。てか、お腹空いてるよな?」
「ワフン!」
だよなあ。この中にいたってことは食ってないんだろうし。
「ちょっと待ってろ」
インベから兎肉を取り出して、前と同じようにひき肉にしてやる。
作業してる間はずっとお座りで待っているあたり、ちゃんと調教スキルが効いてるっぽい。
「よーし、食べていいぞ」
そう言うと、肉に飛びついて貪り始めるルピ。水も入れてやらないとな。
「俺がログインしてない時、ルピはどうしてるんだろう?」
『ショウ君のそばにいるんだとは思いますけど……』
うーん、その間の分の兎肉を置いといた方がいいのか?
「まあゲームだし、丸一日ぐらい食べなくても大丈夫なんだろうけど……」
『ルピちゃんが自分で兎を狩れるようになれば大丈夫じゃないでしょうか?』
「ああ、そっか」
狼なんだし、これから大きくなれば兎……バイコビットぐらいは普通に狩れるよな。
「ルピ。飯食ったら狩りに行くぞ」
「ワフッ!」
お? なんか顔つきがちょっと
『怪我が治ったばかりなんですし、あんまり無理させないでくださいね?』
「はいはい。東側の浅いところで様子見るよ」
俺がある程度ダメージ与えてから、ルピに止め刺させた方がいいのかな? てか、ルピにレベルとかあるんだろうか……
◇◇◇
ウサギモンスターのバイコビットを狩り続けること小一時間ほど。
【キャラクターレベルが上がりました!】
「お、キャラレベ上がった」
『おめでとうございます!』
「ありがと。でも、やっとレベル3だもんなあ」
ベル部長は今レベル7とかだっけ?
クローズドベータは二週間あって、レベル5が上限だったらしい。そのキャラとレベル・ステータス・スキルを引き継いでるって話なので単純比較はできないけど。
それでも、5から7は1から3よりは経験値必要だろうし、それをオープンして六日でってことは……割と廃プレイしてるんじゃなかろうか?
「今回も全部ステータス行きでいいか」
スキル取得用のSPは28も残ってるもんな。
また、STRに3、DEX・INT・VITに2ずつ、AGIに1、LUKはスルー。キリもいいし、この辺で終わりにしとこう。
「さて、帰るか。ルピ!」
「ワフッ!」
こういうのって最初は弱らせた獲物で遊ばせる感じだったよなあと、バイコビットで試してみたら、ルピがあっさり勝ってしまった。
なんで、普通に戦わせたら、特にフォローする必要もなく勝利するし。俺と同じくらい強いよな……
『ルピちゃん、強いですし、賢いですね』
「すごいよね。言ってること理解してくれるのは、やっぱり調教スキルのおかげなのかな」
俺がログインしてなくても、自力で狩りができそうで一安心。けど、あの奥にはゴブリンの集落があったからなあ。
「ルピ、お腹空いたら狩りに行ってもいいけど、奥の方へは行くなよ?」
「ワフン」
うん、賢い。俺より賢いかも?
「そろそろ時間だよね?」
『はい。今五時半前です』
「じゃ、キリもいいから上がるよ」
『はい』
就寝ログアウトにゴロンと横になると、隣に寝転ぶルピ。
うーん、やっぱ早めにログハウスぐらいは作って、そこでのんびりライフがしたいな……
◇◇◇
IROをログアウトしてリアルビューに戻ってくると、いつの間にかヤタ先生が部室にいた。
まあ、いつの間にっていうか、俺がIROしてる間になんだろうけど。
「お二人とも戻ってきましたねー。ちょうど良かったですー」
「……何かありました?」
「次の動画を上げる前にー、チャンネルの方でお知らせを出して欲しいんですー」
お知らせ? 何それ? と思ったら、
『コミュニティーに投稿でいいんでしょうか?』
「はいー、文面はこちらで考えておきましたのでー、目を通してもらえますかー」
と、ヤタ先生から送られてきたテキストに目を通す。えーっと、なになに……
『チャンネル登録をしてくださった皆さま、ありがとうございます。
次の動画投稿をする前に、皆さまにお伝えしておきたいことがあります。
知人より、ゲーム内や各種SNSなどで、私やショウ君やその友人を
現在、私ミオンとプレイヤーのショウ君は、このチャンネル以外での情報発信はしておりません。誤った情報に
今後とも、本チャンネルをよろしくお願いします。 ミオン』
……マジかよ。
「そんなことにまでなってるんすね……」
『ビックリです』
「愉快犯ですねー。キャラクリ時の名前が重要だとかー、そういう全然根拠のない話に踊らされた人がそれなりにいるようですー」
まあ騙されたってのはすぐわかるだろうし、キャラの作り直しはできるけど、それでもムカつくよな。
『先生、一点だけ修正しました』
ミオンの言葉で改めてテキストを読み直すと、最後が『ショウ&ミオン』って変更されてた。それいる?
「ショウ君は気になる点はありませんかー?」
「大丈夫す」
「じゃー、コミュニティーに記事として投稿しておいてくださいー。あ、動画も今あげてしまって大丈夫ですよー。私も確認しましたからー」
というわけで、お知らせと次の動画をアップし始めるミオン。
うーん、個人的にゲームの外にまで影響が出るようなことは避けたいんだよな。攻略情報がリアルマネーでなんて話は本当に聞きたくないし。
「無人島スタートの方法は公開した方がいいんですかね?」
「それもいいけど、その前に確認しておきたいことがあるわ」
「ショウ君がいる島に新規プレイヤーが入れるかどうかですねー」
ベル部長がIROから戻ってきたのか会話に参加。そういやもう部活終わりの時間だから上がったんだった。
「ええ、製作側の意図として、無人島スタートはお一人さま限定の可能性が高いわ。何人も入れるようなら、プレイヤーが殺到しかねないもの」
「ゲームバランスの観点から考えてもー、一人しか入れなくしてある可能性が高いでしょー」
「なるほど……」
そんなこと
『でも、どうやって調べるんでしょう?』
お知らせと動画の投稿が終わったっぽいミオンが質問する。
それなんだよな。IROは今のところ、1プレイヤー1キャラクター固定。サブキャラなしというガチ設定。
キャラクターの作り直しはできるけど、もちろんその時は前のキャラを消さないとダメっていう……



