第2話 覚悟の担当 ③
気遣われている。アキラにもそれぐらいは分かった。罪悪感を覚えながら何とか答える。
「……分かった。疑って悪かった」
『良いのよ。私もアキラにすぐに全面的に信頼してもらえるとは思っていないわ。こういうのは積み重ねないと。お互いにね』
アルファの口調も表情も、アキラをどこまでも気遣っていた。それでアキラは少し気力を取り戻した。そして、気を切り替える為にも、空元気でも、装うだけでも意味が有る。そう思って気力を振り絞り、無理矢理笑った。
「……。そうだな。俺もちゃんと積み重ねるよ。次は、どうすれば良いんだ?」
アルファがアキラの様子を確認する。そしてその精神状態がある程度回復するまでは、下手に動かさない方が良いと判断する。
『外の状況が落ち着くまではここで待機よ。一応モンスターがこの辺りから離れていくように誘導しているけれど、それなりに時間がかかると思うわ』
「誘導って、アルファはそんなことも出来るのか?」
軽い驚きを見せているアキラに、アルファが少し得意げな笑顔を向ける。
『相手と状況によるけれどね。あの機械系モンスターは、自動操縦で外敵を襲い続けるタイプの自律兵器よ。その類いの機械は周囲の状況を把握する為に、映像を含む外部情報を周辺の監視装置からも取得している場合が有るの』
ある意味で、アキラも似たような原理でアルファを認識している。だがそこまでは気付けずに、単に興味深く話を聞いていた。
『今回は運良くモンスターの映像処理に使用される外部映像に割り込めたわ。あのモンスターは偽物のアキラの映像に向かって攻撃し続けているはずよ。初めの攻撃もそれでアキラの位置を誤認させたのよ』
そんなことまで出来るのかと、アキラは更に驚いた。するとアルファが少し意味深に笑う。
『自身の視覚情報のみで判断するタイプのモンスターだったら無理だったわ。危なかったわね』
アキラが少し怪訝な顔になる。
「……もし、そっちのタイプだったら、俺はどうなっていたんだ?」
アルファが笑ってはっきりと答える。
『勿論、あの砲撃が直撃して
「そ、そうか」
アキラは少し顔を引きつらせた。だがアルファの明るい態度に
『もう少し話でもしましょうか。そうね。何か私に聞きたいこととかは無いの? 何でも良いわ。適当に言ってみて』
何でも良いと言われてしまうと逆にすぐには思い付かない。しかし優しく微笑みながら質問を待っているアルファを見ると、特に無いと答えるのも躊躇ってしまう。これも一応はアルファの指示であり、積み重ねる為に、その指示に応えないといけないとも思う。
アキラは聞くことを探してアルファとの出会いから思い返してみた。そしてあることを思い出した。
「それじゃあ聞くけど、アルファと初めて会った時、何で全裸だったんだ?」
アルファは今も服を着ている。出会った後もすぐに服を着た。つまり意図的に全裸だったことになる。あの時は余りの衝撃でそれどころでは無かったが、今になって思い返せば非常に不自然だ。
アルファが少し不敵に悪戯っぽく微笑む。その様子をアキラが少し怪訝に思った途端、アルファは服を消して、その魅惑の裸体を露わにした。
アルファは恥じらう様子も見せずに惜しげも無く肌を晒し、
『どう?』
驚きながらも見惚れていたアキラが、我に返った途端に慌て始める。
「どうって……、いや、良いからまずは服を着てくれ!」
アルファは満足そうに微笑むと服を元に戻した。
『なかなか魅力的な体でしょう? 人目を引くと思うでしょう? 注目を集めるとは思わない? あの時のアキラも、周りより私の方をよく見ていたしね』
「し、仕方無いだろう!?」
淡い光の幻想的な光景より、アルファの裸体に見惚れていたのは事実だ。アキラはそれを見抜かれていたことに少し焦りながら言い訳した。
すると、アルファがアキラには意外なことを教える。
『つまり、それが理由よ。さっきの質問の答えね』
アキラが慌てていたのも忘れて少し不思議そうに聞き返す。
「どういう意味だ?」
『私の姿を認識できる人を効率的に探す方法ってことよ。遺跡に来る人はただでさえ少ない上に、私を知覚できる人は更に少ないわ。そのわずかな人が確実に反応して、加えて不要な警戒を抑えられる格好。それをいろいろ試したら、全裸が一番だったのよ』
「俺は思いっきり警戒したんだけど」
『それでも、見た瞬間に走って逃げたりはしなかったでしょう? もし私を認識した時に、その姿が銃火器で武装した屈強な兵士だったりしたら、アキラはどうしていたと思う?』
アキラはその状況を想像してみた。淡い光の中に立つ者は、見るからに重武装の屈強な兵士。周囲の幻想的な雰囲気を吹き飛ばすのに十分な格好だ。そしてそれをこっそり見ていた自分と目が合ったと考える。
「まあ、逃げるな。多分全力で逃げ出すと思う」
『そうでしょう? 私が武装していないと一目で判断できて、その上で誰かの興味を確実に引いて、私を認識していると判断できる分かりやすい反応を引き出しやすい格好となると、全裸が一番なのよ』
そこでアルファが軽く苦笑する。
『まあ、それでも、アキラにあそこまで警戒されるとは思わなかったわ。ごめんなさいね』
アキラがわずかに顔をしかめる。指摘されると確かに過剰反応だったかもしれないと思う。その説明に一応は納得もした。だが自分に裸を見せて、からかって遊んでいるようなアルファの態度に、少しだけ言い返したくなる。
「……でも、やっぱり全裸はどうかと思うぞ?」
『良いのよ。所詮は作り物。目的さえ達成できるのなら、私は気にしないわ』
「作り物?」
『ええ。私の姿はコンピュータグラフィックスで作成されたものなの。だから私の外見は自由自在に変更できるわ』
その証拠だとでも言わんばかりに、アルファがその姿をアキラよりも幼い少女のものに変えた。
アキラが驚いて思わず声を出す。
「うおっ!? アルファ、だよな?」
アルファがまだまだ幼いものの成長後の美貌を期待させる顔立ちで、それでも同一人物だと示す大人びた笑顔を向ける。
『そうよ。どう?
「えっ? ああ」
アキラは驚いてはいるが、相手の外見に対しては特に好意的な反応を示していない。アルファがそれを察して、また姿を変える。
『勿論、逆も可能よ』
少女の姿が妙齢の女性の姿を経由して、そのまま老婦へと変わる。顔に多くの
「おー、凄いな。本当に自由に変えられるのか」
アキラは感心したように驚いている。だが相手の容姿に対して、何らかの好みを示している様子は無かった。アルファはそれを確認すると、姿を一度初めのものに戻した。
『これだけではないわ。体型も髪型も、服装も含めて好きなように変えられるのよ?』
アルファが得意げに笑ってその姿を次々と変えていく。背を伸ばしたり縮めたり、痩せ気味の体型や丸みを帯びた体型にも変えていく。髪を短くしたり、床に着くほど長くしたり、明確に重力を無視した髪型にしたり、更には髪を七色に輝かせたりもした。
服装もどこかの学校の制服のようなものから、社交界で着るようなドレス、派手な水着、迷彩服、パイロットスーツ等、様々なものに変え続けた。そこには実在しているかどうかも怪しいほどに
アキラは次々に変わるアルファの姿に、初めの内はただ驚いていた。だがしばらくして余裕を取り戻すと、様々な衣装でポーズを取るアルファの姿を夢中で見ていた。
スラム街で過ごすアキラに、娯楽等は無いに等しい。踊るようにポーズを変えて、舞うように様々な衣装を身に纏うアルファの姿は、アキラを魅了するのに十分なものだった。



