06 金曜日 ③
あれ? さっきの話、
そうなるとベル部長はキャラ削除は絶対にしないだろうし、ヤタ先生がやるとか?
「ミオンさんはまだIROプレイしていないでしょー?」
『はい。でも、ソフトを持っていないんですが』
今はクローズドベータと初期リリース限定プレイヤーの合計六万人に制限されてて、新規は受け付けてないはずなんだけど。
「新入部員用に限定オープンに参加できるソフトを一つ調達済みよ。ショウ君が無人島から出てきた時に、ミオンさんも一緒にプレイできる方がいいでしょう?」
『はい!』
いや、俺、無人島から出られるようになっても、出るとは限らないんですけど……
それはそれとして、
「えっと、無人島スタートって結構めんどくさいんですが、どうやって伝えれば?」
「ミオンさんにIROをグループ配信にしてもらってー、その場でショウ君がキャラクリエイトから無人島スタートする方法を教えてあげてくださいー」
「なるほど。それなら多分大丈夫……かな」
スタート場所を選ぶマップを拡大して、たくさんある島からスタート地点を探すだけ。なんだけど、俺、めちゃくちゃ時間使ったからなあ……
◇◇◇
「じゃ、私はここでね」
「え?」
「?」
部活終わりの後は、ヤタ先生を職員室に見送って、ベル部長、ミオン、俺で下校って感じだった。少なくとも昨日までは。
三人とも電車通学。俺とミオンは同じ駅で、ベル部長はさらにもう二つ向こうなので、自然とそうなる感じだったんだけど。
「調理部の子に試食に誘われてるのよ。うちの部が終わった頃がちょうどいいって。ああ、二人も来る?」
「あ、いえ、俺も帰って夕飯作らないとなんで。帰りにスーパー寄らないとだし」
美姫がちゃんとサーロインを買ってきてるなら、ステーキ焼くだけだろうけど、さすがに肉だけってわけにもいかない。野菜を食わさねば……
「……そんなこと話したら、調理部にショウ君を取られるわね」
「勘弁してください。家で作るので間に合ってます」
料理するのが嫌いってわけじゃないけど、部活でまでやろうとは思わないかな。
あ、でも、部活で作って持って帰れば、夕飯のおかずが一品増えたりするか? それもなんか違う気がするな……
「……」
「うわっ、ごめん」
しょうもないことを考えてたのがミオンにバレたのか、下からじっと
「じゃ、おじゃま虫はこの辺で。ごゆっくり〜」
そう言ってニヤニヤしつつ去っていくベル部長。
どういう意味だよ、それ……
◇◇◇
「ゅぅはん?」
「今日は妹の要望でステーキなんだけど、まあ、ちょっといろいろあって……」
「?」
学校から駅までの通学路。ミオンとの無人島動画が妹にバレて、それを黙っててもらう代わりに、今日の夕飯がサーロインステーキな件を話す。
「ぁ……」
「ああ、別に気にする必要ないから」
俺もまさか無人島スタートが成功すると思ってなかったから、美姫に何も話してなくて悪いなって気もしてるし。
駅の改札を抜けてホームへ。
ちょうど来た電車はそれなりに空いてて……
「ミオン、座って」
こくりと頷いて座ったミオンが手を差し出すのでかばんを預ける。
主に
「買い物……」
「うん。駅のそばにスーパーあるからそこで」
「っぃてく……」
「え?」
買い物についてくるってこと?
何か欲しいものとかって場所じゃないし……動画を口止めしてる件を気にして?
「いや、一人で大丈夫だけど」
そう言ってはみたものの、ぶんぶんと首を横に振るミオン。
そのままじっと見上げられ……
「あ、うん、いいけど、別に楽しいものでもないよ?」
「ぅん」
まあ、それでミオンの気が済むならいいか。
◇◇◇
「レタス、キャベツ、にんじん……、あとブロッコリーか」
俺と美姫の分だから、大量に買うわけでもないんだけど、かごを乗せたカートを押してるミオンがちょっと楽しそう。
学校帰りでなければ、土日の分の食材も買い込んでおきたいけど……明日でいいか。朝はご飯とたまご焼きに味噌汁ぐらいで済まそう。
「あとは会計だけだから」
「ぅん」
もう大丈夫って意味なんだけど、最後まで付き合ってくれるっぽい。
まあ、レジを通過して、カードで払って、袋に詰めるぐらいしかないんだけど。
「あ、ごめん。ちょっと俺のかばん取って」
「はぃ」
預けてあったかばんをミオンから受け取り、中のエコバッグを取り出す。
こんなの持ち歩いてる男子高校生って俺ぐらいだよな……
ピピッ
レジを通った先にあるディスプレイに、買った物一覧が表示されるのでチェック。誤認識がないのを確認して、財布から取り出したカードを挿す。
『ご利用ありがとうございました』
音声が流れて支払い完了。レシートはカードの利用記録で詳細チェックできるから不要を選択。あとは詰めて持って帰るだけ。
「ん」
「あ、いやいや、こういうのは型崩れしないものを底にしないと」
ミオンがかごから取り出して渡してくれるんだけど、袋詰めにも順番というものが。レタスを底に入れると、重みで割れて
なるほどという顔で頷いてるミオンだけど、スーパーで食材買ったりしたことないのかな?
いや、ネットで買う家の方が多いか。ミオンちはそっちなんだろうな。
「ん? どうかした?」
買ったものを渡す手が止まって、どうしたのかなと思ったら、ミオンの目線が俺の右後ろに……なんだろ?
「これはどういうことかしら?」
「え、いいんちょ? いや、どういうって……」
ミオンを見るとにっこり笑顔。
この後、無茶苦茶言い訳しました……
◇◇◇
「ただまー」
「兄上おかえり! 肉はちゃんと買ってきておいたぞ!」
「おっけ。じゃ、さっそく夕飯の支度と行きますか」
制服から普段着に着替え、その上にエプロンを。
冷蔵庫を開けると、そこにはお高いサーロインが……二枚?
「ん? お前、俺の分も買ってきてくれたの? その分でもう一段上の肉買えた気がするんだけど」
「目の前で兄上に羨ましそうな目で見られては、せっかくのA5牛が台なしゆえのう」
「……ありがとな」
気をつかってくれたってことか。どうせ親父の小遣いが減るだけなんだけどな。
「か、勘違いしないでよね! 感謝されて嬉しいわけじゃないんだからね!」
「安っぽいツンデレやめろ」
そう返してやるとケタケタと楽しそうに笑っている。ったく、しょうがない妹君だな。
◇◇◇
「ふう、食った食った。やっぱ高い肉はうめーな」
人間って牛肉食べた時だけ、脳内に幸せ物質が出るとか聞いたことがあるけど、今日はそいつも特上だった気がする。
「ときに兄上、新しくあがっていた動画を見たぞ」
「お、どうよ?」
「ゴブリンを見つけても倒さず、後をつけたのはさすがであった。次が気になる展開ではあるが」
ゴブリンの一匹や二匹なら、キャラレベ1でも普通に勝てるらしい。けど、あそこには二〇匹ぐらいいたはず。
「さすがに一対二〇は厳しいんだよな」
「集落となると特殊なゴブリンもおるやもしれん」
「まあクエストなんだろうな」
ゴブリンを掃討せよ的なクエをベル部長もやってたし。倒せば何かしらお宝があったりしないかな。
「ふむ。我に一つ案があるのだが……」
「お、マジか」
生意気な妹だが、ゲームは明らかに俺よりうまいし、何より一人で考えるよりもよっぽどいい。
そこから話し込むこと小一時間で八時過ぎ。『無人島スタート検証』をやる予定だったのを思い出し、慌てて洗い物をして、なんとかギリギリで間に合ったのだった。
◇◇◇
「あー、もうちょい左。その辺、もう少し拡大して……」
『あ、この島ですか?』
「いや、その左。えーっと、西南西にもう少しスクロール」
現在、ミオンがキャラを作り終えて、スタート地点選択画面。
普通にやると、マップの大陸にある三つの国、グラニア帝国、ウォルースト王国、マーシス共和国をポチッと選ぶことになる。



